Rival amoureux 第1話 -plumeria-
桜が咲くにはまだ早い3月中旬……その日、類とつくしはスカイツリーに隣接する水族館に来ていた。
この春大学4年になろうかというつくしだが、装いは昔と変わらず子供っぽい。
それに合わせるかのように類も薄手のセーターにジーンズというラフなスタイル……のはずが何故か目立ってしまうのはいつものこと。
周囲の女性たちの視線は多少気になるが、つくしはそれも慣れっことばかりに類の横を並んで歩いた。
でもお目当ての水槽を見つけると……
「あっ、あそこだ!類、早く~~!」
「走ったら迷子になるよ」
「きゃあぁ~~っ!綺麗……ね?ほら見て?!」
「…………うん」
デートと言えばそうなのだが、実はバレンタインのお返しに、類が「何処かに連れて行ってあげる」と言った答えがここ。
しかもバレンタインも「本命」なのか「義理」なのがが曖昧な2人…類としてはWhiteDayという日本独特の風習に乗っかって、想いを伝えたいと考えていたのに目の前にはクラゲ。
「なんだか類みたい~♪」と言われては、次になんと答えていいのか判らない。
3ミリ程度眉を顰めながら「そお?」と答えて、ガラスに映るつくしの嬉しそうな顔を眺めていた。
ーどうにかして2人きりになって、今日こそ……ー
「類!今度はチンアナゴ見にいきたい!」
「……はいはい」
想いを伝えるならもう少しムードある場所で……と普段はそこまでシチュエーションを気にしない男なのに、やはりこれだけは気になるらしい。
将来思い出を語る時に、告白が「チンアナゴの前で」とは言われたくない。
それ故に言葉を呑み込み、つくしの後をついて行った。
その頃、都内の総合病院を出て来た親子連れがあった。
母親はモデル並のスタイルと美貌、それに艶のある黒髪。子供の方は薄茶の猫っ毛だが、その歳のわりには鋭い目付きで、既にイケメンとして仕上がった感がある。
親子してハイブランドなスーツ、そして通り過ぎる人が道を開けるほどのオーラ……2人の後ろにはガタイのいい男性が2人居て、威圧感は半端ない。
「タマさん、思ったより元気そうだったわねぇ~」
「そうだね……ママ、本当にあの人が司おじ様より強いの?」
「ある意味強かったわよ?あの司が何度も怒鳴られてるし。病気して入院したもんだから気弱になって、生きてるうちにあなたに会いたいって言うから帰国したけど、あの様子じゃすぐに退院して働きそうね~♪良かったわ」
「で……これからどうするの?」
「そうねぇ……せっかく日本に来たんだからあなたに色々見せたいわね。何処かに行きましょうか?」
「じゃあスカイツリー!この前テレビで見たんだ!」
「スカイツリーねぇ……貸し切ってないけど、まぁ…いいわ」
母親の名前は道明寺 椿。
現在アメリカ・ロサンゼルス在住でホテル経営者を夫に持ち、5歳になる一人息子の名前は道明寺
日々仕事に追われゆっくりと旅行など出来なかったのだが、道明寺家の使用人頭、タマが入院したとの知らせを受けて急遽帰国したのだ。
彼女は椿と司が幼い頃から面倒を見てもらった親代わりのような存在……万が一の事があっては後悔すると楓維を連れて来たのだが、予想に反して元気が良く、椿の方が拍子抜けしてしまった。
それならばついでに親子でプチ旅行をしよう…。
アメリカに住んでいても、日本人の血も引く楓維に母国の景色を見せたいのは当然のこと。この機会に京都や北海道、沖縄にも足を運ぼうかと考えた椿だった。
その1番始めに楓維が選んだスカイツリーに向けて車を走らせ、ボディガードを伴ってそこに入った。
「どう?楓維、今日は天気がいいから遠くまで見えるわねぇ~」
「………………」
「あら!あそこ、富士山が見えるわ~~」
「………………」
椿のハイテンションに比べて無表情な楓維。
よく考えたら彼は道明寺楓を祖母に、道明寺司を叔父に持つ子供だ。
ロスに住んでいるものの、既にNYのワン ワールド トレード センターにもエンパイアステートビルにも、ついでにロックフェラー センター もクリアしている。
もっと言えばドバイにあるブルジュ・ハリファの地上555メートルの展望台も制覇していた。今更東京スカイツリーでキャアキャア騒ぐほどのことはない。
