baroque 97
「こげん 朝早くからどげん用事よ?」
朝日が昇ると同時に電話の音で起こされたインディゴちゃんの機嫌は、かなり悪い。
「……ごめん。あのさ、今日、ランチでも一緒にどうかなって?」
「そげんこつで、こんな朝早うから電話したと? アタシ寝たの二時間前なんやけど」
「じゃぁ、このまま起きてル・シエでモーニングなんてどうかな?
ワタルさん、ル・シエの料理好きだって言ってたよね?」
「薫、聞いとった? アタシ寝たのが二時間前って」
「うん。だからこのまま起きてモーニングを」
「薫くん。残念なことに、ル・シエはディナーのみで完全予約制。モーニングなんてものはやってません」
「あれっ、そうだっけ? 前に何度か行ったことあるんだけどな」
「それは、あんたんとこの秘書が有能だから」
「じゃ 今から連絡して頼んどくよ」
「ちょっ、薫、今から連絡するって何考えとん。はぁっ、もう、うちに来ていいから。周りに迷惑かけんとよ。あっ、ジョアンヌが9時に開くから、そこで苺サンド買ってきて」
電話を切ったインディゴちゃんは、薫を迎え入れるために大きな欠伸を一つしてからベッドから抜け出した。
ジョアンヌからインディゴちゃんの家まで車で約10分かかるはずなのに……
何故か7時半には、インディゴちゃんの部屋のソファーに座っている。
「ねぇ、あんたのとこの秘書さんって、どげん優秀なん?」
「秘書が優秀?」
インディゴちゃんの問いに薫が首を傾げオウム返しした。
「優秀でしょ。9時から開くジョアンヌの苺サンドが7時半の時点でうちにあるんだから」
「あぁ、それ僕」
「僕って、あんた……」
「ジョアンヌは、つくしの好物でよく行ってたから、並んでたら開けてくれたんだ」
「並んでたって……
はぁっ、薫さん、あんた、どげんこつアタシに会いたかったんよ?」
インディゴちゃんの溜息が混じった揶揄いの言葉をものともせずに
「ほらっ、つくしって天性の人懐っこさで誰とでも直ぐに仲良くなれるだろ。新谷に行った時に偶々ジョアンヌのご夫婦が来ていてね。それで知り合ってジョアンヌに行くようになったんだよ。つくし曰くジョアンヌの苺サンドは芸術らしいよ」
インディゴちゃんの淹れたコーヒーを啜りながら話す。
「薫……アタシも色々忙しいんよ。こんな朝早くから、振られた女の思い出話しなんだか、惚気話なんだか、よく分からない話しせえへんで、用件にうつって」
「惚気なんて……あっ、でも惚気なのかな?」
朝早く起こされてご機嫌斜めのインディゴちゃんとは裏腹に、薫は蕩けるような微笑みを浮かべている。
「はぁっーーー で?」
「あのね僕、つくしを愛してるんだ」
「はい。はい。 で?」
「いや、だから僕、つくしを愛してるんだ」
「うん。薫くん……人を朝早うから起こして、そんなわかりきったことを言いにきたん?」
「……ワタルさん怒ってる? 怒ってる……よね。
でも、ワタルさんには知ってて貰いたいんだ。僕がつくしを愛してるってこと」
「ったくもう、朝はようからそげんキラキラしてつくしを愛してるって……あんた、暇なん?
フゥッーー 天下の宝珠薫もつくしの前じゃ形無しってことなんやね」
「うん。形無しなんだ」
薫は、思わず釣られてしまうくらいの屈託の無い笑顔で言い切った。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
総二郎は、イライラとする気持ちを抑えながらスマホの画面を見つめていた。画面の中にはまるで定型文のようなつくしからの朝の挨拶。京都に戻ったからと言って少し前までは、時間の合間を縫うように他愛ないメッセージのやり取りが続いていた。なのに……求めれば求める程につくしが自分の手から離れていく。
「はぁっ」
総二郎は、何度目のため息なのか解らないほどのため息を吐いてから、テーブルにスマホを置いてソファーから立ち上がった。その瞬間
ピロリ―ン
着信音が響いて、慌ててスマホを手に取れば、可愛らしい絵文字と共に昨日の礼を伝える雛子からのメッセージ。総二郎は、肩を落とした後、もう一つため息を吐いてから、メッセージのやり取りをした。
総二郎は、満たされない思いを抱えながら、偽りの安然を手にする。それがどれだけ相手を傷つけるとも考えずに。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
つくしは、まんじりともせずに夜を過ごし朝を迎えた。ため息を一つ吐いてから、ルーティンをこなすかのように総二郎にメッセージを送ったあと、窓辺に立ち庭を見た。
「………薫? えっ、なんで……」
つくしは、部屋を飛び出し階段を駆け下りる。

朝日が昇ると同時に電話の音で起こされたインディゴちゃんの機嫌は、かなり悪い。
「……ごめん。あのさ、今日、ランチでも一緒にどうかなって?」
「そげんこつで、こんな朝早うから電話したと? アタシ寝たの二時間前なんやけど」
「じゃぁ、このまま起きてル・シエでモーニングなんてどうかな?
