まだ気づかない Fin 類つく
牧野の肩が小さく小さく揺れている。抱きしめたい。でも……いまは……小さく揺れる肩を類は見守った。
牧野がゆっくりと振り向く、フィレンツェの風に牧野の黒髪がサラサラと揺れた瞬間。あの日フィレンツェの朝靄の中で見た幻の彼女がそこにいた。類の中で全てが繋がっていく。類は手を伸ばして牧野を抱きしめた。幻の彼女が消えてしまわないように。
「牧野、俺、今気がついたよ。初めてあんたと出逢った瞬間から心奪われてたんだって」
気持ち良さげに昼寝していた少女の顔が、得意げに「牧野☆アイ参上」とポーズを決める顔が、バナナの皮で滑りそうになりながら見事バク宙した横顔が、キレッキレッで踊る着ぐるみの姿が……スワヒリ語を流暢に操る姿が、エレベーターに走り込んできて慌てた顔が……笑い顔は勿論、怒る顔や意地の悪い顔までも、全てが自分の心を熱く揺さぶっていた。
「あんたを愛してる。牧野、俺は、あんたが、あんただけが欲しいんだ
あんたと幸せになりたい」
真っ直ぐな言葉が心の奥底に固まったシコリを溶かしていく。
「あたしも専務を愛してる。専務が、専務だけが欲しい。専務と一緒に幸せになりたい」
二人の唇が重なり合った。長い長い口づけ……
「い、い、息が」
「ぷっ ホントあんた、はずさないよね」
「だ、だってこんな、き、キ、キス……」
優しく目を細めた類の両手が牧野を強く強く抱きしめる。
「牧野、花沢に一生骨埋めてね」
牧野は、コクンと一つ頷いてから
「言質とりましたからね」
涙を滲ませた顔で答えた。
二人で生涯を誓い合った日から二年……
「ねぇ つくし……そろそろいいんじゃないのかな?」
「はいっ? 私と専務、確かにお約束しましたよね」
「それはつくし……花沢違いじゃないの……かな?」
「花沢は花沢ですよね」
「だけど…… その、ね、ほらっ。君のお腹には、さぁ」
「専務、先週の検診、専務も一緒に来られましたよね? もう安定期に入ったので無理しなければ大丈夫だって一緒にお聞きしたかと……」
「だ、だ、だけど…… 雪之丞、雪之丞からも何とか言ってくれよ」
類の言葉に、つくしの視線が雪之丞に注がれる
「雪ちゃん、雪ちゃんは味方だよね?」
二人の視線を一心に浴びた雪之丞は
「あっ いや うんっ その
……って、あっ 外、窓の外見て」
雪之丞の指差した先には、大きな大きな二重の虹が出ていた。
類とつくしがダブルレインボーに眺めている合間に、雪之丞はそぉっと部屋を出た。「夫婦喧嘩は犬も食わないよ」と呟きながら。
雪之丞が出て行ったのも気付かずに二人は虹を見た。幸せの象徴と呼ばれる二重の虹を。

最後までお付き合い頂き ありがとうございました
牧野がゆっくりと振り向く、フィレンツェの風に牧野の黒髪がサラサラと揺れた瞬間。あの日フィレンツェの朝靄の中で見た幻の彼女がそこにいた。類の中で全てが繋がっていく。類は手を伸ばして牧野を抱きしめた。幻の彼女が消えてしまわないように。
「牧野、俺、今気がついたよ。初めてあんたと出逢った瞬間から心奪われてたんだって」
気持ち良さげに昼寝していた少女の顔が、得意げに「牧野☆アイ参上」とポーズを決める顔が、バナナの皮で滑りそうになりながら見事バク宙した横顔が、キレッキレッで踊る着ぐるみの姿が……スワヒリ語を流暢に操る姿が、エレベーターに走り込んできて慌てた顔が……笑い顔は勿論、怒る顔や意地の悪い顔までも、全てが自分の心を熱く揺さぶっていた。
「あんたを愛してる。牧野、俺は、あんたが、あんただけが欲しいんだ
あんたと幸せになりたい」
真っ直ぐな言葉が心の奥底に固まったシコリを溶かしていく。
「あたしも専務を愛してる。専務が、専務だけが欲しい。専務と一緒に幸せになりたい」
二人の唇が重なり合った。長い長い口づけ……
「い、い、息が」
「ぷっ ホントあんた、はずさないよね」
「だ、だってこんな、き、キ、キス……」
優しく目を細めた類の両手が牧野を強く強く抱きしめる。
「牧野、花沢に一生骨埋めてね」
牧野は、コクンと一つ頷いてから
「言質とりましたからね」
涙を滲ませた顔で答えた。
二人で生涯を誓い合った日から二年……
「ねぇ つくし……そろそろいいんじゃないのかな?」
「はいっ? 私と専務、確かにお約束しましたよね」
「それはつくし……花沢違いじゃないの……かな?」
「花沢は花沢ですよね」
「だけど…… その、ね、ほらっ。君のお腹には、さぁ」
「専務、先週の検診、専務も一緒に来られましたよね? もう安定期に入ったので無理しなければ大丈夫だって一緒にお聞きしたかと……」
「だ、だ、だけど…… 雪之丞、雪之丞からも何とか言ってくれよ」
類の言葉に、つくしの視線が雪之丞に注がれる
「雪ちゃん、雪ちゃんは味方だよね?」
二人の視線を一心に浴びた雪之丞は
「あっ いや うんっ その
……って、あっ 外、窓の外見て」
雪之丞の指差した先には、大きな大きな二重の虹が出ていた。
類とつくしがダブルレインボーに眺めている合間に、雪之丞はそぉっと部屋を出た。「夫婦喧嘩は犬も食わないよ」と呟きながら。
雪之丞が出て行ったのも気付かずに二人は虹を見た。幸せの象徴と呼ばれる二重の虹を。
最後までお付き合い頂き ありがとうございました
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