まだ気づかない10 類つく
「せ、せ、専務ーーー」
いつも強気の牧野が涙目になりながら類を見上げる。
いつもと違う牧野の表情が、一瞬触れた唇が_______
類の鼓動を早くさせ、無意識の中で育んできた恋心を意識させる。
牧野を膝に抱えたまま類の思考は、過去を旅する。
「せ、専務……花沢専務っ、あっもう花沢っ!」
牧野が何度も何度も類を呼ぶ。それでも類の思考は過去に思いを巡らしたまま。
牧野の声が嗄れた頃_________
「あんた、ポスター泥棒したよね?」
唐突に類が喋り始めた。
「へっ?」
「へっじゃなくて_____ポスター泥棒したことあるでしょ?」
「いやっ いまソレ?」
「うーん じゃぁ 非常階段で昼寝してたのあんたでしょ?」
「専務じゃあるまいし、就業中に昼寝なんてしませんよ。私、これでも花沢の優秀な社員です!」
「へぇ、昨日の午後、船こいでたのに?」
「あっアレは、あんまりにもお天気が良くて、専務も昼寝してたから、つい釣られてです。……って、いま関係ないですよね」
「うんっ。そっ。今聞いてるのは、もっともっと前のこと」
「もっと前って……
そりゃぁ昼寝ぐらいしますけど、非常階段で昼寝なんてしませんっ」
「おっ 言い切ったね。
でも牧野、あんた非常階段で昼寝してるよ。俺、会ったもん」
類の言い切りに、牧野は目一杯に首を振り
「みたもんって、本人が会った覚えがないんですから、絶対に会ってませんっ!」
唇を尖らせ、言い切った。
「じゃ 会ってたらどうする?」
唇の端をほんの少し上げながら、牧野に聞き返す。
「だから会って無いですって」
「うーん 言い切るね
俺って、そんなに影薄いかな?」
「専務みたいに濃厚な人そうそう いません」
「そう?
でも仮面パーティーで会った時のこと覚えてなかったよ……ね?」
「アレは、専務が仮面被ってたからです」
「ふーん
じゃあさぁ、もし会ってたら俺の願い事を聞いてもらおうかな?」
「じゃ、専務の思い違いだったら、私の願い事聞いてもらいます」
「うんっ いいよ。
牧野の願い事って、花沢に定年退職するまで居ることだっけ?」
「そ、そうですけど、折角の勝ち勝負なんで、ココはどーんと大きく出て、働ける間は花沢に居られるにします」
「骨を埋めるってこと?」
「はいっ」
「そう。あんた本当に花沢が好きだよね」
「そりゃあ、こんないい会社ないですよ。
それに、専務は思いの外に優秀であられますので、この先の花沢も安泰ですしね」
「そりゃ どうも」
「いえ。
あっ、専務、もう一つ追加してもいいですか?」
「追加?」
「はいっ。願い事一つ追加で」
「俺も一つ追加出来るの?」
「えぇ それは勿論」
「ふ〜ん
じゃあ、いいよ」
「流石専務!太っ腹!」
「あんた、すごい自信だよね」
「それはそうですよ」
「ふ〜ん
じゃっ 行こうか」
「行く? 行くってどこにですか?
と言うより、私、腰が立たないんですけど
あっ」
いま自分が類の膝の上だと言うことを突如思い出して、耳まで真っ赤になりながら牧野が叫んだ瞬間……
類は、クルリと椅子を回し、牧野を抱えて立ち上がった。
「ぅひゃっ」
突然目線が上がって声が出た。類はクスリと微笑み牧野を抱えたまま歩き出した。
「せ、せ、専務 下ろして、下ろしてください」
「ダメっ だってあんた腰抜けてるんでしょ」
「そっ、そ、そうですけど________
もう、大丈夫って気がします」
「ははっ 牧野の大丈夫はあんまりアテになんないじゃん
この前だって、大丈夫っていいながらすごい無茶してたじゃん」
「そ、それは、専務も同じじゃないですか」
「いやっ、絶対に牧野のが無茶も無理もする。
と言うより、牧野に思い出して貰わなきゃいけないから。
それより、牧野、ドア開けてよ」
「い、い、いやですよ」
牧野は、ブルブルと首を振る。
「じゃ、俺がドア開けるから、牧野は両手で俺の首に掴まって」
「だから嫌ですってば」
「嫌じゃないよ。ドア開けなきゃ、外に出れないだろ?」
「専務に抱っこされたまま外に出たら、大問題です」
「腰抜かしたのあんたでしょ?
