baroque 96
「海が見たいな」
雛子がポツリと漏らしたそんな言葉を拾い上げ、潮騒の音を聞きながら二人手をつないで歩いている。雛子は、総二郎の話を楽しそうに聞き、総二郎の話を広げ、自然と総二郎が新たに興味を持ちそうな話へと続けていく。
「雛ちゃん、雛ちゃんはいま何に興味があるの?」
総二郎の問いに、雛子は嬉しそうに
「総くんの、織りなす世界かな」
「俺の____織りなす世界?」
雛子は、コクンと頷くと
「えぇ、総くんの手から作り出される世界はとっても繊細で優しくて___なのに壮大で強いんですもの」
「これはこれは、雛ちゃんは随分と俺の事買いかぶりすぎじゃないのかい?」
「あらっ、私が目利きだったって言うのは、おば様にお聞きになられたでしょ?その私が言うんですもの。間違いないわ」
「間違い___ないか」
「えぇ、間違いないわ。だから、総くん、何があっても私は総くんの味方だから、覚えていらしてね」
「これは心強いな」
「うふふ そうでしょ」
そんな二人の会話を空にぽっかりと浮かぶ月だけが聞いていた。
******
「綺麗な月_____」
心の靄が一つ消えたからなのだろうか、そんな月夜を久しぶりに見た気がして、つくしは月に向けて手を伸ばす。手を伸ばして思い出す。嵐山のこの家で薫と初めて見た月を。あれは幾つの時だったろう?
『うわっ キレイ』
『っん? あぁ お月様? 今日の月は随分と真ん丸で光っているもんね。でも、萩で見る月のが綺麗じゃない?』
あたしは、首を振った。だって、月は確かに綺麗だったけど、本当は、月明かりの下に立つ薫が綺麗だったから。
『ううん。ここのがキレイだっちゃ』
『そっか』
薫は、月に向けて手を伸ばし
『あのお月様、つくしちゃんに取って上げれたらいいのにね』
そう言って微笑んだ。
「なんで、なんで、あたしは_________」
つくしはこの時初めて、薫の愛を、薫の思いを、裏切ったのだと自覚した。辛い思いは嫌だと逃げて、キラキラとした過去の思い出や、自分自身の思いまで汚したのだと。
「ぅぅぅーーっ うぅぅ」
つくしの口から後悔という名の嗚咽が込み上げてくる。
「許して_____なんて言えないよ____ね」
つくしは、流れ出ようとする涙に抗うかのように唇を噛みしめながら、【つくしはいつも被害者面だよな】薫に、総二郎に言われた言葉を思い出す
「あたしは、被害者じゃない_____加害者だ」
傷つくのがただただ怖くて、茨の蔦で自分の心を守った。茨の棘が、自分も、自分の大切な人をこんなにも傷つけると気づかずに。
「上手くいくわけない____よね」
自分が傷つきたくなくて、傷つくことから逃げて総二郎と恋をした。新しい恋は、楽しくて、刺激的で、そして何よりも______薫を愛することを辞めれないつくしの心を救ってくれた。
「ごめんなさい______」
ぽっかりと浮かぶ月に向かってつくしは呟いた。
どんな思いで夜を過ごそうとも、誰のもとにも朝は平等に訪れる。

今日の月は綺麗かな?
雛子がポツリと漏らしたそんな言葉を拾い上げ、潮騒の音を聞きながら二人手をつないで歩いている。雛子は、総二郎の話を楽しそうに聞き、総二郎の話を広げ、自然と総二郎が新たに興味を持ちそうな話へと続けていく。
「雛ちゃん、雛ちゃんはいま何に興味があるの?」
総二郎の問いに、雛子は嬉しそうに
「総くんの、織りなす世界かな」
「俺の____織りなす世界?」
雛子は、コクンと頷くと
「えぇ、総くんの手から作り出される世界はとっても繊細で優しくて___なのに壮大で強いんですもの」
「これはこれは、雛ちゃんは随分と俺の事買いかぶりすぎじゃないのかい?」
「あらっ、私が目利きだったって言うのは、おば様にお聞きになられたでしょ?その私が言うんですもの。間違いないわ」
「間違い___ないか」
「えぇ、間違いないわ。だから、総くん、何があっても私は総くんの味方だから、覚えていらしてね」
「これは心強いな」
「うふふ そうでしょ」
そんな二人の会話を空にぽっかりと浮かぶ月だけが聞いていた。
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「綺麗な月_____」
心の靄が一つ消えたからなのだろうか、そんな月夜を久しぶりに見た気がして、つくしは月に向けて手を伸ばす。手を伸ばして思い出す。嵐山のこの家で薫と初めて見た月を。あれは幾つの時だったろう?
『うわっ キレイ』
『っん? あぁ お月様? 今日の月は随分と真ん丸で光っているもんね。でも、萩で見る月のが綺麗じゃない?』
あたしは、首を振った。だって、月は確かに綺麗だったけど、本当は、月明かりの下に立つ薫が綺麗だったから。
『ううん。ここのがキレイだっちゃ』
『そっか』
薫は、月に向けて手を伸ばし
『あのお月様、つくしちゃんに取って上げれたらいいのにね』
そう言って微笑んだ。
「なんで、なんで、あたしは_________」
つくしはこの時初めて、薫の愛を、薫の思いを、裏切ったのだと自覚した。辛い思いは嫌だと逃げて、キラキラとした過去の思い出や、自分自身の思いまで汚したのだと。
「ぅぅぅーーっ うぅぅ」
つくしの口から後悔という名の嗚咽が込み上げてくる。
「許して_____なんて言えないよ____ね」
つくしは、流れ出ようとする涙に抗うかのように唇を噛みしめながら、【つくしはいつも被害者面だよな】薫に、総二郎に言われた言葉を思い出す
「あたしは、被害者じゃない_____加害者だ」
傷つくのがただただ怖くて、茨の蔦で自分の心を守った。茨の棘が、自分も、自分の大切な人をこんなにも傷つけると気づかずに。
「上手くいくわけない____よね」
自分が傷つきたくなくて、傷つくことから逃げて総二郎と恋をした。新しい恋は、楽しくて、刺激的で、そして何よりも______薫を愛することを辞めれないつくしの心を救ってくれた。
「ごめんなさい______」
ぽっかりと浮かぶ月に向かってつくしは呟いた。
どんな思いで夜を過ごそうとも、誰のもとにも朝は平等に訪れる。
今日の月は綺麗かな?
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