明日咲く花

花より男子の2次小説になります。

まだ気づかない06 類つく

「早く、くっついちゃえばいいのに」

雪之丞は、パソコンのデスクトップ画面に映る牧野に呟いた。

本音を言えば、今だって雪之丞は、牧野が欲しくて欲しくてたまらない。十年の恋心に終止符を打つなんて、そんなに生易しいものじゃないのだから。

十年間……一番そばにいた……だからこそわかる。

「なーんで、気がついちゃったのかな。
なーんで、類さんいい男だったのかな」

本当は、最後の最後までもがきたかった。憐憫でも、同情でも、なし崩しでも……なんでもいいから、彼女が欲しかった。強引にでも手に入れたい。そう思ったのも一度や二度ではない。

「でも……そしたら、俺はつくしちゃんを永遠に失う事になっちゃうしね」

いっ時の愛を手に入れる代わりに、今まで築き上げてきた確かな絆を失うことを恐れた。

「俺が、つくしちゃんのそばに入れたのは、身の程を弁えてたから……なんだもんね」

滑稽だと心底思う。でも……好きで好きで好きで好きで堪らなかった。一生……この幸せとも不幸せとも言える、不毛の恋が続くのだと諦めていた。

それでも……あの日、類に会って話すまでは、自分が一番つくしに似合う男だと雪之丞は思っていたのだ。

「あそこで、まさか類さんが立ち止まるなんてね。それに俺がぶつかるなんて……ましてやスワヒリ語喋れるなんて……思わないよね。

思わないって言えば、まさか花沢を受けるなんて……か」



雪之丞は、牧野の初恋相手が花沢類だと知っている。


雪之丞は、牧野の17才の誕生日を祝いたくて、忘年会と銘打って牧野を誘った。
どういう流れかだったか、皆で初恋の思い出話になったのだ。牧野は「受験と寝坊と膝小僧」と答えた。意味不明だと皆は笑った。けれど……雪之丞はうまく笑えなかった。





雪之丞には、英徳学園の初等科に通うはとこがいた。雪之丞の部屋でバイト仲間達と一緒に撮った牧野の写真を見つけ

「あっ、このお姉ちゃん知ってる
先々週の土曜日、F4ファン軍団からエッちゃん守ってくれた人だよ」

「エフ……フォー?」

聞き慣れない言葉に雪之丞が聞き返せば

「あっ、そっか。雪兄、帰国子女ってやつだもんね。F4って言うのはね、英徳の超絶モテ軍団。
うんと、雪兄みたいのが4人居るんだよ
ね。オレも将来なるんだ!」

「そっか……で?」

「あぁ、うん、そのお姉ちゃんF4の花沢さん待ってたみたいで、出てきた瞬間一歩踏み出したんだけど、エッちゃんがF4ファンの人とぶつかりそうになったのを見て、かばってくれたんだよ。その時、お姉ちゃん転んじゃって膝小僧擦りむいちゃったんだよね。大丈夫だったかな?」

「先々週の……土曜日?」

雪之丞が聞き返せば

「うんっ。お昼から大雨降った日だから間違いないよ」

自信満々に口にした。

雪之丞は先々週の土曜日の牧野を思い出す。確かに牧野は、脚を引きずり、ずぶ濡れでやってきた。

「つくしちゃん、足どうしたの? それに、ビショビショ。傘持ってなかったの?」

「あっ、うん。傘忘れてて走ったら……雨で……転ん……じゃって」


そんな会話をしてたのに……

バイト帰り、雪之丞の前で、牧野は鞄から折り畳み傘を取り出したのだ。


「やっぱり……変だと思ったんだよね」

雪之丞はポツリと呟いた。



その日牧野は、受験の日に出会った類に会いに行ったのだ。
なにか目的があって会いに行ったわけじゃない。でも……会いさえすれば、何かが変わる。心のどこかで、そう思っていた。

行ってみれば、英徳の前は、黒山の人だかり。それでも……あの日出会った類の姿を見つけて、一歩前に進んだ。その瞬間……取り巻き集団に揉みくちゃにされ転びそうになってる女の子を見つけた。その子をかばって地面に転んだ牧野の前を、類が通り過ぎて行った。

地面に這いつくばる自分と、それを一顧だにもせず、通り過ぎて行った彼。少女漫画のような展開を思い描いていたわけじゃない。でも……なんだかとても惨めな気持ちで、足を引きずりながら道を歩いた。途中降ってきた大雨が、泣いてる自分の涙を隠してくれたことだけが牧野の救いだった。

バイトの間中、泣きたいのを堪えて、必死に笑った。

心が、身体が、悲鳴をあげたのだろう。バイトから帰ったあと、三日三晩高熱でうなされた。熱が引いた後に牧野が固く心に誓ったのが “大きな夢は見ない” だった。


それから一年くらい経った頃だろうか、牧野と類は再び出会う。
とは言え、この時のことは、牧野は憶えていないのだが……

バイト帰り、バイト仲間から貰ったお土産のチョコワインボンボンを牧野と雪之丞、二人揃って口に入れた。五分後、牧野は真っ赤な顔してはしゃぎ出した。


「つくしちゃん、大丈夫?」

雪之丞が牧野に振り向き声をかけた瞬間……

「雪ちゃん見て見て、陽ちゃんの好きな藤堂静さんのポスターがあるよ」

そう言うが早いか、走り出した。

走り出した先には、大きなポスターに今まさに口づけしようとしている男性。

牧野は、男性の目の前のポスターを剥がし、クルクルと丸めると何かを言い残し、走って帰ってきた。それは流れるような動作だった。雪之丞は呆気にとられながらも、牧野と二人で走ってその場から逃げた。

ポスターの前の男性が花沢類だったと気づいたのは、メープルホテルでは友人と待ち合わせした時だ。たまたま同じ空間に居合わせたのだ。なぜか、一目でその人物が〝花沢類〟だとわかった。

〝花沢類〟牧野が知らない牧野の初恋相手の名前だ。牧野が、ハンサム金持ち男を恋愛対象から外した原因の男。


だから……雪之丞は牧野が〝花沢物産〟を受けると宣言した時は驚いた。あまりにも驚いて、飲んでいたビールを盛大に吹き出したほどだ。雪之丞の頭の中には、〝運命〟と言う二文字がグルグルと回った。いよいよ諦める時が来たのだと腹を括った。そのすぐ後に、類の海外勤務が決まったのを耳にして、恋の女神は自分を見捨てていないと安堵した。
でも、女神は雪之丞に微笑んでくれなかった。

「女神様は意地悪だよね。
ずっと好きだった相手の恋のキューピットになれなんてね」


関連記事
スポンサーサイト



2 Comments

asu  

Re: タイトルなし

類雪!
それもいいかも

いやいやよくないって

いやいいかも

いやダメよダメ

2019/11/28 (Thu) 21:00 | EDIT | REPLY |   

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/11/24 (Sun) 16:40 | EDIT | REPLY |   

Add your comment