明日咲く花

花より男子の2次小説になります。

baroque 95

時政夫人は、飲み物を口にしたあと

「薫様、私ね、こうやって洋平さんを手に入れましたのよ。
洋平さんは正義感が強くて優しい人でしたから。婚約者に捨てられた私が父に傷つけられるなんて____そんな間違った扱いを許せない人でしたのよ」

「全てが翠子さんの計算だったということですか?」

薫の問いに、時政夫人は美しく微笑み

「_____私ね、洋平さんが居ないと息が上手く出来ませんのよ。自分を失わないで生きるためにしょうがない事でしたのよ……薫様ならお分かりになるでしょ?」

時政夫人は薫でない誰かを見つめるように、もう一度微笑み

「その日の夜には、根津、嵯峨、時政 三家の当主の話し合いで、姉と隆哉様。洋平さんと私。という風に、婚約者が入れ替わりましたのよ。
時政には何の非もございませんでしたから、根津家は勿論の事、嵯峨家も隆哉様のご実家の大山家も、沢山の利権を時政に約束してくれましたわ。

時政の義祖父も義父も愛情深い方でしたから、私が根津の父から受けた叱責を洋平さんから聞き、祖父に伯父夫婦の養女にしたらどうかと進言してくださいましたの。結婚までの三年、養父母となった伯父の家で実の子同様に、いいえそれ以上に甘やかされ、可愛がって頂きましたわ。
養母は、元々白泉会の一員でしたから、そちらで懇意にして頂いていたのですけど、私の母や姉とはあまり気が合わなくて、交流が少なかったんです。
暮らし始めてから、様々な事を一緒に楽しみましたわ。半年過ぎた辺りからかしら、伯母と意気投合した時政の義母も加わって、三人でよくお出かけしたものですのよ。


姉と隆哉様は、出奔した翌日には、嵯峨と根津の追手に保護されましたの。あの文さえなければ、いいえ、洋平さんに文さえ渡さなければ、全てそのままだったのかもしれませんわね。姉には感謝しかありませんわ。
姉は、書き置きをしたためることで、隆哉様という誠の愛を得ることが出来ましたけど、隆哉様は如何だったのかしら? 元々がよくおもてになられる方でしたから、姉相手にどこまでが本気だったのかはわかりませんのよ。現に隆哉様はその日、馴染みの女性の元から姉に会い来てましたから。隆哉様は優秀な方でもありましたから、華子様を抑え確実に嵯峨家の跡取りになるのには、姉では弱いとお解りになっていたでしょうしね。姉との関係は、あくまでも美味しいところだけ味わう予定でしたんでしょうね。それなのに、遊び慣れてると思っていた姉が予定外の行動を取ったんでしょうね。姉は華やかな人でしたけれど、身持ちの悪い女性ではなかったのに、それを見誤ったのでしょうね。

嵯峨家の内孫には男孫がいらっしゃらなかったので、隆哉様が跡取りとしていくのがほぼ決まっていましたのに、隆哉様の軽率な行動で嵯峨家も大山家も随分と損失を出されたのと、婚約者が私から姉への変更で、関西で隆哉様が基盤を作るのは難しいだろうと嵯峨家当主が判断され、結果、隆哉様の嵯峨家の跡取りになるのは却下され、嫡男のご長女華子様が婿取りをし、跡を継ぐことに決まりましたのよ」


「翠子さんは、そこまで計算されていたのですか?」


「ええ。
でも私ね___姉に感謝こそすれ恨みは無かったんですのよ。ただ、怖かったんです。姉が洋平さんを取り返しに来たらどうしようって。京都に居なければ、そう思っていたんですけれど、姉が隆哉様と結婚して京都を離れても、怖くて怖くてたまらなく怖かった。時が経てば経つほどに怖くなったんです。全て自分の思い通りに進ませた筈なのに____自分の心だけはどうしようもなかった。

洋平さんを失いたくなくて、私は洋平さんの完璧な妻になろうと決意しましたの。そうすれば洋平さんに愛されなくても、洋平さんを失わなくてすむんじゃないかって。洋平さんは、何か言いたげな顔をして私を見ていたのに、それにも気づかず、
無理して無茶して倒れて強制入院になりました。頑なになっていた私の心を溶かしてくれたのは、意外なことに____お見舞いに来てくれた姉でしたの。「翠子ちゃん、会いたかった」そう言ってくれたんです。その言葉を聞いた瞬間、私の目から涙が溢れて、姉に全てを話していました。そしたらね、姉が言ったんです。


「あらっ、いやだ、貴女の策略のお陰で、私はこの上のない幸せを手に入れられたのね。

でも_____翠子ちゃんにごめんなさいを言うのは私のほうなの。だって私、翠子ちゃんが洋平さんをずっと好きだって言うことも、洋平さんが翠子ちゃんを好きだって言うのも知っていたんですもの。二人の気持ちを知っていて、お爺様には、私が交渉を持ちかけたの。白泉の役員の一員になれたら、ご褒美として私を洋平さんの婚約者にして欲しいと。婚約者になれば洋平さんは私だけを見るはずだって。でも、そうじゃなかった。洋平さんはいつでも翠子ちゃん貴女だけを見ていた。悔しかった。私の方が綺麗なのに、私の方が優秀なのに____ずっとそう思っていた。

私がなれなかった会長に貴女がなって、その優秀さを聞き及んだ嵯峨家のご当主が貴女を孫息子の嫁にと望んだと聞き、悔しくて悔しくてたまらなくなった。だから、隆哉さんに教えてやろうと思ったの。妹より私の方が美しいのよって。貴方は美しくない方の妹を娶らなきゃいけないのよって。

