ずっとずっと 86
そんな言葉と共に、ジャンが桜色のドレスを携えてやってくる。
最終的な仕上げと共に、10月の結婚式用のウェディングドレスを作る為に。
白金色の輝きを放つ、天蚕のシルクの反物。誰しもが思わず見惚れる美しい絹の生地。
天蚕は、緑の蚕‥なのに、白金に輝く。
天蚕の緑色は、糸を精練していくにつれ後退し、変わりに白金に輝くのだ。繊維のダイヤモンドと呼ばれる。
まるで、つくしのようだ。精錬され変容する。美しく変容する。
結婚式には、フローレスダイヤの首飾りが花を添えるだろう。フローレス、内部にも外部にも瑕をもたない。
このダイヤを入手するのには、かなりの時間を要する筈だ。お爺様は一体いつからこのダイヤを探していたのだろう?
同時に思う。桜子さんや滋さんの婚約に関して、お爺様達は全くの無関係なのだろうか?
あの二組は、人も羨むカップルで、おしどり夫婦になる事だろう。だけど‥あまりにも出来過ぎている。
性格や行動予測、趣味趣向全てをリサーチした上での、相手の選択だとしたら? TSUTSUIをもってすれば、容易い事なのかもしれない。
全ては仕組まれたもの?
仕組まれたものだとしても結果が良ければ構わないのだ。現に心から愛し愛され合うカップルが二組生まれているのだから。
では、僕とつくしの出逢いは?
お爺様達も予期せぬ事だったのだろう。
他の男を愛するつくしを、気に入ってるからと言って、わざわざ宛てがいは、しないだろう。物にも人にも執着しない僕が、まさか、つくしをこんなにも愛し、お爺様達の跡を継ぐ事になるなんて想いもしなかった事だろう。
お爺様達は、つくしを可愛がり慈しむ。僕という存在がなかったとしても、それは変わりない愛情だった。僕がつくしを思い、手に入れた事により、何が何でも手放してはいけない存在だと、お爺様達の思いも変容をとげたのだろう。
つくしは、見えない檻に囲われているのかもしれない。愛情という名の檻に。
つくしが、ドレスを身に付け部屋に現れる。
皆が息をのむ。そこには眩いばかりに輝くつくしが居た。
「しぃちゃん、本当に良く似合ってる」
「えぇ、本当に。とても愛らし、美しいわ」
あぁこの娘は、本当に由那に似ている。私の可愛い可愛い娘の由那。
姿形が似ている訳ではないのに、ハッとするほど、似ていてビックリさせられる。
いつからだったのだろう、
私が、フローレスダイヤを探し、天蚕の糸で、生地を織らせたのは。
由那は、私のたった一つの宝物だった。
伊織さんと恋をし始めた時の由那の嬉しそうな顔を思い出す。
「ママ、私、恋をしたみたい」
頬を染め教えてくれた。名前も知らない相手に恋をしたのだと教えてくれた。
TSUTSUIのセミナーが始まり、帰ってきた由那は、興奮して帰って来たんだわよね。
「ママ、大変あの人にもう一度出逢えたの。」
今にも泣き出しそうな、それでいて嬉しそうな顔をして。
私は、娘の恋を喜ぶと同時に危惧をした。宝物の娘を奪われてしまいそうだと。伊織さんは、とても良い青年で、すぐに私も好意を持ったわ。ただ一つ、彼が宝珠の跡取り息子だという点を覗いて。一人娘を宝珠に取られてしまう。そう思ったんだっけ。うふっ、それも亜矢ちゃんに会って変わったのよね。亜矢ちゃんは、由那に良く似ていた。一目で私は亜矢ちゃんが好きになったわ。この女性(ひと)になら、私の大事な由那を任せられると。栄さんを一番に説得したのは私。棗さんとは、元々の親友同士と言う事もあり、二人の子供が将来、筒井と宝珠を背負って立つ事を条件に結婚を許したんだったわよね。
由那が薫を産んでくれた時、全てのものが光に満ち溢れていた。
ずっとずっと続くと想った幸せ。突然終わりを告げた幸せ。
その幸せな風景がここにまた戻ってきた。私はこの娘を手放せない。
栄さんが、しぃちゃんと出会って、良く笑うようになった。
由那が居た時のように、本当の笑顔で。
しぃちゃんを初めて連れてきてくれた時の事を、私は忘れはしないだろう。
あぁ、私達夫婦の元に、由那がもう一度、帰ってきてくれたと思った。
栄さんに内緒で、しぃちゃんの事を、私に忠実な者を使い全てを調べあげた。
私が手始めにした事は、しぃちゃんのご両親と弟さんを九州に栄転させ、花沢さんと離す事だった。
あの時、既に私は、しぃちゃんを手放したくはなかったのかもしれない。
次にしたのは、三条桜子さんのお見合い話。
私は入念に入念に彼女を調べ上げさせた。そして彼女に合う相手を吟味し、筒井からの紹介だとわからない様に、お見合いの話しを持ちかけた。
大河原滋さんの事も、同様に調べあげ、筒井からの紹介だとわからない様に、TSUTSUIに縁のある人間を宛てがった。
道明寺司さんとは、しぃちゃんが望むのではあれば、一緒にさせてあげたいと考えていたわ。
道明寺財閥が反対するのであれば、私達が後継人として、否、養女として彼女を迎え入れ、何不自由させる状態なく、私達の元から嫁がせてあげようと。
由那に似ているあの娘の幸せを願っていたから。そう考えていた。
薫としぃちゃんが一緒に暮らし始めたのを栄さんに聞き、決意が揺らいだ。
それでも由那によく似た、しぃちゃんの幸せを願った。
それなのに、それなのに、道明寺司は、道明寺財閥は、しぃちゃんを裏切った。
あの時、私は決めた。
由那と一緒に過ごした時間をもう一度取り戻すと。
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