禁花~愛しいあなた~02
総二郎との邂逅は、当時付き合っていた6歳上の彼との結婚が決まったあとだった。彼との出会いは、二年半の大規模庁の仕事を終え、初の転属先でだった。先輩判事補としての彼は様々なことを私に教えてくれた。彼が判事として次の転勤先に行く事が決まった夜、結婚を前提とした付き合いを申し込まれた。その恋は、十代で体験したような激しい恋ではなかった________いや、そうでなかったからこそ、楽に息が出来たし、打算的に将来のことを考えられ、私は付き合いを承諾した。
彼の一族は法曹界一族と言っても良いような一族だったので……私と彼との付き合いは、付き合い始めから好意的に受け止められていた。だから、彼となら誰からも祝福される結婚をして幸せな家庭を築けると思っていた。
ゆくゆくは、彼の父親が経営する大手弁護士事務所を判事補上がりの私と判事上がりの彼との二人で、跡を継いで盛り立てていく。そんな未来図を想像していた。
激しい思いは無いけれど_________だからこそ幸せになれると思った。
判事と判事補______お互いに忙しく離れた職場での恋愛は、盛り上がりに欠けたが、大人の男女としてルーティンをこなし、そろそろ二度目の転属先が決まりそうな頃、プロポーズの言葉と共にダイヤの指輪をを贈られた。
ダイヤの指輪を見た瞬間……十代の激しい恋を思い出して、「はい」という言葉が直ぐには出なかったけれど……それは、本当に一瞬のことで、笑顔と共に受け取る事が出来て、十代の恋が自分の中できちんと終わっていたことに安堵した。
なのに________結納を終え、半年後に控えた結婚準備のために判事補の退官を決めたあたりから私の心に空虚さが生まれた。
日々、空虚さが募っていった。結婚して彼と一緒に新しい生活をし始めれば、この空虚さも消える。そう思い込もうとした矢先、私のもとに一通の手紙が届いた。
お願いします。
彼と別れてください。
手紙には、美しい文字でそう書かれていた。真偽を確かめるために、彼の実家がある、ゆくゆくは暮らして行く筈の街を訪れた。
待ち合わせの場所には、彼と彼の幼馴染とその妹さんが居た。
彼の幼馴染は「申し訳ない」そう謝ってから、隣の妹さんの頭を手で押した。手紙を送ったのは隣に居る妹さんで、昔から彼のことが好きで結婚の話を聞き、諦められずにいつの間にか私宛に手紙を送っていたのだと説明した。
「一ミリたりともコイツには責任はないんだ。妹の完全なる片思いなんだ。
嫌な気持ちにさせちゃって、本当に申し訳ない」
そう何度も頭を下げ、同時に妹さんの頭を手で押していた。彼の幼馴染とは何度か公の場でもあった事があったのでその言葉が嘘だなんて微塵も疑わなかった。
なのに_______私は、この結果に安堵するどころか落胆した。落胆した自分に愕然としながら、仕事を言い訳に帰路に着いた。
帰りの新幹線は、ジャケットを頭から被った。
「すいません」
声を掛けられ、ジャケットから顔を出すとそこに総二郎が居た。
いつぶりだろうと考えても思い出せないほどの月日会っていなかった総二郎の第一声は
「なっ 牧野じゃん
お前相変わらず慌てもんだな。ここ俺の席、お前席間違ってないか?」
そんな言葉だった。思わず涙が出た。総二郎は驚いた顔してからスッとあたしの横の席に腰掛け
「まぁ 二席とも指定取ってるから、このままでいいな」
そう言った。
新幹線の中で、缶ビールを2本空けた。ほろ酔い気分で、会っていなかった年月を埋めた。
懐かしさと話し足りなさと、色んな感情に後押しされて、二人でもう一軒飲みに行った。
「おっ、お前強くなったな」
「大人になったからね。西門さんは相変わらず女性に対してスマートだね」
そんな軽口を叩き合う内に、いつの間にかワインを4本空にしていた。5本目を頼もうとしたところで、closeの時間を告げられた。それでもまだ飲み足りなくて、総二郎のマンションで飲むことにした。
意外なほどに殺風景な部屋だった。それがなぜだかとても落ち着いた。
酒類だけは驚くほど豊富にあった。
「凄く良いお酒ばっかり」
あたしの言葉に
「一人で飲む酒だからな」
そう言って柔らかく微笑んだ。
「ココ、女の子連れ込まないの?」
「あぁ」
「そっか______あっ、じゃ記念すべき女の子第一号じゃん」
「はっ? 誰が女の子だ」
