Rival amoureux Prélude -オダワラアキ-
☆☆☆
「牧野? 俺」
慣れたパリの地でもの寂しい気持ちになるなんておかしい。
俺はずっと一人でいる方が楽だとすら思っていたのに。
今夜は、三月半ばにして気温が五度と寒い夜だからだろうか。
社会人になって友人たちとも会う頻度が減ると、以前はなんとも思っていなかったのに、人恋しいなんて感情が芽生えてきて自分でも驚いた。
『類っ!? おはよう。びっくりした! 今フランスじゃなかった?』
「うん。パリにいるよ。なんか寒くてさ、牧野の声聞きたくなった」
『あははっ、なにそれ。あ、仕事は終わった? そっちは今、夜だよね?』
さっきまで寒いと思っていたのに、牧野の声を聞いていたらそれだけで胸が温かくなった。
俺はスマートフォンを耳に当てながらホテルの部屋へと戻る。
冷え切っていた身体が暖房の温かさに包まれて、思わず安堵の息が漏れる。
「終わった。今ホテルに帰ってきたところ。牧野は? 今起きたの?」
パリの時刻は夜十一時。東京は朝の七時頃だろう。
朝早くから迷惑だったかと考えたが、第一声は起きたばかりにはとても聞こえなかった。
『ううん。実はさ、昨日優紀が泊まりに来てて。今日仕事だからってさっき帰ったんだ』
「いいな。俺も牧野の家に泊まりたい」
俺はいつものように軽口を叩きながら、彼女の家に男が泊まっていなかったことに胸を撫で下ろす。
『ばっ……なに言ってんの! もう!』
「だめ?」
『あ、だめっていうか……だって、だってさ!』
「牧野が嫌なら諦める」
『嫌とかじゃないってば……類は、なんとも思わないかもしれないけど……私は……』
「なんとも思わないわけ、ないだろ」
言おうか言うまいか、何度も悩んだ。牧野の心がまだ司にあるのなら俺の出る幕じゃない。
それでも口に出してしまったのは、俺の中に焦りがあったからかもしれない。
『類……』
きっと今、スマートフォンを耳に当てながら、牧野は動揺で頬を赤く染めているだろう。
その顔を見られないことが悔しい。
「帰ったら、あんたに好きだって言っていい?」
そろそろ俺をあんたの特別にして欲しいんだ。
俺は答えを聞かずに電話を切った。
Prélude fin
明日からはリレーの新しいお話が始まります
どうぞお楽しみに…
↓おまけつきです♪
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