なのに、いつの間にか、木乃伊取りが木乃伊になってたわ。隆哉さんは、女性関係は派手だし、思ってたより目端は利かないし、その上、華子様の優秀さと比べられてコンプレックスの塊になのよ。
でも、そんな隆哉さんを私は愛してしまったの。愛って愚かねと思うと同時に、心の底から彼を手に入れたいと思ったわ。

だから、翠子ちゃんが隆哉さんの事を好きなふりをしてると気が付いた時、貴女の計画に乗って、隆哉さんを手に入れようと決めたの。翠子ちゃんのことだもの、きっと上手くやってくれるだろうって、だから、私は貴女の思い通りに動く駒になった。だから、隆哉さんが旅行に誘ってくれた時がチャンスだと思ったの。隆哉さんにしてみれば一夜の遊びだったんでしょうね。一夜の遊びにしないためにはどうしたらいいのか考えたは。考えて考えて、その時、翠子ちゃんが答えを教えてくれた。
うふふっ、翠子ちゃん、貴女、私が貴女の日記を盗み見ているの知っていたんでしょ?
そこに友達のお姉様の話として載っていたのが、私のとる行動。流石だと思ったわ。

そのあともそう_____華子様のご婚約者に口添えなさって、華子様を嵯峨家の正式な跡取りになさったでしょう。あれには本当に感謝したの。これで隆哉さんを救えるって。隆哉さん、しばらくは惚けてたようにしていたけれど、過度の期待とプレッシャーが消えた彼の目から杞憂が消えていった。あぁ救えたんだと。本当に感謝したのよ。私は素知らぬふりして、隆哉さんだけしか頼る人はいない女を演じたし、実際そうだった。彼、単純だから頼られることに弱いのよ。そのお陰でそれまで付き合いのあった女を切るのに時間がかかったけれど、私は何も知らないふりをし続け、いつでも彼の癒しになれるように努力したわ。

翠子ちゃん、そんな私を想像出来て?私、そんな自分を想像すらしたことなかったわ。

不思議よね、そうしている内に、今まで私が築いてこれなかった人間関係を築けるようになっていたの。そのうち、大山のお義母様もお義父様も私を許して可愛がってくださるようになったわ。まぁそれは、洋平さんが時政家と大山との関係をわだかまりを無くして下さったのが大きいのだけれどね。

本当に、洋平さんって律儀よね。
あらっ、翠子ちゃん、なんでって顔してるわね。

あのね、私、洋平さんと相談してから家を出たのよ。最初、洋平さんには驚かられたし、君にとって何の得もないと説得されたのだけど、貴女が唯一翠子ちゃんを手に入れられるチャンスよ。と話したら、すぐに趣旨替えして下さったの。あまりにも直ぐに趣旨替えしたから、なんだか意地悪したくなって、翠子ちゃんがずっと洋平さんを好きだって言うのは教えて差し上げなかったわた。

はぁっーー それが二人を追い詰めてしまっていたなんて、やっぱり意地悪は駄目よね」

驚いて、何度も姉に聞き返しました。「もう、そんなの洋平さんに聞きなさい」って笑ってから「私の幸せを完璧なものにするために、翠子ちゃん、貴女も幸せになって」そう言い残して帰っていきましたの。



その晩、私は初めて洋平さんに気持ちを打ち明けましたのよ。【あなたが好きです。あなたが居ないと息ができません。私を幸せにしてくれるのはあなただけです】って。洋平さんは、くしゃりと泣き笑いして私を抱きしめてくれましたの」


長い話を終えた時政夫人は、冷めてしまったお茶を一口飲むと


「ねぇ、薫様、あなたが策を張り巡らせて、つくしさんを手元に置こうとしているのは、本当に薫様のためになるのかしら? 痛いほど解るし、私が今の薫様の立場に置かれたら、迷いなくあなたと同じように何としてでも手に入れようとするわ。
策を張り巡らせることが必要だと言うことは百も承知よ。でも、あなた方の絆って、もっと深いと感じるの。
あなた方の事を事情を全て知っているわけではないわ。でも、だからこそ_____薫様の思いをすべて素直につくしさんにぶつけて、つくしさんの思いを全てぶつけて貰うことを考えてみたらどうかしらと考えてしまうの」



薫は返事をすることが出来なかった。そのあと、時政夫人が何を話して、何といってこの部屋を出て行ったのか解らないほどに、全てが上の空だった。



空に、ぽっかりと月が浮かんでいる。











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ありがとうございます。とっても嬉しいです
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4 Comments

asu  

パールさま

加齢臭! あかんあかん
そんなんさせたら、柿渋石鹸使われて笹の葉茶出されちゃうから

総ちゃん幸せになる話
書きたーい

2021/12/12 (Sun) 23:46 | EDIT | REPLY |   

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2021/12/12 (Sun) 22:18 | EDIT | REPLY |   

asu  

パールさま

あっ書き忘れ
時政夫人の名前が翠子さん

時政夫人は、薫贔屓なのでほっとけないのでござる。

恋して、素直になれずにタイミング逃すってあるよね。
好きなら押さないと!

そうそうどうでもいいけど
洋平さんのイメージは休日は白いセーター似合うイケおじです キリッ

あっ
薫が幸せになると総ちゃんは辛くなるんだけどね😱

2021/12/12 (Sun) 02:18 | EDIT | REPLY |   

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2021/12/11 (Sat) 18:48 | EDIT | REPLY |   

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