猫 02

ニャオォーン
猫が鳴いた。
その夜総二郎は珍しく酔っ払っていた。やるせ無い気持ちを抱えて昼間からずっと飲んでいたからだ。迎えの車を途中で返し、あてもなくブラブラ見知らぬ路地裏を歩いていた。路地裏で猫が鳴くなんて珍しいことでも何でもないことだ。でも、なんだか気になって総二郎は声の主を見つけるために路地裏を覗いた。
声の主は、ニャオォーン ともう一声鳴いて、総二郎に擦り寄る。総二郎はしゃがみ込み
「おっ、お前 懐っこいな。どっかの飼い猫か?」
見知らぬ猫に声をかけた。猫は、総二郎の足元にスリスリと身体を押し付け、ニャーニャーと鳴いて上目で見上げる。
「ぷっ 腹減ってんのか? ごめんな いま食いもん何も持ってないんだよな」
ニャーニャーニャーニャー猫が鳴く。
「ったぁっ、しゃぁないな。よしっついて来い」
色男がガキ大将よろしく猫を引き連れ路地裏を歩く。
しばらく歩けば、ふわりといい匂いがしてくる。匂いに釣られるように一人と一匹が路地裏を歩く。
匂いの元は、焼き鳥屋。味無しで10本。タレで5本。ついでにカップ酒を5本買って、来る途中に見つけた小さな公園に引き返し、一人と一匹はベンチに座った。
滑らかになった唇が言葉を紡ぐ
「……今日な……俺のガキの頃からのダチの結婚式だったんだ。そいつさぁ、すげぇ好きな女が居たんだよ。牧野っていうんだけどさ、俺、あいつならって……思ってたんだ……三年になるかな? 牧野、何も言わずに居なくなっちまったんだよ。なぁ、お前どう思うよ?」
ニャー 総二郎の顔を見上げて猫が鳴く。
ニャーニャー もう一本焼き鳥くれよと言わんばかりに猫が鳴く。
それから小一時間、猫相手に総二郎は鬱積していたものを零した。
「……牧野は、なんで何も言わずに居なくなっちまったのか? 俺等って……司のオマケだったのか? 司と別れたら、俺等とも 『ハイ。お終い』なのか? なぁ、お前どう思うよ?」
司の結婚式で、あの当時の思いを再び思い出して……総二郎は猫相手に愚痴った。
焼き鳥を粗方食べ終えた猫は、総二郎のからみ酒に付き合うかのように、総二郎の太腿に身体を添わせた。
カップ酒5本が空になる頃
「ムゥ ムゥ ムゥ」
どこかで、名前を呼ぶ声がした。その声に反応するかのように
ニャー 猫が鳴く。
「ムゥ、あんた、こげんなとこまで来てたと。いつものとこに居んから随分と探したとよ
ってか、あらっ、お兄さん、ムゥにご飯くれたと?あらぁ ありがとうね。ほらムゥもありがとうしたん?」
男がそういうと、ムゥと呼ばれた猫は、お尻ふりふりニャンニャンニャンと3回鳴いた。その様が酔っ払い総二郎の笑いのツボにハマり、初めはプッと小さく、そのうち腹を捩らせながら笑った。あまりにも楽しげに笑うので、ムゥを迎えに来た男も釣られて笑い出す。
箸が転んでもおかしい年齢はとうの昔に過ぎ去った筈の色男二人は、しばらくの間笑い続け、終いにはニャンニャンニャンと3回鳴いてお尻ふりふりして、肩を叩き合って笑った。
……で、二人と一匹は、と言っても一匹は早々にリタイヤして、ムゥの家と書かれたハウスに入ってスヤスヤと寝息を立てたが、二人は朝まで飲んで笑って、話して飲んだ。馬が合ったのだろう、予定が合えば、二人肩を並べて飲み歩いた。その夜から一年ほど過ぎたある日
「総、来週の日曜日って時間ある? よかったらホームパーティーに来いへん?」
「ホームパーティー?」
総二郎が首を傾げ聞き返す。
「うん。友達がね、ようやく赴任先から帰って来んよ。でね、色んな輩がお帰りパーティーをするのに集結するらしいんだけど。あんたの仕事にもプラスになるんじゃないかと思うてね」
普段は仕事の話など一切しないワタルが総二郎を誘う。
「まぁ、一番はそん子に会うて見てほしんやけどね。人懐っこくて、面白い子なんよ。アタシが言うのもなんなんやけど、中々モテてるみたいなんよ。でもーねー、色恋には発展しないって言うか、色香が足りないって言うかでね。家族の悩みでもあるんよ。もう、総のその匂い立つ色香を伝授してやってよ」
後ろからニャーニャーとムゥが鳴くのが聞こえた気がした。
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お次は
りおりおさま
温もり 12月3日18時~

さくらいろ 類つく
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