愛なんていらないから08 つかつく
パンッ
俺は無意識に、女の腕を掴もうとした沖田の手を払い除けていた。
「えっ」
「えっ」
沖田と声が被る。声に驚いたのか?女の首が左右に傾げられる。つられて俺も首を傾げた。
「なんでだ?」
声に出して、初めて俺は俺自身のとった行動に驚いた。驚いていたら、女はしゃがみ込み書類を拾いながらなにやら小さい声でブツブツと呟いている。何を呟いているのかが聞こえずに耳を側立てれば、沖田が立ち上がりながら
「牧野さん、大変申し訳ないのですが、これからの牧野さんの人生には大変密接な関係があるかと________
では、契約書の写しに関しましてはコチラに置かせていただきますね。___それと牧野さん、牧野さん時折、心の声が漏れているというか_____」
その言葉に、女はこれ以上にないという程に、目を見開いて
「えっ、じゃあ、まさか道明寺のことケチって言ったのも漏れてました?」
なんて、のたまってから、ハ慌てた顔して両手で口を押えた。
ハッ?
ハッ?
ケチってなんだケチって。生まれてこの方ケチだなんだと言われたことないぞ。
それになんだ道明寺って____お前、俺のことを呼び捨てか?
眉根を寄せた瞬間_____女は、こともあろうに
「ぷっ 赤鬼さんと青鬼さんみたい」
と言いながら、堪えきれないとばかりに笑い出した。
女の言う、赤鬼と青鬼が何を意味するのか俺には解らなかったが、俺と沖田を揶揄して言っていると言うのは解った。
「まきのー----」
腹の底から声が出せば、女は、いや、牧野は
「ヒィーー」
と雄叫びをあげながら泣きべそをかいた。
泣きべそ顔の牧野は、昔捨てたうさぎのぬいぐるみにどこか似ていた。
なんだかんだあったが、契約書の威力はでかい。あの夜撮った動画を牧野に見せる事なく、牧野は俺の部下になった。
「あのさ、あたしの直属の上司は沖田室長で、道明寺じゃないんだからね」
「沖田の直属の上司は俺で、俺は道明寺HDの社長だ。で、おまえは今道明寺HDの社員だ」
なんて会話を毎晩してる。コイツ、案外と言うかなんと言うか仕事は出来る。事前調査で対外的な評判はすこぶる良いコトはわかっていた。その割に社内評価が低かったが。まぁお陰ですんなりと前の会社から牧野を引っ張る事が出来たのだが。
前の会社での社内評価が低かったのは、この生意気な態度と毒舌が原因か?と思ったが、仕事している牧野を見ると、生意気でもないし、毒舌でもない。
それに_________コイツ、コーヒーを淹れるのが天才的に上手い。
「タマもビックリだ」
思わず呟けば
「なになにタマって? 道明寺、実家の本邸ネコでも飼ってるの?それとも意表を突いてワンコとか?
あっ、道明寺って、犬派?猫派?どっち派?
あっ それより あたしどっちも好きだしアレルギーもないから、ここのマンションに連れて来ていいよ
あぁ、でもお昼間一人になっちゃうから可哀想か」
俺のたった一言の呟きで、マシンガントークが繰り広げられてく。今までの俺なら、こんな話しは、うるさい以外何者でもないのだが________眠りが足りてる今現在、楽しく……いや、許せる範囲で話しを聞ける。
「って、道明寺、あんたどっち派よ
あっ、その前にタマちゃんってどっちよ?」
「タマは_______犬でも猫でもない
でもって、俺はどっち派でもない」
「エェーーーー まさかのウサギとかハムスターの小動物系?
はたまたライオンとかチーターの猛獣系?
小動物はいいけど、猛獣はねー
でもさ、思わず名前呟くくらいだから、可愛がってるんだよね。
今度合わせてね」
見当違いの事をニコニコ話してくる。今度合わせてねか。ククッ 合わせてやろうじゃないか。
タマの教え受けて来い!
