いつかあなたと陽だまりで 2 司つく

牧野が‥つくしが消えた。
「さようなら」とたった５つの文字だけを残して。

俺の与えたものは、全てを残していった。。
少しずつ譲渡してきた様々なものが一纏めにされ、預金通帳とともにおかれている。
律儀な女だ。毎月俺が渡してきたものに、一銭たりとも手を付けていないのだ。
それどころか、あいつが仕事に就くまでの間の全てまできちんと返されているのだ。
全て持ち去ればいいのに‥
どこまでもどこまでも、お前は牧野つくしなんだ。

10年前、道明寺側の一方的な理由で、俺とつくしは別れを決めた。
俺の未練がつくしを引き止めた。つくしは、俺の元に戻ってきてくれた。
堅過ぎるほど堅い倫理観を持つお前が、俺の元に来るのには、一体全体どれほどの勇気が必要だった？なぁ？

俺は、舞戻ってきてくれたお前に
「無理はすんな。お前はお前で幸せになればいいんだ。」
そう言って、押し返そうとした。
俺は、猾い‥
そう言えば、お前が俺を選ぶ言葉を聞ける事を知っていたから。解っていたから。俺はそんな風に言ったんだ。
お前は
「あたしの幸せは司にしかない。」
そう言って、俺の全てを受け入れてくれたんだ。

俺は知っている。俺の幸せはつくし、お前にしかないって。
俺は知っている。つくしはどこに居ても、輝やいて幸せになれる人間だって。

だけど、お前は俺を選んでくれた‥
両親や、類、三条達にも会わない決心をして‥俺の元に舞戻ってきてくれた。

「天秤バッジに怒られちゃうかな？だけどこれがあたしの真実なの‥」
そう言って、淋しそうに笑って俺と過ごしてくれた。

昔、俺はお前と一つだけ約束した。
「司、もしも、もしも、あたしがあんたの前から姿を消す事があったら、絶対に絶対に探さないでよ」

俺は、それを守らなきゃいけないのか？
お前のたった一つの願いなら、俺はそれを尊重しなきゃなんねぇのか？

なぁ、つくし‥
俺とお前の10年。いや出会ってからの16年。俺はお前だけを欲してきた。お前だけを見て感じて生きてきた。俺は明日からどうすりゃいいんだ？
だけど、今の俺じゃどうする事も出来ねぇ。俺のいまやる事はただ一つ‥
再びお前を手にする為に、今度こそきちんとお前を手にする為に、全てを手に入れる事だ。
この10年で少しずつ目処はついてきた。
お前が俺に付いてきてくれた10年間。同じ年月がかかったとしても、俺は再びお前を手にする為に、鬼になる。

今度は、俺がお前を迎えに行くために。
大手を振って 迎えに行く。今度こそ、お前と一緒にお天道様の下を堂々と歩けるように。


＊＊＊

「こっちの案件もお願いしてもいいかしら？」
「OK。ボス」

「マリアのお迎えは？ジョアンと一緒に、ボブのお迎えでいいかしら？」
「今日はタスクが行ってくれるって、連絡入ってたけど？」
「あらぁ、じゃぁ、ジョアンもお願いしちゃおうかしら。」
「うふふっ、そのつもりだと思うよ～マリアとジョアンに会えるの楽しみにしてたから」
「じゃぁ、ボブには先にご飯の用意でもしておいて貰おうかしら？つくしも食べていってね」
「ありがとう。ボブのご飯楽しみぃ～」


＊＊

「ママ～」
タスクとジョアンと仲良く手を繋ぎ、一緒にあたしを迎えにきてくれたマリア。
漆黒の瞳と、真っ直ぐに伸びた艶のある黒髪を持つ美しい娘。
この子は、あたしの宝物。この子の為ならあたしは何でも出来る。

あたしは、マリアを抱き上げて
「小ちゃいお姫様。ご機嫌はいかがですか？」
「ママ、ぜんぶがハッピーよ。ママこそいかが？」
「マリマがハッピーなら、ママもハッピーよ。」


「タスク、ありがとう。ボスの所で夕飯ご馳走してくれるって。」
「ボブのご飯だよね？」
「勿論」
「じゃぁ、いただこうっと。」
「ちょっと、つくしもタスクも酷いわねぇー」

３人で笑い合っていると、マリアとジョアンも楽しくなったのか、一緒に笑い出す。


こんな風にまた笑えるようになるなんて‥8年前のあたしには、考えられない事だね。
ボスが力を貸してくれなかったら、あたしはマリアを産み育てて行く事が出来なかったかもしれない。

ありがとうボス。





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