愛なんていらないから06 つかつく
「うっ うっ うひゃっー」
耳をつんざく音と共に、俺の意識が浮上する。不快でしかない甲高い声の筈なのに、よく眠った俺の脳は、その声を不快とは受け止めず、それどころか……
「どうした? 何かあったか?」
目の前の女を心配していた。
「な、なにかって……
ちょっ ちょっ ちょっと離れて下さい」
「あぁ すまん」
スルリと謝罪の声が出て、自分で自分に驚いた瞬間、胸に抱え込んでいた女がパッと音でもしそうな勢いで離れていく。
女は体勢を立て直しながら辺りを見渡し、ベッド脇に落ちている服をかき集めスマホを見ながら
「ねぇ 今って何時?」
「9時半だ」
「……あぁ……やっぱり……今日って水曜だよね?」
女の言葉にコクンコクンと頷けば、女は頭を抱えこみ、あぁとかうぅとか唸った後に、シーツを体に巻きつけベッドから降り立った。
「すけべ、着替えるんだからこっち見てないで向こう向いて」
「すけべって、勝手に服を脱いだのは自分だろうが」
「うぐっ もういいから向こう向いてて」
言われるがままに反対方向を向いた。何故か服を着替える音に
「もう、こっち向いていいわよ」
「あっち向け、こっち向けうるさい女だな。俺はお前が服着てようが裸だろうがどっちでも構わないぞ」
「な、何言ってんの。あたしは構うわ
ダメダメ こんな不毛な言い争いしてられないんだった
うんと……どうみょう…じさん? いやいや 道明寺社長 本当に本当にすみませんけど、会社まで車出して頂けたり出来ます?」
小首を傾げ、聞いてくる女の姿が存外に愛らしく思えて、慌てて俺は首を振った。その様を拒絶のジェスチャーと受け取った女は口を尖らせたあと、何やら小声で呟いている。耳をすませば
「えっ、けちじゃない?
あたしは、あんたの都合に朝まで付き合ったって言うのにさ」
小声とは言え、目の前で女にけちと言われた事も文句を言われた事も初めてで、俺は暫く固まった。あっ、いや昨日コイツに散々悪態は吐かれていたか
「コイツ……なんだ?」
俺が心の声を漏らす横で、女はどこかへ電話をかけ出した。
「あっ、沖田さん、そうです。私、牧野です。申し訳ないんですけど、車って呼んで貰えたりします?
あっ、いえいえ、そんな滅相もない……タクシーで構わないんで。
あっ、何ならここの住所教えて貰えば自分で呼びますから。
えっ?
あっ、はい。すいません」
女のすいませんの声に合わせたかのようにノックの音がして、沖田の声がした。
「入れ」
「おはようございます」
爽やかな笑顔を携えて部屋に入ってくる。
「あっ、沖田さん、おはようございます。
って、今すぐって本当にいますぐの所に待機なさってたんですね」
沖田と笑顔で話す女にムッとした。
なんでだ?
俺の動揺をよそに
「じゃ、ほんとお手数かけて申し訳ないんですけど会社まで送って頂いても宜しいですか?」
小首を傾げ沖田に聞いている。
可愛く見えたはずの小首を傾げる仕草が、なぜだか気に食わない。
可愛く……? いやいやっ……俺は慌てて首を振る。
沖田が目を瞬かせたあと
「あっ、牧野さん、社の方は週明けからで結構ですよ。本日は牧野さんの荷物をこちらにお持ち頂く作業のご指示をお願いできますでしょうか?」
「ふへっ? あの、来週って……あの……」
「あっ、勝手に申し訳ございませんが、こちらの方で諸々は手続きは済んでおりますので」
「へっ? 手続きって?」
「手続きは手続きですよ。いやだなぁ 牧野さん、昨晩契約書にサインされたじゃないですか」
「サ、サインって……と言うか、あたし……今日会議が……」
「あっ、そうそう道明寺グループの福利厚生なんですが、そちらの一覧も昨晩の契約書のコピーとご一緒にお渡ししますね」
沖田の言葉に女は首を捻りながら
「道明寺グループって?うんと……あの……」
「そうそう、毎晩、社長の寝室にご一緒して頂きますので、牧野さんの名誉を守らせて頂くためにも、部署は秘書課とさせて頂きました。私、沖田の部下という形になりますので、今後とも宜しくお願いしますね」
沖田の爽やかな笑顔に女の眉根が寄った。

