紅蓮 114
つくしは、8つ並んだ惑星を指で回す。土星の輪っかがなぜか気になって、くるりくるりと回す。久方ぶりのお休みを取った佐久間が永久と玲にお土産だと言ってくれたものの中に入っていたこの8つの惑星知育玩具が何故かつくしの心を捉えて離さないのだ。
くるりくるりと回すたび、つくしの顔に笑みが広がる。何故だろう?考えてみても……よくわからない。あまり考えすぎると、頭の芯が痛む。でも……やめられなくて、くるくると回す。それに____何かの仕掛けなのか、くるりとくるりと規定回数以上回すと微かにいい香りがする。その香りを嗅ぐ度に心が優しさで包まれるのだ。
「かぁしゃま くるくる どこのおほちしゃま?」
永久が佐久間のお土産の宇宙の絵本を抱えて、つくしに問うてくる。
「コレは、火星 コレが金星で この輪っかのついたのが…………」
「かぁしゃま?」
「あっ ごめんね。
そうだわ、お空が暗くなったら望遠鏡で見てみましょう」
「あいっ」
つくしは、元気よく返事をする永久を見つめながら、何か自分は大切なことを忘れているのではないかと自問自答していた。
「かぁしゃま どったの?」
難しい顔をしていたのか、永久が心配そうにつくしの顔を覗き込む。その瞬間……永久の中に一人の男の面影を見た。
「えっ……」
つくしは、あり得ないとばかりに首を振る。あり得るわけないと____
でもと、永久を見れば_____永久の美しい
「かぁしゃま?」
再び永久の心配げな声がして、つくしは我に返り笑顔を作る。
「ううん。
もうじき玲君が来るんだったと思ってね」
「あいっ」
つくしの笑顔と玲の名前に、永久に笑顔が戻る。
「かぁしゃま、
「レイくんも おほちしゃまみる?」
「あぁそうね。玲君も一緒にお星さま見れたら良いわね」
初めは、つくしの治療時だけに訪れていた玲だが、夏を過ぎる辺りから、治療とは関係なく玲が訪れるようになっていた。初めの頃、宗谷はつくしのその申し出にいい顔はしなかったのだが、普段お願いなどしない永久に頼まれて渋々だが首を縦にふったのだ。
それから____心の動揺を隠し、永久やつくしが話す、どこか己に似ている玲の話しを聞くことになった。
何度も話を聞くうちに、会ってみたいと心を動かされたのは血の繋がりの成せる技だったのだろうか______幾度もその思いに駆られながらも、決して玲の前に顔を見せなかった。
それは_____誰の策略でもなく偶然の出来事だった。いや、幾つかの間違いを正すための神の采配だったのかもしれない。
その日、予定していた会議が相手側会長の急病により見送られ、宗谷にぽっかりと時間が空いたため、天候不良でこちらに戻ることの出来なかった幹部役員の代わりに視察に出ることになった。雲一つない天気のよい空だった。宗谷は、唐突に、本当に唐突に美繭の笑顔を思い出す。悲しそうに笑う美繭ではなく、青空の下屈託なく笑う顔を。思いがけず思い出した美繭の笑顔に涙が出そうになり目を瞑る。
美繭に会いたいと願った。会える筈などないことは十分に解っているはずなのに____美繭に会いたいと心の底から願っていた。
視察時間の変更に伴い担当の人間が変わっていたのは、なんの偶然だったのだろうか?
紅蓮___覚えてらっしゃいますか?
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