ワタルさん、ル・シエの料理好きだって言ってたよね?」
「薫、聞いとった? アタシ寝たのが二時間前って」
「うん。だからこのまま起きてモーニングを」
「薫くん。残念なことに、ル・シエはディナーのみで完全予約制。モーニングなんてものはやってません」
「あれっ、そうだっけ? 前に何度か行ったことあるんだけどな」
「それは、あんたんとこの秘書が有能だから」
「じゃ 今から連絡して頼んどくよ」
「ちょっ、薫、今から連絡するって何考えとん。はぁっ、もう、うちに来ていいから。周りに迷惑かけんとよ。あっ、ジョアンヌが9時に開くから、そこで苺サンド買ってきて」
電話を切ったインディゴちゃんは、薫を迎え入れるために大きな欠伸を一つしてからベッドから抜け出した。
ジョアンヌからインディゴちゃんの家まで車で約10分かかるはずなのに……
何故か7時半には、インディゴちゃんの部屋のソファーに座っている。
「ねぇ、あんたのとこの秘書さんって、どげん優秀なん?」
「秘書が優秀?」
インディゴちゃんの問いに薫が首を傾げオウム返しした。
「優秀でしょ。9時から開くジョアンヌの苺サンドが7時半の時点でうちにあるんだから」
「あぁ、それ僕」
「僕って、あんた……」
「ジョアンヌは、つくしの好物でよく行ってたから、並んでたら開けてくれたんだ」
「並んでたって……
はぁっ、薫さん、あんた、どげんこつアタシに会いたかったんよ?」
インディゴちゃんの溜息が混じった揶揄いの言葉をものともせずに
「ほらっ、つくしって天性の人懐っこさで誰とでも直ぐに仲良くなれるだろ。新谷に行った時に偶々ジョアンヌのご夫婦が来ていてね。それで知り合ってジョアンヌに行くようになったんだよ。つくし曰くジョアンヌの苺サンドは芸術らしいよ」
インディゴちゃんの淹れたコーヒーを啜りながら話す。
「薫……アタシも色々忙しいんよ。こんな朝早くから、振られた女の思い出話しなんだか、惚気話なんだか、よく分からない話しせえへんで、用件にうつって」
「惚気なんて……あっ、でも惚気なのかな?」
朝早く起こされてご機嫌斜めのインディゴちゃんとは裏腹に、薫は蕩けるような微笑みを浮かべている。
「はぁっーーー で?」
「あのね僕、つくしを愛してるんだ」
「はい。はい。 で?」
「いや、だから僕、つくしを愛してるんだ」
「うん。薫くん……人を朝早うから起こして、そんなわかりきったことを言いにきたん?」
「……ワタルさん怒ってる? 怒ってる……よね。
でも、ワタルさんには知ってて貰いたいんだ。僕がつくしを愛してるってこと」
「ったくもう、朝はようからそげんキラキラしてつくしを愛してるって……あんた、暇なん?
フゥッーー 天下の宝珠薫もつくしの前じゃ形無しってことなんやね」
「うん。形無しなんだ」
薫は、思わず釣られてしまうくらいの屈託の無い笑顔で言い切った。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
総二郎は、イライラとする気持ちを抑えながらスマホの画面を見つめていた。画面の中にはまるで定型文のようなつくしからの朝の挨拶。京都に戻ったからと言って少し前までは、時間の合間を縫うように他愛ないメッセージのやり取りが続いていた。なのに……求めれば求める程につくしが自分の手から離れていく。
「はぁっ」
総二郎は、何度目のため息なのか解らないほどのため息を吐いてから、テーブルにスマホを置いてソファーから立ち上がった。その瞬間
ピロリ―ン
着信音が響いて、慌ててスマホを手に取れば、可愛らしい絵文字と共に昨日の礼を伝える雛子からのメッセージ。総二郎は、肩を落とした後、もう一つため息を吐いてから、メッセージのやり取りをした。
総二郎は、満たされない思いを抱えながら、偽りの安然を手にする。それがどれだけ相手を傷つけるとも考えずに。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
つくしは、まんじりともせずに夜を過ごし朝を迎えた。ため息を一つ吐いてから、ルーティンをこなすかのように総二郎にメッセージを送ったあと、窓辺に立ち庭を見た。
「………薫? えっ、なんで……」
つくしは、部屋を飛び出し階段を駆け下りる。
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