Rival amoureux 第4話 -asu-
存外……人という生き物は、不思議な思考の上で生きているものだ。オートキャンプ場で屈託なく笑う楓維を見て、類はそんなコトを思った。最初、邪魔でしかなかった存在の楓維が、一緒にいるうちに、極々稀に可愛らしく見える時があったりするのだ。
そんな考えを掻き消すように首を振り
「イヤイヤ……あいつは小さい悪魔。悪魔……うん。悪魔だ」
念仏のように唱えてから、カータープ張りを再開した。
楓維は首を振りながら器用にタープを張る類を見ながら、
「あいつ……やっぱり変なヤツだよな」
ぼそりと呟いた。楓維本人は気づいてないが、その呟きに一緒に過ごした5日間が集約していたりする。
〝いけすかないヤツ〟 から 〝変なヤツ〟へ昇格しているのだ。それが昇格なのか降格なのかは、世間的には判断に難しいかもしれないが……
「っん? 何か言った?」
火起こしに奮闘していたつくしが顔を上げる
「ううん あっ、つくし、顔に炭ついてるよ」
「えっ どこ?」
「ほらっ ここ」
楓維は小さな指先をつくしの唇に伸ばし付いた炭を擦ろうとした……瞬間
「ま、牧野っ 」
類の慌てた声が辺りに響き渡る。
「へっ どうしたの?」
「あっ いやっ 俺一人だとタープが緩んじゃって落ちそうだから、手貸して」
「あぁ 今すぐいくね」
つくしが立ち上がり類の元へと駆けて来るのを見て、類は満足そうに微笑んでいる。あまつさえ、チラッと楓維を見て得意そうに片頬を上げている。
「ジェラシーマンかよ アイツ……マジに大人気なっ」
楓維は、5歳児とは思えない呆れた口調で呟いた。
タープを張り終えたあとは、3人で料理に取り掛かった。とは言え、あらかたの準備は昨日のうちに終わっている。肉をタレに漬け込んだり、野菜を切ったり、色んなものを串に刺したり。楽しかった準備のことを思い出して、楓維は柔らかく微笑んだ。その微笑みをみたつくしは胸を押さえ
「ウッ 天使の微笑み」
なんて呟いては、無意識に類を煽っている。煽られた類は、あざと可愛いさ全開で胸を押さえるつくしの顔を覗き込み
「牧野、どうしたの?」
ほんの少し甘さの含んだ声で聞いている。つくしの胸の鼓動がドクンと跳ねて、頬を朱色に染め上げる。
つくしの上気した頬があまりにも艶かしくて、類の掌がつくしの頬を包み込もうとした……瞬間
「つくし、コレひっくり返すのか?」
今度は楓維の横槍が入った。
「あっ うんっ。そこのトングで」
つくしは胸の鼓動を隠すように楓維の元に走って行った。
小さな天使は、類を見ながら小首を傾げニコリと笑う。
「フゥーーーッ チッ」
類の唇から長い長いため息と舌打ちが溢れた。
楓維を真ん中に夕焼けを見る。夕陽に彩られた世界はどこか幻想的で3人の口から言葉を奪っていく。
「
楓維の言葉に、つくしと類の手が相談しあっていたように楓維の手を握る。楓維は一番星が空に輝くまで、黙ってその温もりを受け入れた。
満天の星空の中、パチパチと火が爆ぜるのを見守りながら、食べて、歌って、踊って、お腹が痛くなるほどに笑った。
頑張って頑張って目を開いていた楓維の瞼がくっついて類にもたれ掛かって眠っている。類は楓維を抱き上げキャンピングカーのベッドに寝かせに行った。
つくしは、類と自分のためにヴァン・ショー・ブランを作る。白ワインの中にスターアニス カルダモン シナモン オレンジのスライスを入れて火にかける。ふわりといい香りがした頃、類が戻ってきた。
蜂蜜を入れたカップの中に注ぎ込み類に手渡した。ヴァン・ショー・ブランをつくしが初めて飲んだのは……色んな事がグチャグチャに行き詰まってる時だった。冬の夜中……辛くて苦しくて無意識に類の家に行っていた。約束をしていた訳じゃないのに、花沢の門の前に佇んでいたつくしを迎え入れてくれた。冷え切った身体を温めるためにと類が作ってくれたヴァン・ショー・ブランは一口ごとに……凍えていたつくしの身体と心を温めてくれた。
つくしは、ヴァン・ショー・ブランを一口飲んだ後
「類と楓維君、すっかり仲良しになったね。類って、子煩悩な良いパパになりそうだよね」
パパ? パパの言葉に類の脳内に……つくしと自分に似た架空の赤ん坊が出現したかと思ったら、走馬灯を見るかのようにその赤ん坊が成長して、ウェディングドレスを見に纏い……
「だ、ダメだ。まだ早い」
「えっ? まだ早いって何? どうしたの急に?」
「あっ いやっ ハハッ」
「ごめんごめん。そうだよねー。まだ自分が父親になるなんて想像出来ないよね。
でも本当、類はいいお父さんになるよ。ワタクシ牧野つくしが保証するよ」
〝だったら、俺の子、俺の子産んで〟喉元まで言葉が出かかった瞬間……
「あっ 類。 空、空、流れ星」
流れ星が邪魔をした。
Rendez-vous demain...
↓おまけつきです♪
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