「あぁいいぞ」
「うわっ 楽しみ
あっ 猛獣って言えば、道明寺HDに猛獣使いがいるらしいよー」
「なんだそれ
ガセネタじゃないのか?」
「いやいやいや。社食で男性社員達が話してたんだよね。何度も本当なんだを繰り返してたから本物ネタでしょ。きっとさ実家がサーカスとか動物プロダクションとかなんじゃないかと思うのよね。そう言う場所じゃないと飼えないでしょ」
「先週あったヴェルクリの家には確か虎とライオンが居たはずだぞ」
「ふへぇ でもそれ一般的なお家じゃないから」
「それもそうか」
牧野は、そうだと言うばかりに高速で頷いている。頷く度に風呂上がりの髪の匂いがふんわり香る。前々から思っていたが、この香りはなんとも言えない落ち着くいい香りだ。
「そう言えば、お前、シャンプーなに使ってんだ?」
「へっ?シャンプー?
バスルームに置いてあるのだけど……あれすごくいいね。
あれって、メープルに置いてあったのと一緒だよね? 前に雑誌で読んで一度使ってみたいって思ってたんだけど、あのシャンプー、めっちゃ高くて諦めたんだよね。
でもさぁ、高いだけあるよね。と言うか値段に納得。
だって見て見て
ほらっ!」
そう言いながら、サラサラと髪を揺らす。
って……へっ?
俺と同じなのか?
なんなら、タマもババァも姉貴も使ってる筈だ。
いやっ、違うよな?
首を傾げれば
「いやだ。アレってもしかして勝手に使っちゃいけないのだった?」
慌てて聞かれて、我に返った。
「あっ いや」
「ふぅーーっ 良かった
よっ 太っ腹!」
「ッたぁっ 何が よっ 太っ腹だ。
お前、俺のことケチだケチだ言うだろうよ」
俺の言葉に両手を挙げるジェスチャーをしてから、ふわぁーーーっと大きな欠伸を一つした。
「眠くなった。道明寺まだ仕事だっけ?
じゃぁ あたし先寝てるね」
「あぁ」
「じゃ 頑張りすぎないようにね」
そんな言葉と共に後ろ手で手を振って、部屋を出て行った。
部屋の扉がゆっくりと閉まるまで、その姿を見送った。
たぶんさ_______猛獣使いって

ありがとうございます
俺は無意識に、女の腕を掴もうとした沖田の手を払い除けていた。
「えっ」
「えっ」
沖田と声が被る。声に驚いたのか?女の首が左右に傾げられる。つられて俺も首を傾げた。
「なんでだ?」
声に出して、初めて俺は俺自身のとった行動に驚いた。驚いていたら、女はしゃがみ込み書類を拾いながらなにやら小さい声でブツブツと呟いている。何を呟いているのかが聞こえずに耳を側立てれば、沖田が立ち上がりながら
「牧野さん、大変申し訳ないのですが、これからの牧野さんの人生には大変密接な関係があるかと________
では、契約書の写しに関しましてはコチラに置かせていただきますね。___それと牧野さん、牧野さん時折、心の声が漏れているというか_____」
その言葉に、女はこれ以上にないという程に、目を見開いて
「えっ、じゃあ、まさか道明寺のことケチって言ったのも漏れてました?」
なんて、のたまってから、ハ慌てた顔して両手で口を押えた。
ハッ?
ハッ?
ケチってなんだケチって。生まれてこの方ケチだなんだと言われたことないぞ。
それになんだ道明寺って____お前、俺のことを呼び捨てか?
眉根を寄せた瞬間_____女は、こともあろうに
「ぷっ 赤鬼さんと青鬼さんみたい」
と言いながら、堪えきれないとばかりに笑い出した。
女の言う、赤鬼と青鬼が何を意味するのか俺には解らなかったが、俺と沖田を揶揄して言っていると言うのは解った。
「まきのー----」
腹の底から声が出せば、女は、いや、牧野は
「ヒィーー」
と雄叫びをあげながら泣きべそをかいた。
泣きべそ顔の牧野は、昔捨てたうさぎのぬいぐるみにどこか似ていた。
なんだかんだあったが、契約書の威力はでかい。あの夜撮った動画を牧野に見せる事なく、牧野は俺の部下になった。
「あのさ、あたしの直属の上司は沖田室長で、道明寺じゃないんだからね」
「沖田の直属の上司は俺で、俺は道明寺HDの社長だ。で、おまえは今道明寺HDの社員だ」
なんて会話を毎晩してる。コイツ、案外と言うかなんと言うか仕事は出来る。事前調査で対外的な評判はすこぶる良いコトはわかっていた。その割に社内評価が低かったが。まぁお陰ですんなりと前の会社から牧野を引っ張る事が出来たのだが。
前の会社での社内評価が低かったのは、この生意気な態度と毒舌が原因か?と思ったが、仕事している牧野を見ると、生意気でもないし、毒舌でもない。
それに_________コイツ、コーヒーを淹れるのが天才的に上手い。
「タマもビックリだ」
思わず呟けば
「なになにタマって? 道明寺、実家の本邸ネコでも飼ってるの?それとも意表を突いてワンコとか?