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耳をつんざく音と共に、俺の意識が浮上する。不快でしかない甲高い声の筈なのに、よく眠った俺の脳は、その声を不快とは受け止めず、それどころか……
「どうした? 何かあったか?」
目の前の女を心配していた。
「な、なにかって……
ちょっ ちょっ ちょっと離れて下さい」
「あぁ すまん」
スルリと謝罪の声が出て、自分で自分に驚いた瞬間、胸に抱え込んでいた女がパッと音でもしそうな勢いで離れていく。
女は体勢を立て直しながら辺りを見渡し、ベッド脇に落ちている服をかき集めスマホを見ながら
「ねぇ 今って何時?」
「9時半だ」
「……あぁ……やっぱり……今日って水曜だよね?」
女の言葉にコクンコクンと頷けば、女は頭を抱えこみ、あぁとかうぅとか唸った後に、シーツを体に巻きつけベッドから降り立った。
「すけべ、着替えるんだからこっち見てないで向こう向いて」
「すけべって、勝手に服を脱いだのは自分だろうが」
「うぐっ もういいから向こう向いてて」
言われるがままに反対方向を向いた。何故か服を着替える音に
「もう、こっち向いていいわよ」
「あっち向け、こっち向けうるさい女だな。俺はお前が服着てようが裸だろうがどっちでも構わないぞ」
「な、何言ってんの。あたしは構うわ
ダメダメ こんな不毛な言い争いしてられないんだった
うんと……どうみょう…じさん? いやいや 道明寺社長 本当に本当にすみませんけど、会社まで車出して頂けたり出来ます?」
小首を傾げ、聞いてくる女の姿が存外に愛らしく思えて、慌てて俺は首を振った。その様を拒絶のジェスチャーと受け取った女は口を尖らせたあと、何やら小声で呟いている。耳をすませば
「えっ、けちじゃない?
あたしは、あんたの都合に朝まで付き合ったって言うのにさ」
小声とは言え、目の前で女にけちと言われた事も文句を言われた事も初めてで、俺は暫く固まった。あっ、いや昨日コイツに散々悪態は吐かれていたか
「コイツ……なんだ?」
俺が心の声を漏らす横で、女はどこかへ電話をかけ出した。
「あっ、沖田さん、そうです。私、牧野です。申し訳ないんですけど、車って呼んで貰えたりします?
あっ、いえいえ、そんな滅相もない……タクシーで構わないんで。
あっ、何ならここの住所教えて貰えば自分で呼びますから。
えっ?
あっ、はい。すいません」
女のすいませんの声に合わせたかのようにノックの音がして、沖田の声がした。
「入れ」
「おはようございます」
爽やかな笑顔を携えて部屋に入ってくる。
「あっ、沖田さん、おはようございます。
って、今すぐって本当にいますぐの所に待機なさってたんですね」
沖田と笑顔で話す女にムッとした。
なんでだ?
俺の動揺をよそに
「じゃ、ほんとお手数かけて申し訳ないんですけど会社まで送って頂いても宜しいですか?」
小首を傾げ沖田に聞いている。
可愛く見えたはずの小首を傾げる仕草が、なぜだか気に食わない。
可愛く……? いやいやっ……俺は慌てて首を振る。
沖田が目を瞬かせたあと
「あっ、牧野さん、社の方は週明けからで結構ですよ。本日は牧野さんの荷物をこちらにお持ち頂く作業のご指示をお願いできますでしょうか?」
「ふへっ? あの、来週って……あの……」
「あっ、勝手に申し訳ございませんが、こちらの方で諸々は手続きは済んでおりますので」
「へっ? 手続きって?」
「手続きは手続きですよ。いやだなぁ 牧野さん、昨晩契約書にサインされたじゃないですか」
「サ、サインって……と言うか、あたし……今日会議が……」
「あっ、そうそう道明寺グループの福利厚生なんですが、そちらの一覧も昨晩の契約書のコピーとご一緒にお渡ししますね」
沖田の言葉に女は首を捻りながら
「道明寺グループって?うんと……あの……」
「そうそう、毎晩、社長の寝室にご一緒して頂きますので、牧野さんの名誉を守らせて頂くためにも、部署は秘書課とさせて頂きました。私、沖田の部下という形になりますので、今後とも宜しくお願いしますね」
沖田の爽やかな笑顔に女の眉根が寄った。
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