禁花~愛しいあなた~10 完
「宗匠、お髪 が」
ほんの少し身を屈めた俺の髪を、ほんの少し背伸びしたつくしが撫で付ける。俺の髪を整え終えたつくしは、満足とばかりに目尻に皺を寄せ、緩やかに微笑んでいる。
たまらない程の愛おしさが込み上げてくる。あの日から四十年以上が経つと言うのに、いまだに毎朝起きて好きになり、毎晩寝る時幸せを噛み締める。
つくしと共に生きていく決意を、父である家元と母である家元夫人に打ち明けた。つくしと一度も会わずに大反対だった。想定内のこととは言え、たった一つの俺の願いを却ける両親には、酷くがっかりした気持ちを抱えた。
翌日、山のような釣り書きが目の前に置かれた。西門の中で、誰一人俺たちの関係に味方する者などいなかった。だが、つくしが側にいてくれた。何も怖くなかった。怖かったのは、つくしを失う事だけだった。幾度も掛け合った。誰からも賛同が得られずに一年が過ぎようとした頃に俺は西門を離れる準備を終えた。準備は、説得と共に前々から進めていた。仕事はもちろん住む場所も全て整えた。これに異を唱えたのは、つくしだった。
「西門を捨てるのであれば、私と別れてください」
「嫌だ別れたくない」
「でしたら、西門を捨てるなど二度と私の前で仰らないでください」
感情などに左右されない凛とした瞳で言い切った。仕方なく頷けば、つくしは優しく微笑んで俺の頬を両手で包み口づけをした。
そのあと直ぐだっただろうか、つくしは司法時代の友人二人と組んで法律事務所をオープンした。友人二人は男性だったので、俺はかなりヤキモキして、バカみたいな焼きもちから時折喧嘩になった。そのたびに
「総二郎は大馬鹿ね
あたしは、
総二郎しか愛せない。
総二郎でしかイケない」
俺を抱きしめキスをした。
西門で茶の稽古を始めていたのはいつからだったのだろう。俺は全く知らないままに、初風炉の茶事の席でつくしに会った。居るはずのない場所でつくしを見かけた時の俺の衝撃。一瞬_____時が止まった。
つくしは、一つ縫い陰紋のかすみ色の付け下げに紫陽花柄の帯をつけて美しく微笑みながら、大手グループの会長夫妻とその孫息子と四人で仲睦まじく何やら話していた。
着物姿のつくしは、あまりにも美しくてゴクリと喉がなった。同時に____隣にいる若い男に嫉妬した。
「鳩が豆鉄砲を食ったようだったよ」
二人で夕飯食ってる時に言われたセリフだ。
「そりゃ驚くだろう。それより、横にいた男は誰だよ。随分と色男だったよな」
「あぁ篠原くん。会長のお宅の孫息子君で、家庭教師時代の教え子なのよ。ホント今の子ってみんな美形よね
でも、あたしにとって一番のいい男は総二郎かな」
サラッと言われてテーブル越しに、不意打ちのキスをされた。八宝菜の味がしたキスだった。
つくしが自由に楽しく茶を点てられるようになった頃、篠原会長の後ろ盾に渋々と言った感じで西門一門がつくしを認め婚姻が決まった。茶道を習う支部で一人、二人とつくしを慕う者が増えていたのも功を奏したのだろう。
つくしが花嫁衣裳を身に纏ったのは、あの日から五年が過ぎていた。お披露目の会で篠原の孫息子に「つくし先生を絶対に絶対に幸せにして下さい」と言われたのを皮切りに、幾人かのジュニアに同じことを言われ、最後に弟の孝三郎から同じことを念押しされた。
つくしは何足もの草鞋を履いて、今も西門を共に盛り上げてくれている。今でこそつくしを慕う者で占められる西門だが、最初の頃は、何度悔し涙を流させ、何度悲しい思いをさせたかわからない。守ると言い切り、嫁に迎えたはずなのに________いつも守られているのは、俺だった。不甲斐ないと頭 を垂れ謝れば、ごめんねより「愛してる」って言ってと戯けたようにせがまれた。
大変だったと思う。なのに_____つくしは、「総二郎と一緒にいれて本当に幸せ。あたしを愛してくれてありがとうね」そう言って極上の笑顔をくれるのだ。
愛おしくて、愛おしくて、どこまで愛おしくなるのだろう_____
ありがとうな つくし
完
☆
総二郎BDに引き続き、禁花〜愛しいあなた~ に、最後までお付き合い頂き大変ありがとうございます。ジレジレ総二郎&つくし_____かなり好物です(* ´艸`)
皆さんも楽しんで頂けましたら幸いです。