あっ、道明寺って、犬派?猫派?どっち派?
あっ それより あたしどっちも好きだしアレルギーもないから、ここのマンションに連れて来ていいよ
あぁ、でもお昼間一人になっちゃうから可哀想か」
俺のたった一言の呟きで、マシンガントークが繰り広げられてく。今までの俺なら、こんな話しは、うるさい以外何者でもないのだが________眠りが足りてる今現在、楽しく……いや、許せる範囲で話しを聞ける。
「って、道明寺、あんたどっち派よ
あっ、その前にタマちゃんってどっちよ?」
「タマは_______犬でも猫でもない
でもって、俺はどっち派でもない」
「エェーーーー まさかのウサギとかハムスターの小動物系?
はたまたライオンとかチーターの猛獣系?
小動物はいいけど、猛獣はねー
でもさ、思わず名前呟くくらいだから、可愛がってるんだよね。
今度合わせてね」
見当違いの事をニコニコ話してくる。今度合わせてねか。ククッ 合わせてやろうじゃないか。
タマの教え受けて来い!
「あぁいいぞ」
「うわっ 楽しみ
あっ 猛獣って言えば、道明寺HDに猛獣使いがいるらしいよー」
「なんだそれ
ガセネタじゃないのか?」
「いやいやいや。社食で男性社員達が話してたんだよね。何度も本当なんだを繰り返してたから本物ネタでしょ。きっとさ実家がサーカスとか動物プロダクションとかなんじゃないかと思うのよね。そう言う場所じゃないと飼えないでしょ」
「先週あったヴェルクリの家には確か虎とライオンが居たはずだぞ」
「ふへぇ でもそれ一般的なお家じゃないから」
「それもそうか」
牧野は、そうだと言うばかりに高速で頷いている。頷く度に風呂上がりの髪の匂いがふんわり香る。前々から思っていたが、この香りはなんとも言えない落ち着くいい香りだ。
「そう言えば、お前、シャンプーなに使ってんだ?」
「へっ?シャンプー?
バスルームに置いてあるのだけど……あれすごくいいね。
あれって、メープルに置いてあったのと一緒だよね? 前に雑誌で読んで一度使ってみたいって思ってたんだけど、あのシャンプー、めっちゃ高くて諦めたんだよね。
でもさぁ、高いだけあるよね。と言うか値段に納得。
だって見て見て
ほらっ!」
そう言いながら、サラサラと髪を揺らす。
って……へっ?
俺と同じなのか?
なんなら、タマもババァも姉貴も使ってる筈だ。
いやっ、違うよな?
首を傾げれば
「いやだ。アレってもしかして勝手に使っちゃいけないのだった?」
慌てて聞かれて、我に返った。
「あっ いや」
「ふぅーーっ 良かった
よっ 太っ腹!」
「ッたぁっ 何が よっ 太っ腹だ。
お前、俺のことケチだケチだ言うだろうよ」
俺の言葉に両手を挙げるジェスチャーをしてから、ふわぁーーーっと大きな欠伸を一つした。
「眠くなった。道明寺まだ仕事だっけ?
じゃぁ あたし先寝てるね」
「あぁ」
「じゃ 頑張りすぎないようにね」
そんな言葉と共に後ろ手で手を振って、部屋を出て行った。
部屋の扉がゆっくりと閉まるまで、その姿を見送った。
たぶんさ_______猛獣使いって
ありがとうございます
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