「だっ、だ、だって」
「だってもへったくれもない。いいから掴まって」
類の威勢に押し切られて、牧野は類の首に両手を回した。
カチャリ
秘書室に繋がるドアが開けば、一斉に二人に視線が集まった。
いつも強気の牧野が涙目になりながら類を見上げる。
いつもと違う牧野の表情が、一瞬触れた唇が_______
類の鼓動を早くさせ、無意識の中で育んできた恋心を意識させる。
牧野を膝に抱えたまま類の思考は、過去を旅する。
「せ、専務……花沢専務っ、あっもう花沢っ!」
牧野が何度も何度も類を呼ぶ。それでも類の思考は過去に思いを巡らしたまま。
牧野の声が嗄れた頃_________
「あんた、ポスター泥棒したよね?」
唐突に類が喋り始めた。
「へっ?」
「へっじゃなくて_____ポスター泥棒したことあるでしょ?」
「いやっ いまソレ?」
「うーん じゃぁ 非常階段で昼寝してたのあんたでしょ?」
「専務じゃあるまいし、就業中に昼寝なんてしませんよ。私、これでも花沢の優秀な社員です!」
「へぇ、昨日の午後、船こいでたのに?」
「あっアレは、あんまりにもお天気が良くて、専務も昼寝してたから、つい釣られてです。……って、いま関係ないですよね」
「うんっ。そっ。今聞いてるのは、もっともっと前のこと」
「もっと前って……
そりゃぁ昼寝ぐらいしますけど、非常階段で昼寝なんてしませんっ」
「おっ 言い切ったね。
でも牧野、あんた非常階段で昼寝してるよ。俺、会ったもん」
類の言い切りに、牧野は目一杯に首を振り
「みたもんって、本人が会った覚えがないんですから、絶対に会ってませんっ!」
唇を尖らせ、言い切った。
「じゃ 会ってたらどうする?」
唇の端をほんの少し上げながら、牧野に聞き返す。
「だから会って無いですって」
「うーん 言い切るね
俺って、そんなに影薄いかな?」
「専務みたいに濃厚な人そうそう いません」
「そう?
でも仮面パーティーで会った時のこと覚えてなかったよ……ね?」
「アレは、専務が仮面被ってたからです」
「ふーん
じゃあさぁ、もし会ってたら俺の願い事を聞いてもらおうかな?」
「じゃ、専務の思い違いだったら、私の願い事聞いてもらいます」
「うんっ いいよ。
牧野の願い事って、花沢に定年退職するまで居ることだっけ?」
「そ、そうですけど、折角の勝ち勝負なんで、ココはどーんと大きく出て、働ける間は花沢に居られるにします」
「骨を埋めるってこと?」
「はいっ」
「そう。あんた本当に花沢が好きだよね」
「そりゃあ、こんないい会社ないですよ。
それに、専務は思いの外に優秀であられますので、この先の花沢も安泰ですしね」
「そりゃ どうも」
「いえ。
あっ、専務、もう一つ追加してもいいですか?」
「追加?」
「はいっ。願い事一つ追加で」
「俺も一つ追加出来るの?」
「えぇ それは勿論」
「ふ〜ん
じゃあ、いいよ」
「流石専務!太っ腹!」
「あんた、すごい自信だよね」
「それはそうですよ」
「ふ〜ん
じゃっ 行こうか」
「行く? 行くってどこにですか?
と言うより、私、腰が立たないんですけど
あっ」
いま自分が類の膝の上だと言うことを突如思い出して、耳まで真っ赤になりながら牧野が叫んだ瞬間……
類は、クルリと椅子を回し、牧野を抱えて立ち上がった。
「ぅひゃっ」
突然目線が上がって声が出た。類はクスリと微笑み牧野を抱えたまま歩き出した。
「せ、せ、専務 下ろして、下ろしてください」
「ダメっ だってあんた腰抜けてるんでしょ」
「そっ、そ、そうですけど________
もう、大丈夫って気がします」
「ははっ 牧野の大丈夫はあんまりアテになんないじゃん
この前だって、大丈夫っていいながらすごい無茶してたじゃん」
「そ、それは、専務も同じじゃないですか」
「いやっ、絶対に牧野のが無茶も無理もする。
と言うより、牧野に思い出して貰わなきゃいけないから。
それより、牧野、ドア開けてよ」
「い、い、いやですよ」
牧野は、ブルブルと首を振る。
「じゃ、俺がドア開けるから、牧野は両手で俺の首に掴まって」
「だから嫌ですってば」
「嫌じゃないよ。ドア開けなきゃ、外に出れないだろ?」
「専務に抱っこされたまま外に出たら、大問題です」
「腰抜かしたのあんたでしょ?
「だっ、だ、だって」
「だってもへったくれもない。いいから掴まって」
類の威勢に押し切られて、牧野は類の首に両手を回した。
カチャリ
秘書室に繋がるドアが開けば、一斉に二人に視線が集まった。
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