ずっとずっと 81
滋さんが敬礼をしながら、僕等に宣言をして部屋を出て行く。
「桜子さん、酔ってはいない?」
「一杯しか頂いていないから大丈夫です。」
「そう。それなら良かった。じゃ楽しんできてね」
入浴する間のたった少しの時間を心配そうにする千尋さん‥…
千尋さんは、桜子さんに出逢う前、かなり浮き名を流していたと聞いている。 それなのに、顔に桜子命と書かれているように、桜子さんにベタ惚れだ。
「千尋さんは、桜子さんをかなり愛されているのですね」
「恥ずかしながら、初めて本気で惚れた女性です。彼女に出逢った瞬間、私の人生は変わりましたからね。」
「どんな風に変わられたんですか?」
「自分でも信じられないほどに、嫉妬深くなりましたよ。彼女の目にうつるのも、耳に届く声も私だけになれば良いのにと思うほどです。」
千尋さんが話してくれた事は、僕に安堵を与える。
「皆さんも同じですよね?」
少し頼りな気に、千尋さんが僕等を見る。
ナダーも悠斗も深く深く頷き
「宮殿に連れ帰って、そのまま閉じ込めておきたくなるよ。」
決して冗談を言ってる口ぶりではなく、ナダーが話す。
「女は、自由を好むけどな。」
付き合いが長い悠斗、流石に余裕の発言かと思いきや
「仕方ねぇーから、ある程度は自由にさせてるけど、欲を言えば俺だって閉じ込めておきてぇよ。」
「滋を筆頭に、つくしも、カオも、勿論桜子さんも、黙って邸の中でじっとしてないタイプだもんね。」
4人で顔を見合わせ 笑い合う。
「そこが、彼女のいや彼女等の魅力的なところだから仕方ないですよね。閉じ込めてしまったら桜子さんの素敵な所も閉じ込めてしまう事になってしまいますからね‥… 結婚という鎖に繋いでしまおうとは考えてしまったワケだから、あまり偉そうには言えないんですけどね。」
そうか、仕方ないんだ‥…僕の心は、ストンと落ちる。
4人で祝杯をあげる。一筋縄でいかない彼女達に‥…
***
「桜子さん、千尋さんっていつもあんなに心配性なの?」
「うふふっ。そうですわね。」
「私の知っている千尋さんとは全く違う人みたいで‥…」
「そうみたいですね。東雲の両親もお姉様方も、皆さん驚いいらっしゃいますもの。」
「そうよね。私が小ちゃな時に見ていた千尋さんって、お姉様達に囲まれているせいか、とってもクールでいらしゃったもの。」
「クールのクの字もございません事よ。」
女も見惚れる笑顔で桜子が話す。
「かおさんには、まだ話しておりせんでしたけど、私、全身整形ですの‥…」
「へぇーすごく綺麗に出来るのね。」
「うふっ、流石、先輩のご親友。見事な発言ですわ」
「ご、ごめんなさい。気に障った?」
「いえいえ全くでしてよ。」
桜子が二人のなれそめを語り出す‥…
お見合いの席で、桜子を一目見た千尋さんは、挨拶よりも早くお仲人さんに向かい、「是非とも結婚前提でお付き合いをお願い致します。」と、懇願したらしく‥…その場にいたもの全員が呆気に取られた。
自分の容姿に一目惚れしたのだ思った桜子は、二人になった瞬間に、
「私、全身整形ですのよ」
声高らかに言いきった。大概の男はここで引くのにも関わらず、千尋さんの放った言葉は
「っん?それが何か?」
シドロモドロになりながら、
「ですから、顔も身体も全部美容整形で綺麗にしてますのよ」
もう一度繰り返す桜子。
きょとんとした顔で
「えぇ、それは解りましたけど、それが何か関係あるのですか?」
押し問答のように、繰り返される会話‥…
挙げ句の果てに
「桜子さんは、私を見てどのように感じますか?」
浮き名を流す男だけあって、かなりの男前だ。その事をありのまま伝えると
しれぇーっとした顔して
「だったら、問題ないのではないでしょうか?」
至極当たり前に言い放った‥…
「何故ですの?」
そう問う桜子に、クスリと笑って、
実は‥… と、千尋さんが語りだした
少し早くホテルに着いてしまった千尋さんは、ホテルの近くお気に入りのショップがある事を思い出し、ちょっとよって見る事にした。そこで、光り輝く女性を見た。その女性が何か声だかに怒っている、どうやら、歩き煙草をしていた男の煙草が、もう少しで子供の頬に触れそうになったらしく‥…大層憤慨しているのだ。
周りに人垣が出来て、男は捨て台詞を吐きながら、逃げるようにその場を立ち去った。その瞬間、彼女は小さな子供に向き直り「怖い思いをさせてごめんなさい。」と、平身低頭に謝ったのだ。
母親はビックリして「いえ。ありがとうございます」と、お礼を言うと、もっと穏便にすれば良かったのに、本当に申し訳ないと謝るではないか‥…
千尋さんは、そのまま彼女が歩く方向に付いていき、彼女が今日のお見合い相手の三条桜子だと知った。扉を開け、お仲人さんの顔を見た時には、挨拶よりも早く、桜子と付き合う事を懇願していたのだ。
「光り輝いてるから、顔の造作なんてどっちみち見てないよ」なんてふざけた事おっしゃいますのよ。でもね、その時の笑顔がとても素敵で、この人となら私幸せになれると思いましたの。桜子が、美しく幸せに輝く笑顔で笑いながら話す。
桜子の話しを聞いていた、あたし達3人の心の中に、ほわぁっ〜とした温かいものが流れた。
「さぁ、あんまり長湯をしていると、殿方達が心配しますわね。そろそろ上がりましょうか。」
かおるちゃんが
「桜子さんって、とっても素敵ね。」
「うふっ、今日の主役はかおさんでしょ?」
頬をうっすらピンク色に上気させ答えている。
「桜子さんのお話を聞いた後じゃ、幼なじみの恋なんて色褪せちゃうわぁ〜」
悠斗が聞いたら怒り狂いそうなことをサラッと言っていて笑ってしまった。
「ねぇねぇ、滋さんは?」
滋さんが笑って
「うーーーーん。桜子のようにドラマチックじゃないよぉー」
そう言って笑う。
笑いながら4人がいる部屋に戻ると
ナダーが
「滋、会いたかったぁー」
なんて嬉しそうに笑っている。
滋さんがウィンクしながら
「うちのナダーは、ただ単に甘えん坊で私がいないと生きていけないってだけ」
そんな惚気をサラッと言ってのけて、ナダーの隣に座りしなだれかかっている。
そんな風に、自然に甘える滋さんを初めてみたあたしは、とってもとっても嬉しくなった。
和やかに穏やに、時間は過ぎていく。
つくしが、うつらうつら船を漕ぎ出す‥…
彼女を抱き上げ、小さな声で
「おやすみなさい」 そう言って、自室に戻る。
みんなが軽く手をあげ「じゃあ我々も寝るとするか」と言い合っている。
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