ありがとうございます
ほんの少し身を屈めた俺の髪を、ほんの少し背伸びしたつくしが撫で付ける。俺の髪を整え終えたつくしは、満足とばかりに目尻に皺を寄せ、緩やかに微笑んでいる。
たまらない程の愛おしさが込み上げてくる。あの日から四十年以上が経つと言うのに、いまだに毎朝起きて好きになり、毎晩寝る時幸せを噛み締める。
つくしと共に生きていく決意を、父である家元と母である家元夫人に打ち明けた。つくしと一度も会わずに大反対だった。想定内のこととは言え、たった一つの俺の願いを却ける両親には、酷くがっかりした気持ちを抱えた。
翌日、山のような釣り書きが目の前に置かれた。西門の中で、誰一人俺たちの関係に味方する者などいなかった。だが、つくしが側にいてくれた。何も怖くなかった。怖かったのは、つくしを失う事だけだった。幾度も掛け合った。誰からも賛同が得られずに一年が過ぎようとした頃に俺は西門を離れる準備を終えた。準備は、説得と共に前々から進めていた。仕事はもちろん住む場所も全て整えた。これに異を唱えたのは、つくしだった。
「西門を捨てるのであれば、私と別れてください」
「嫌だ別れたくない」
「でしたら、西門を捨てるなど二度と私の前で仰らないでください」
感情などに左右されない凛とした瞳で言い切った。仕方なく頷けば、つくしは優しく微笑んで俺の頬を両手で包み口づけをした。
そのあと直ぐだっただろうか、つくしは司法時代の友人二人と組んで法律事務所をオープンした。友人二人は男性だったので、俺はかなりヤキモキして、バカみたいな焼きもちから時折喧嘩になった。そのたびに
「総二郎は大馬鹿ね
あたしは、
総二郎しか愛せない。
総二郎でしかイケない」
俺を抱きしめキスをした。
西門で茶の稽古を始めていたのはいつからだったのだろう。俺は全く知らないままに、初風炉の茶事の席でつくしに会った。居るはずのない場所でつくしを見かけた時の俺の衝撃。一瞬_____時が止まった。
つくしは、一つ縫い陰紋のかすみ色の付け下げに紫陽花柄の帯をつけて美しく微笑みながら、大手グループの会長夫妻とその孫息子と四人で仲睦まじく何やら話していた。
着物姿のつくしは、あまりにも美しくてゴクリと喉がなった。同時に____隣にいる若い男に嫉妬した。
「鳩が豆鉄砲を食ったようだったよ」
二人で夕飯食ってる時に言われたセリフだ。
「そりゃ驚くだろう。それより、横にいた男は誰だよ。随分と色男だったよな」
「あぁ篠原くん。会長のお宅の孫息子君で、家庭教師時代の教え子なのよ。ホント今の子ってみんな美形よね
でも、あたしにとって一番のいい男は総二郎かな」
サラッと言われてテーブル越しに、不意打ちのキスをされた。八宝菜の味がしたキスだった。
つくしが自由に楽しく茶を点てられるようになった頃、篠原会長の後ろ盾に渋々と言った感じで西門一門がつくしを認め婚姻が決まった。茶道を習う支部で一人、二人とつくしを慕う者が増えていたのも功を奏したのだろう。
つくしが花嫁衣裳を身に纏ったのは、あの日から五年が過ぎていた。お披露目の会で篠原の孫息子に「つくし先生を絶対に絶対に幸せにして下さい」と言われたのを皮切りに、幾人かのジュニアに同じことを言われ、最後に弟の孝三郎から同じことを念押しされた。
つくしは何足もの草鞋を履いて、今も西門を共に盛り上げてくれている。今でこそつくしを慕う者で占められる西門だが、最初の頃は、何度悔し涙を流させ、何度悲しい思いをさせたかわからない。守ると言い切り、嫁に迎えたはずなのに________いつも守られているのは、俺だった。不甲斐ないと
大変だったと思う。なのに_____つくしは、「総二郎と一緒にいれて本当に幸せ。あたしを愛してくれてありがとうね」そう言って極上の笑顔をくれるのだ。
愛おしくて、愛おしくて、どこまで愛おしくなるのだろう_____
ありがとうな つくし
完
☆
総二郎BDに引き続き、禁花〜愛しいあなた~ に、最後までお付き合い頂き大変ありがとうございます。ジレジレ総二郎&つくし_____かなり好物です(* ´艸`)
皆さんも楽しんで頂けましたら幸いです。
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