愛なんていらないから11 つかつく
なんだあれ?
思わず小さく呟けば、背後にいた沖田が
「合___コンランチか__と___思われますが」
「はぁ?」
思わず眉間に皺が寄る。
俺が働いてる中、牧野は悠長に合コンランチだと?
なんだそれ
ふざんけな
心の中に、黒い渦が湧く。
俺は、牧野を見下ろした。
牧野は、俺と視線を合わせた後、ほんの少し左上に目線を動かし、微かに小首を傾げ
「あの、スペシャルランチは、もう終わってしまったようなんですけど、ここのカツカレーもすっごく人気があって美味しいですよ。
あっ、カレーうどんっていう手もあるんですけど、アレは上手に召し上がらないと悲惨なことになるんですよね」
スペシャルランチ?
カツカレー?
カレーうどん?
聞きなれない言葉に数々に眉間の皺が深まった。
「ま、ま、牧野さん」
俺の後ろから沖田の焦った声がする。
「あっ、沖田室長。沖田室長も社食でランチですか?」
牧野は、俺の後ろを見ながら首を傾げ僅かに視線を右下にずらしたあと、ムギュッと一瞬口を尖らせた。
よく見ていないと解らないが、コレ、牧野が何か考えて、それでも解らない時の癖。いわゆる、お手上げです。の状態だ。
叱られたげっ歯類のような、この表情_____存外に可愛い。
っん?可愛い?
可愛いって?
牧野が可愛い?
な、な、な、なんだそれ____
思わず手で口を塞ぎ、慌てて踵を返した。
❋❋❋❋❋❋
怖い顔して睨んでたかと思ったら、突然、口を塞ぎ足早に帰っていった道明寺の後ろ姿を見送った。
なんだあれ?
呆気に取られながら、チラッ、チラッとあたしの方を振り向き、何やら口パクしてる沖田室長と道明寺を見送った。
うん。見送った。
だって、だって、まだランチ中だ。
「つくしちゃん、あのさ、もしかしたら、もしかしたらなんだけど、専務、急__ぎ案件だったんじゃないのかな? よくわかんないけど、追いかけた方がいいんじゃないかな?」
慌てた感じで、サっちゃんがあたしに言ってくる。桑っちゃん達がそれに追随するかのように、うんうんと頷いている。
「えぇ、だって、一番楽しみにしてたデザートが_______」
「デ,デ、デザートは後で受け取って、給湯室の冷蔵庫に入れとくから。ね」
「今日のデザート____アイスパフェだよ」
「あぁ______でもでも、行った方がいい気がする___よ。ねっ、桑っちゃん」
「うんうん。それに、ほらっ、あんまり時間がかからないかもしれなくて、ちょっと行って直ぐ帰って来れるかもよ。ねっ、甲島くん」
「あぁ、うん。そうだよ。直ぐ行った方がいいと思うな。
向井さんも、浮田さんも、そう思いますよね?」
「あぁ、絶対行った方がいい」
「うん。絶対行った方がいい」
えぇ_____すごい楽しみにしてたのに。
でも、皆に一斉に頷かれて渋々と立ち上がった。
頭の中に、やだねったらやだね のフレーズをグルグルと駆け巡らせながら。
❋❋❋❋❋❋
とぼとぼと食堂を出ていく牧野さんを見送ったあと、思わず、安堵のため息を吐いた。
怖かった。怖かった。怖かった。マジに怖かった。
「なぁ、さっきのアレッて? やっぱ、噂は本当だったってやつだな。
残念だけど……BBQ、牧野さんは誘わない方がいいみたいだな」
浮田先輩の言葉に。皆んなが一斉に頷いた。
触らぬ神に祟りなしだ。
うん。
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