まだ気づかない07 類つく
「ハァッー」
突然の牧野の溜息に、類が顔をあげた。
牧野が何か言いたげに類を見る。類は牧野から視線を逸らした。
「ふぅっーーーー」
牧野は類に一歩近付いて、ため息を吐く。類は、その溜息を振り払うかのように、
「コホンッ」
咳払いを一つしてから
「決まったこと。牧野も了承したろ?」
「だって……」
「だっては、ない」
「でも……」
「でももない」
「専務……意地悪ですよね」
「あんた随分とハッキリ口にすんね」
「それは そうですよ
折角、雪ち……多喜田支社長が、日本に出張で帰国するんですよ」
「雪之丞のがあとに決まったんだからしょうがないだろ」
「それはそうですけど……私じゃなく、今回は他の方の同行でお願いします。と申してるんです」
「先方の意向だと何度も言った筈だし、あんたも喜んだ」
類と牧野は、朝から何度もやり取りした会話を繰り返す。
「だっても、でももない。話は終了」
「……ケチっ」
雪之丞が日本に来る丁度その日……類達一行は、オランダに行く。牧野は、久しぶりに雪之丞に会えると二つ返事で了承していた。
「あのさ、連絡しなきゃって俺が言ったら、“どうせならサプライズしちゃいましょう” と言いだしたのは、牧野だよね」
「ぐっ」
とは言うものの……雪之丞も牧野に会いたいだろうと、実は、牧野に言う前にメールをしていたのだが……本決まりになった日程にまんま被せて雪之丞が日本に来ると電話があった。
『すれ違い……?』
類の言葉に
『ううん。日本に行くのに、休み取ったんだ』
『だったらオランダで待ってて、オランダ案内してよ』
『うーーん……あのさ……類さん、俺、つくしちゃんにプロポーズしようと思ってるんだ。
プロポーズしてもいいかな?
いいなら、つくしちゃん日本に残しといて欲しいんだ』
類は、雪之丞のつくしへの気持ちを痛いほどに理解している筈なのに、『うん』とは即答できず
『ごめん……今回の取引相手、牧野が希望なんだ』
思わず、先方のせいにしていた。
『ふぅーーーーん じゃっ仕方ないか。まっ、でも、爺様に会う約束しちゃったから日にちずらせないしな。あぁあ、つくしちゃんに会いたいな。あっ、日本にはすぐ戻ってくる?』
『いやっ、悪い。フィレンツェのワイナリーに行く予定だ』
雪之丞に合わせたくなくて、唐突に頭に浮かんだあの場所の名を口に出してた。
『へぇ、フィレンツェか。懐かしいな〜いいところだよね』
『折角の決心なのに、悪い』
『いいよ。いいよ。なんせ十年ものだからさ。それが少しくらい伸びても構わないし、それに……今度は自信あるしね。
あっ、会議みたいだから……また連絡するね じゃっ』
雪之丞に通話を切られも、類は暫くスマホを耳にあてたままだった。
この日から類は、自分の気持ちを少し持て余し…………牧野が、これ見よがしの大きな溜息を吐くたびに、何故だか心を苛つかせている。
牧野は牧野で、雪之丞に直接会って話したいことがあるので……これまた真剣だ。
雪之丞が日本を離れ、三つ目の季節が終わろうとしている。
二人は、まだ気づかない。
突然の牧野の溜息に、類が顔をあげた。
牧野が何か言いたげに類を見る。類は牧野から視線を逸らした。
「ふぅっーーーー」
牧野は類に一歩近付いて、ため息を吐く。類は、その溜息を振り払うかのように、
「コホンッ」
咳払いを一つしてから
「決まったこと。牧野も了承したろ?」
「だって……」
「だっては、ない」
「でも……」
「でももない」
「専務……意地悪ですよね」
「あんた随分とハッキリ口にすんね」
「それは そうですよ
折角、雪ち……多喜田支社長が、日本に出張で帰国するんですよ」
「雪之丞のがあとに決まったんだからしょうがないだろ」
「それはそうですけど……私じゃなく、今回は他の方の同行でお願いします。と申してるんです」
「先方の意向だと何度も言った筈だし、あんたも喜んだ」
類と牧野は、朝から何度もやり取りした会話を繰り返す。
「だっても、でももない。話は終了」
「……ケチっ」
雪之丞が日本に来る丁度その日……類達一行は、オランダに行く。牧野は、久しぶりに雪之丞に会えると二つ返事で了承していた。
「あのさ、連絡しなきゃって俺が言ったら、“どうせならサプライズしちゃいましょう” と言いだしたのは、牧野だよね」
「ぐっ」
とは言うものの……雪之丞も牧野に会いたいだろうと、実は、牧野に言う前にメールをしていたのだが……本決まりになった日程にまんま被せて雪之丞が日本に来ると電話があった。
『すれ違い……?』
類の言葉に
『ううん。日本に行くのに、休み取ったんだ』
『だったらオランダで待ってて、オランダ案内してよ』
『うーーん……あのさ……類さん、俺、つくしちゃんにプロポーズしようと思ってるんだ。
プロポーズしてもいいかな?
いいなら、つくしちゃん日本に残しといて欲しいんだ』
類は、雪之丞のつくしへの気持ちを痛いほどに理解している筈なのに、『うん』とは即答できず
『ごめん……今回の取引相手、牧野が希望なんだ』
思わず、先方のせいにしていた。
『ふぅーーーーん じゃっ仕方ないか。まっ、でも、爺様に会う約束しちゃったから日にちずらせないしな。あぁあ、つくしちゃんに会いたいな。あっ、日本にはすぐ戻ってくる?』
『いやっ、悪い。フィレンツェのワイナリーに行く予定だ』
雪之丞に合わせたくなくて、唐突に頭に浮かんだあの場所の名を口に出してた。
『へぇ、フィレンツェか。懐かしいな〜いいところだよね』
『折角の決心なのに、悪い』
『いいよ。いいよ。なんせ十年ものだからさ。それが少しくらい伸びても構わないし、それに……今度は自信あるしね。
あっ、会議みたいだから……また連絡するね じゃっ』
雪之丞に通話を切られも、類は暫くスマホを耳にあてたままだった。
この日から類は、自分の気持ちを少し持て余し…………牧野が、これ見よがしの大きな溜息を吐くたびに、何故だか心を苛つかせている。
牧野は牧野で、雪之丞に直接会って話したいことがあるので……これまた真剣だ。
雪之丞が日本を離れ、三つ目の季節が終わろうとしている。
二人は、まだ気づかない。
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