明日咲く花

花より男子の2次小説になります。

水音〜ちゃぷん〜 01

ぱちゃん……水が跳ねる音がした。

水面を見つめ波紋を探せば

ぱちゃんっ
ちゃぷん
ぽちゃん


幾つもの水音と波紋が広がった。波紋を見つめる顔に笑顔が浮かんでいく。


加茂川のほとりで偶然再会してから一年。あの日と同じ、月の初めの木曜の夜ここで会う。

背後を振り向けば、呑気な笑顔浮かべた女がいる。総二郎は眉を顰め

「ったぁっ 牧野 水切り本当に下手だな」

「そっ、そう? 今日は三回くらい水切りした気がするけど」

「何個石投げた?」

「ニ個……くらいかな?」

「いやっ 四個で四つの音だった気がすんぞ」

「へへっ そうだった?」

「あぁ」

「ハハッ よく聞いてんね」

「ったく どうでもいい小さい嘘つくな」

「あははっ」

目尻に皺を寄せ笑いながら総二郎の横にするりと腰掛ける。身に纏う香りがふわりと鼻腔を擽った。再開した一年前とは変わらぬ女の香り。

最初、総二郎は
七年ぶりに再会した牧野つくしが纏う香水の香りに違和感を感じた。なのに、いつの間にソレがつくしを彷彿させる香りになった。

「不思議だな……」

「うんっ? なに 不思議って」

総二郎の呟きを掬い上げ、小首を傾げ訊き返すつくし。真っ直ぐに切り揃えられた黒髪が動きにあわせて、サラサラと揺れる。

「あっ いやっ…… 星、星が随分と見えるなって」

「うんっ? あぁ 東京に比べるとってこと?」

「あぁ」

「東京の星空かぁー どんなんだったけ?慣れちゃったからなーこの星空に。

ウーン  でも、そうだよね。 うんっ 確かに。あたしもコッチ来たばっかりの時は、そう感じてたかも」

つくしは夜空を見上げながら一つ二つと頷く。

「東京には全然か?」

「両親も引越したしね。
あっ でも、この頃は、全然ってわけでもない……かな? 
とは言え、ほぼ日帰りになっちゃうから向こうで星空見上げるなんてないけどね」

「日帰り?」

「そう日帰り。泊まりでの東京出張は経費が掛かるからって日帰りになるの。
でも、何故か名古屋出張は泊まりなの」

つくしは空を見上げたまま笑った。

いまが満ち足りてると言うような、柔らかな笑い声だった。その柔らかな笑い声に総二郎は何故か苛ついた。

「未だに逃げてんのか」

だから総二郎は、つくしを傷付ける言葉を敢えて選んで口にした。

「逃げる?」

キョトンとした顔でつくしが聞き返す。

「あぁ 過去から……司から未だ逃げてんだろう」

「へっ? あっ
東京出張で日帰りって行ったから?

あぁ ごめん。名古屋には、うちの会長の定宿があるけど、東京には定宿がないからなの。
ごめん わかりづらかったよね。

あれっ? あらっ? あちゃー 西門さんがそう思うってことは会長もそう思ってる可能性大ってこと?」


つくしはオデコに手を当て天を仰いだ。予期せぬつくしの答えに総二郎は何をどう言っていいか分からずに押し黙った。

そのあと総二郎はつくしと何を話したのか覚えていない。ただ、落ち葉がカサカサと地面を這う音だけが耳に残った。


カサカサと耳元で音が聞こえる度に、心が苛立ち、苛立ちを吐き出すために女を抱いた。


ぴちゃん
ぴちゃん…………

ちゃぷん

吐き出した筈の苛立ちは、虚しさと共により強い苛立ちとなり溜まっていく。それでも苛立ちから逃れるために女を抱き続け、ある日虚脱感と共に女を抱けなくなった。



月初めの金曜日、つくしと再会してから初めて京都ではなく東京での仕事が入った。仕事が終わる否や京都行きの新幹線に飛び乗っていた。



どうにもならない…………そんなことは百も承知だ


それでも会いたい。


この時初めて総二郎は、自分の恋心を認めた。嘘の様に苛立ちが身体の中から抜けていった。



お次は
るいか様
★ちゃぷんじゃないけどしゃわーーーー★第1話  
12月2日 18:00






現在ブログを休止のため「Pas de Quatre」様での公開
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2 Comments

asu  

パールちゃん

いつもありがとう
総ちゃん京都似合うよねー❤️

2020/12/04 (Fri) 14:39 | EDIT | REPLY |   

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2020/12/03 (Thu) 01:47 | EDIT | REPLY |   

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