明日咲く花

花より男子の2次小説になります。

baroque 98

薫がいる場所を目指して、つくしは扉を開け外に飛び出し庭を駆ける。ただただ薫に会いたいその気持ちだけで________つくしは走る。


庭木の揺れる音に薫は振り向いた。目の前には息せき切ったつくしがいた。万感の思いが薫の中を駆け抜けていき、残るのは、愛おしくて愛おしくて、ただただつくしを愛おしく思う気持ちだけ。

「薫……」

愛おしい彼女が自分の名を呼ぶ。それだけで喜びが込み上げてくる。薫が手を伸ばせば、つくしは目に涙を溜めながら薫の胸に飛び込んできた。つくしの体温を感じた瞬間から、色を失くした薫の世界に再び色がついていく。言葉もないまま抱きしめる。


「スンッ……か……おる……本当に本当にごめんなさい。スンッ____あたし、あたし______」


嗚咽混じりに謝るつくしを薫はただ抱きしめる。涙でぐしょぐしょに濡れた頬を薫の指先がそっと拭う。

泣いて泣いて泣き疲れて、薫の腕の中で眠ってしまった日はいつのことだったのだろう。


「あたしが大泣きした……スンッ……あの時も……スンッ……薫は……スンッ……こうやって……スンッ……抱きしめて……スンッ……くれたんだよね」


薫が大好きで大好きで仕方なかったつくしは、薫をいつでも独り占めしたがった。夏休み、いつもより長く萩にいる薫には、語学の先生が着いてきていた。流暢に英語とフランス語を話す髪の長い綺麗な女の先生だった。つくしにも優しく英語を教えてくれたのに、薫と仲がいいその先生につくしはヤキモチを妬いて、意地悪をした。それでも微笑んで優しくしてくれた先生の大人の対応が憎たらしくて……何よりも理不尽に意地悪をした自分が恥ずかしくてその場にいたくなくて駆け出した。やみくもに駆け出したから表の階段で足を踏み外した。落ちると思った瞬間、身体が宙を舞い反転していた。階下には、つくしの代わりに階段を落ち蹲る薫がいた。つくしの後を追って来ていた先生によって使用人が呼ばれ、薫は病院に運ばれた。幸いな事に足の骨折のみで済んだ。
つくしは、診察を終えた薫に自分のせいで、ごめんなさいとごめんなさいと大泣きをした。そして……薫から離れず大泣きをしたまま寝入ってしまった。


「あの頃のつくしは、まだ小さかったよね。すっごくお転婆で木登り上手でよく笑う少女でみんなの人気者だった。……だからあの夏、先生にヤキモチ妬くつくしを見ているのが嬉しかったんだ。わざと仲良さそうに振る舞った。だから本当は自業自得」

薫はつくしを抱き寄せ、庭に置かれたベンチに腰掛け、話を続ける。


「僕は、あの頃と同じで、つくしを独り占めしたかったんだ。本当はつくしがきちんと大人になって、色々経験してから、改めて僕を選んでくれるようになるまで待っていようと考えていた筈なのに……ね。つくしの僕に対する憧れとか信頼とか初恋の気持ちとか、いろんな色んな思いを利用したんだ。

つくし、本当の僕はね王子様なんてカッコいいもんじゃなくて、いつでも弱気で臆病でつくしに近寄る他の男に嫉妬して、その癖してカッコつけて余裕のフリして強がってるただの男だったんだ。

つくしが英徳に通いたいって言い出した時……本当は凄く嫌だった。つくしが新しい世界を知ったら、こんな女々しい僕じゃなくて違う男を選ぶんじゃないかって。だけど、そんなこと言ったら君が僕から離れていくって……だから、物分かりのいいフリをしながら、僕は君を縛り、君の未来を奪った。

ずっとずっと怖かった。君が僕の元から去って行ってしまうのが…………僕は、つくししか愛せないのに、_________君の愛は自由なのが憎くて怖かった。


総二郎君とのことは、君達が恋だと解る前からわかっていたんだと思う。勿論相手が誰かなんて知らなかったけどね。
憂いを含ませ美しく笑うのを見て、つくしが恋を知ったんだって僕は気がついた。僕の意識は無意識に考えることを阻止したよ。だってさ、君の恋する心を止めるなんて出来ないだろ? あの日、つくしがあの扉を開けるまで……なかった事にしたんだ。いいや、その後だって同じだ。僕は僕の心の痛みに気づかぬフリをして、つくしを手に入れようとしたんだ。

僕は、総二郎君との恋でつくしが傷つくことを願った。僕が少しだけ彼の心を追い詰める手伝いをすれば、追い詰められた彼がつくしの全てに嫉妬して狂ったようにつくしに執着するのは解っていたんだ。つくし、君の今の苦しみは全部僕のせいだ。

君の幸せを願っている_____でも_____僕の隣に君が居ない人生で幸せなんて感じないでくれることを_____いいや、いっそ不幸になってくれることを願っているんだ。僕は姑息でとても嫌な人間なんだ。今まで君の前でそれを必死に隠して生きてきた。君の王子様でいる限り、君は僕のお姫様で居てくれるからね。でも____本当は、そのままの君自身が欲しかった。そのままの君自身に僕は愛されたかった。本当の僕自身を見せなければ、本当の君自身に愛されることなんてないのにね。だから、僕はありのままの僕になろうと決めたんだ」


そう言い切った薫の笑顔は、膝を抱えて蹲っていた少年が時折見せてくれた笑顔を思い出させた。それは、同時に、何も考えずに薫を見つめ、薫に恋していた自分自身を思い出させた。その時初めてつくしは、己の過ちを理解した。つくしが一番傷つけ裏切ったのは、あの日、何があってもこの笑顔を守ろうと決めた相手だったのだと。







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2 Comments

asu  

パールちゃん

めっさ好物ありがとう♡
やっぱり男も女も恋心は素直に表さないとね

さてさて、あとはつくしもちゃんとしないとね!

って、更新遅れてて申し訳ないっす

2023/03/01 (Wed) 10:21 | EDIT | REPLY |   

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2022/12/20 (Tue) 18:47 | EDIT | REPLY |   

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