「もう少し喜びなさいよ!」と怒る母親に、澄ました顔で「もう降りようか」なんて可愛気なく答えてしまうドライな部分があった。
その時、ふと目にしたのは魚のマーク……ここで子供心がピコン!と鳴った。
「ママ、ここに水族館があるの?」
「え?あぁ、あるわよ、確か……行ったことはないけど」
「行こうよ♪」
「えっ?今度は水族館なの?!って、あなた魚好きだった?」
「動物とか魚は好き♪行こう!」
「仕方ないわねぇ……(誰に似たのかしら)」
**
「類、チンアナゴって面白い顔してたねぇ~!今度は金魚見に行くよ!」
「…………金魚」
「うん、えっと……この向こうだったよね?」
薄暗い水族館の人混みの中を楽しそうに動き回るつくしを、類は溜息交じりで追う。
これが2人だけならムードもあるだろうに……とは言え、やっぱり「金魚の前」って言うのもイマイチだ。どうせならさっきのクラゲの方がまだ神秘的だったかも、と思いながらその背中を眺めていた。
ーここを出たらどうしよう……何処かで食事して、その後で今後の事を……ー
「ねぇ、見て!このランチュウ、道明寺みたい!」
「…………プッ!」
「アズマニシキって美作さんかなぁ……尾ひれがドレッシーだよね?」
「……確かに」
「じゃあ西門さんはコメットかな?シュッ!としてるもんね」
「…………うん。じゃあ牧野はピンポンパールだね」
「えっ?!」
「ほら、お腹が出てる」
「あーーーっ、酷いっ!花沢る……うわっ!!」
その時、つくしの背中に体当たりしたもの……驚いて振り向けば小さな男の子が顔面から床に転がっていて、どうやらつくしとは背中合わせにぶつかったようだ。
慌てて「大丈夫?坊や!」と声を掛けて助け起こしたが、その時に出た言葉は……
「どこ見てんだよ、痛ぇじゃねぇか!」
「「…………」」
「謝れよ!おま………………」
何故か床に転んだ男の子まで固まった。
そして無言で見詰め合う3人…………
「ねぇ、類に似てない?この子の髪の毛」
「いや、そう言われても」
「………………」
「でもさ、この目……何処かで見たことあるよね?」
「あるね……すごく身近で」
「………………」
「2人を足して2で割ったような……もしかしてあんた達の子供?」
「大丈夫、その心配はない。医学はそこまで進歩してないと思う」
「………………」
クセ毛でないだけに微妙だが、どう見てもこの眉毛の角度と目の鋭さ、鼻の高さと全体的なオーラ……これは「あの男」とそっくり。もしかしたら小さくなったのか?とアニメ的思考で目の前の男の子を見ていたら……
「こらーっ💢!楓維、勝手に動くなって言ったでしょう!」
その声で3人が顔をあげると、ボディガード付きの勇ましい美女がこっちに向かって歩いて来る。
それを見て「あれ?お姉さん?!」とつくしが言えば、類は咄嗟に床の男の子を横目で睨んだ。
「あらっ?よもぎちゃんじゃない~!」
「あははっ……つくしですって、お姉さん。お久しぶりです~」
「やだぁ!そうだった~、つくしちゃんね!」
「…………つくし?」、と男の子が呟いたのを類は聞き逃さない。
その瞳の中にキラリと星が光ったのも……。
そしてここに椿が来たことで確信した。
悪友と同じ匂いがする…………と。
「あらっ、類君も居たの?元気してた?大学生活は楽しい?」
「……椿ねぇちゃん、俺卒業したから。牧野が今度4年生だよ」
「そうなんです~、就活に苦しむ4年です~!で、お姉さん、この子は?」
「あぁ、紹介が遅れたわね。この子は私の息子で5歳になる楓維。ほら、楓維もご挨拶しなさい。司叔父様のお友だちよ」
「………………」
「こんにちは~、楓維君っていうのね?私は牧野つくし、宜しくねっ♡」
「………………宜しく///」
「こっちは類、君の叔父さんのお友だちだよ~」
「…初めまして」
「……………………るい?」
つくしに向けられたのは可愛らしい5歳児の顔……それなのに類に向けたのは司を彷彿させる鋭い眼光。
同じく5歳児を見下ろす類も負けてはいない。
17歳差の闘いが始まった瞬間だった。
Rendez-vous demain...
↓おまけつきです♪
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