ずっとずっと 84
寝ている薫の髪を撫でながら、指先の一本一本を、身体中の隅々を愛撫する。身体の疼きに起こされてあなたが、目覚めた時、あたしはあなたを求め、もう一度愛し合う。
健やかな眠りが、あなたに訪れた事を確認して、あたしも眠りにつく。
司に感じる激しい愛ではないけれど、あたしは薫を愛しているのに‥…あたしの身体は薫だけのものなのに‥…何年経ってもあなたは、時折不安な表情をして、あたしを試す。
一年に一度、あなたは決まってあたしに用事を言いつける。まるで儀式のように。
その日が近づくと、薫が乱暴に乱暴にあたしを抱く‥…あたしの自由を全て奪うように、あなたはあたしを乱暴に抱く。
だけど、あたしはあなたの言い付けを断れない。
フッ、言い付けという大義名分を笠に着て、あたしはあいつに会いに行くのを止めれない‥…
指先さへ触れさせた事などないのにも関わらず、あたしが戻ると、あなたは衣服を乱暴に全てはぎ取り、全身隈無く確かめる。狂っている。そう感じさせる視線であなたは、あたしを確かめ‥満足気に確かめて、あたしを抱く。
そして耳許で、あたしに囁く
「お利口にしていれば、また来年会えるよ‥…」
あたしは、劣情する。司に?薫に? 自分の猾さを噛みしめ、あたしは花を咲かせる。
薫を狂わせ、自分自身を狂わせ、幾度も幾度も花を咲かせ、朝を迎える。
今日は、琉那の誕生日‥… あたし達2人にとってかけがえの無い娘。
そして、薫は憑き物が落ちたかのように、穏やかに愛を奏で始める。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-* -*-
「薫、薫。起きて一緒に食事にしよう。」
「うーーーん もうそんな時間?まだ眠いー」
「うふっ、いつもよりもちょっとだけ早いけど、起きて~」
「何かあったっけ?」
「筒井のお邸で、サロンコンサートの日だよ。」
「あぁー つくしが楽しみにしていたヴァイオリンコンサートだね。」
「うん。すっごいすっごい好き。もう、今回ばかりはつぅ爺に大感謝」
「くくっ、今回ばかりなんて言ったら、いじけちゃうよ」
「ナイショだよ。ナイショ。」
筒井の邸に向う。ヴァイオリストとのアレン‥…心に沁み入る演奏をするアレン。
初めて、アレンの演奏を聞いたのは1年半前のNY。奏でるメロディの美しさと、切なさに、あたしは涙が止まらなかった。大好きなアレンのヴァイオリン。何気なく話したら、つぅ爺が今年のサロンコンサートはアレンにしようとおしゃって‥…呼んで下さったのだ。最初は断られたらしいのだけど、突如了承の返事を貰い今日のサロンコンサートが、催される運びになった。
どんなにお金を積まれても気に入らなければ、演奏はしないアレン。
逆に、気に入れば場末のバーでも野外でも喜んで演奏するアレン。
NYで偶然耳にした、アレンのヴァイオリン。音色のあまりの美しさに、涙が、ただただ流れたんだった。
アレンの曲には魂が宿っていた。
辛い切ない、だけど愛してる。あなたを愛するのは息をするのと一緒だと。ヴァイオリンの音が奏でる。アレンの愛を。辛く切なく幸せを。アレンが奏でる。
2人を乗せた車が筒井の邸に到着して、つぅ爺と雪乃さん、棗さんと亜矢さんが大きな笑顔であたし達を出迎えてくれる。
***
サロンコンサートが始まる。
筒井のサロンコンサート、錚々たるメンバーが集まっている。かおるちゃん、桜子、滋さんカップルも来ている。
談笑をしていると、アレンが登場し、場が静まる。
威風堂々としたたたずまいで、まるで女神のようなアレンが、音を奏で始める。
アレンは、奏でる愛の曲を。クライスラー 愛の3部作。
愛の喜びは、クライスラーが失望し、それでも愛って素晴らしと想いの丈を綴った曲。
愛の悲しみは、愛に満たされているのにも関わらず、良く考えみると、愛って残酷で、悲しいものだと、綴った曲。
アレンは、どっちなのかしら? 失望? それとも満たされている?
美しきロスマリン に、うつる
可愛らしい乙女の曲。
一足早い春の曲に酔いしれる。
リヒャルト・シュトラウスを弾く。
官能的なスライドに満ち、テンポ良く、なのにダイナミックな音を奏でるアレン。
アレンの奏でる音を聞きながら、知らず知らずのうちに涙が出てくる。
薫がそっとあたしの手を握ってくれる。
春のように優しい薫。
だけど、春の天候ほど変わりやすいものはない。
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