愛なんていらないから03 つかつく
小さなくしゃみが3回出て、
あら?誰かがあたしに惚れた?なんて暢気に笑ったら
「やだぁ、牧野先輩風邪ですか? うつさないでくださいよ。先輩仕事いっぱい残ってますよね?」
いやいやいや、今田さんあなたの仕事の間に合わない分だよね?
「ってか、鼻水飛んでません? 美香、もう食べる気失せちゃったんですけどぉ。もう牧野先輩の奢りですよ」
えっ、もうあと残りって、一口だよね? その一口も口の中に、ほらっ入ってったよね?
「牧野先輩、ちゃんと自己管理してます? 牧野先輩体調悪くても、私、今日は残業変わりませんからね」
へっ? ちょっとマテ。残業変わると変わらないじゃなくて、あなたの仕事だよ?
「あっ、すみまーせん。追加でデラックスイチゴパフェ下さ~い
牧野先輩、いいですよね? お詫びにイチゴパフェ追加で」
いやいや、お詫びってなに? ってか、ちょっとマテ。デラックスイチゴパフェって税込み2,178円の奴だよね?
「あっ、私も~追加で
牧野先輩ご馳走様でーす」
へっ? それちょっと違うよね? ってか、もう食べ終わってたよね?
これ?ブッチしていい? いいよね? うん。いいよ。第一あたし、金欠だもん。結婚式のお祝いにプラスして58,454円。立派な金欠だ。何をもって立派なのかはさておき、何しろ金欠だ。意味わかんないパフェ奢ってる場合じゃない。
立ち上がれ〜立ち上がれ〜 つ・く・し〜つくし〜
頭の中ではあたしがあたしを鼓舞する音楽が流れまくっているのに
ご馳走様で〜す。の言葉と共にお財布の中の一万円札が飛んでった。お釣りは1,310円。あたしのお昼は1,078円なのにだ。
溜め息吐きながら戻ってみればクレーム電話。
「牧野変わってやれ」
だってよ。
変わってやれも何も、内容知らんがな。目の前に出されたファイル見ながらクレーム対応。第一声に怒鳴られて、必死に謝罪してアポ取ってる間に、クレームやらかした末田さんはノンビリ3時のおやつ。
しかもだ
「うわっ、ラッキー!! 一個残るぅ」
ちょっとマテ それ、あたしのシャンパンいちご大福だ。
こめかみがピキピキと音を立ててる間に、ジャンケンが始まって、電話を切った瞬間にジャンケン勝者の末田さんのお口へと吸い込まれてた。
「それ……あたしの」
そんな声は、誰にも拾われない。
あたしは資料片手に、2個目を食べ終えた末田さんに
「謝罪行くよ」
と声かければ、
「私、そういうの苦手なんで、牧野先輩お願いします。課長も良いって言ってるんで」
だってさ。唖然としながら課長を見れば
「牧野、こういうのお得意だろ? それに大得意様だ。よろしく頼むよ。じゃ、行ってこい」
だってよ。
追い討ちをかけるように今田さんが
「牧野先輩〜 今日の残業忘れないで下さいね」
だってさ。あたしは無言で部屋を出た。コートを忘れて引き返しドアノブを開けようとした瞬間、聞こえてきたのは
「何アレ感じワルッ」の吐き捨てるよう言葉と、それに同意する課長の声だった。
コートどうしようかな? 一瞬悩んだが、あたしが悪いわけじゃない。ドアを開けコートを取りに戻った。今田さんと課長の肩が同時にビクッと上がる。あまりにも同時に上がったのが可笑しくて、あたしの口から笑いが溢れた。
二人の前をゆっくりと通り、ホワイトボードの牧野のスペースにクレーム対応後直帰と書き記し、「行って参ります」背を向け部署を出た。
大きな背伸びを一つして空を見上げた。あたしは両手で頬を一つ叩いてから、相手先に向かった。
で、なぜか目の前に_________驚くほどに威圧感のある男が座っている。
あけましておめでとうございます。というには一月も三分の一が終わってしまいますが____今年もよろしくお願いします。
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