言葉と共に、総二郎の指があたしの額を弾いた。さも痛かったとばかりに俯き加減に自分の額を摩った。
「えっ マジ 痛かったか? ちょっ、デコ見せてみろ」
総二郎の手があたしの手を掴んだ。

ありがとうございます
彼の一族は法曹界一族と言っても良いような一族だったので……私と彼との付き合いは、付き合い始めから好意的に受け止められていた。だから、彼となら誰からも祝福される結婚をして幸せな家庭を築けると思っていた。
ゆくゆくは、彼の父親が経営する大手弁護士事務所を判事補上がりの私と判事上がりの彼との二人で、跡を継いで盛り立てていく。そんな未来図を想像していた。
激しい思いは無いけれど_________だからこそ幸せになれると思った。
判事と判事補______お互いに忙しく離れた職場での恋愛は、盛り上がりに欠けたが、大人の男女としてルーティンをこなし、そろそろ二度目の転属先が決まりそうな頃、プロポーズの言葉と共にダイヤの指輪をを贈られた。
ダイヤの指輪を見た瞬間……十代の激しい恋を思い出して、「はい」という言葉が直ぐには出なかったけれど……それは、本当に一瞬のことで、笑顔と共に受け取る事が出来て、十代の恋が自分の中できちんと終わっていたことに安堵した。
なのに________結納を終え、半年後に控えた結婚準備のために判事補の退官を決めたあたりから私の心に空虚さが生まれた。
日々、空虚さが募っていった。結婚して彼と一緒に新しい生活をし始めれば、この空虚さも消える。そう思い込もうとした矢先、私のもとに一通の手紙が届いた。
お願いします。
彼と別れてください。
手紙には、美しい文字でそう書かれていた。真偽を確かめるために、彼の実家がある、ゆくゆくは暮らして行く筈の街を訪れた。
待ち合わせの場所には、彼と彼の幼馴染とその妹さんが居た。
彼の幼馴染は「申し訳ない」そう謝ってから、隣の妹さんの頭を手で押した。手紙を送ったのは隣に居る妹さんで、昔から彼のことが好きで結婚の話を聞き、諦められずにいつの間にか私宛に手紙を送っていたのだと説明した。
「一ミリたりともコイツには責任はないんだ。妹の完全なる片思いなんだ。
嫌な気持ちにさせちゃって、本当に申し訳ない」
そう何度も頭を下げ、同時に妹さんの頭を手で押していた。彼の幼馴染とは何度か公の場でもあった事があったのでその言葉が嘘だなんて微塵も疑わなかった。
なのに_______私は、この結果に安堵するどころか落胆した。落胆した自分に愕然としながら、仕事を言い訳に帰路に着いた。
帰りの新幹線は、ジャケットを頭から被った。
「すいません」
声を掛けられ、ジャケットから顔を出すとそこに総二郎が居た。
いつぶりだろうと考えても思い出せないほどの月日会っていなかった総二郎の第一声は
「なっ 牧野じゃん
お前相変わらず慌てもんだな。ここ俺の席、お前席間違ってないか?」
そんな言葉だった。思わず涙が出た。総二郎は驚いた顔してからスッとあたしの横の席に腰掛け
「まぁ 二席とも指定取ってるから、このままでいいな」
そう言った。
新幹線の中で、缶ビールを2本空けた。ほろ酔い気分で、会っていなかった年月を埋めた。
懐かしさと話し足りなさと、色んな感情に後押しされて、二人でもう一軒飲みに行った。
「おっ、お前強くなったな」
「大人になったからね。西門さんは相変わらず女性に対してスマートだね」
そんな軽口を叩き合う内に、いつの間にかワインを4本空にしていた。5本目を頼もうとしたところで、closeの時間を告げられた。それでもまだ飲み足りなくて、総二郎のマンションで飲むことにした。
意外なほどに殺風景な部屋だった。それがなぜだかとても落ち着いた。
酒類だけは驚くほど豊富にあった。
「凄く良いお酒ばっかり」
あたしの言葉に
「一人で飲む酒だからな」
そう言って柔らかく微笑んだ。
「ココ、女の子連れ込まないの?」
「あぁ」
「そっか______あっ、じゃ記念すべき女の子第一号じゃん」
「はっ? 誰が女の子だ」
言葉と共に、総二郎の指があたしの額を弾いた。さも痛かったとばかりに俯き加減に自分の額を摩った。
「えっ マジ 痛かったか? ちょっ、デコ見せてみろ」
総二郎の手があたしの手を掴んだ。
ありがとうございます
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