ずっとずっと 89
片倉は? その瞬間、つくしのご両親に付き添う様に命を出していた事を思い出す。
市ノ瀬を呼びつけ、すぐにつくしを探す様に命を出す。
心がざわつく。
周りに人がいたので、心配ないと思い、彼女の傍らを離れた。
離れるつもりなど毛頭もなかったのに‥
大丈夫、ここは海の上だ。彼女はどこにも消えたりはしない。彼女についているSPも一緒の筈だ。何かあるワケもないだろう。僕は一体何に怯えているのだ?
司君の存在か? いや、先ほど見た時、婚約者のグレンダがべったりと隣に張り付いていた。
大丈夫だと、僕は自分に言い聞かせる。なのに、心がざわつく。
市ノ瀬が、僕に駆け寄ってくる。
「薫様、つくし様におつけしていたSPが、つくし様を見失ったと申しております。」
「どこまで一緒だった?」
「それが‥ヴァイオリン奏者のアレン様とご一緒に、光の森に行かれる所までは見たと言っているのですが‥」
「光の森?」
「はい。アレン様のお顔の色が優れなかったらしく、夜風に当たりにでもいったのではないかと‥」
「すぐに、光の森に使いを出して‥」
「はい。」
**
手を伸ばせば触れられる距離に、愛する男。
手を伸ばせば触れられる距離に、愛する女。
お互いの魂が求め合う。
お互いの手が伸びた瞬間、男が女を力強く抱き寄せる。
全ての事を忘れ、男が女を抱きしめる。
女は、抗えない‥いや、抗わない。
女は、男を抱きしめ返す。
刹那‥
つくしを呼ぶ声が聞こえる。
姿を消した、アレンが現れつくしの手を掴む。
引き離される一つの魂。
司に向かい、グレンダの元に早く行けと、アレンが囁いている‥
司が消え、アレンとつくしが取り残された。
つくしを呼ぶ声が徐々に大きくなる。
アレンが慌てて、つくしの身体に身を任せる。
市ノ瀬がつくしを見つけ声をかける
「つくし様、いかがなさいましたか? 薫様がお探しでいらっしゃいますが。」
アレンが答える。
「すみません。気分が優れずつくしさんに、付き添って頂きました。」
「左様でございましたか。体調は如何でございますか?」
「つくしさんのお陰で随分と良くなりました。」
つくしは我に返り、アレンを見る。アレンが、片倉から見えない様に目配せをしている。
「では、付き添いの者を今呼びますので、アレン様はもう少しこちらに居て頂いて、つくし様をお連れさせて頂いて宜しいでしょうか?」
「えぇ。どうぞ」
アレンが答える。
「つくし様、お早く会場の方に‥」
市ノ瀬に会場に戻る様に、促される。
アレンがよろけ、つくしに抱きつく。
「片倉さん、もう少しだけ、付き添いの方がくるまでで良いので、アレンに付き添って差し上げたいのだけど‥」
「つくし様‥」
市ノ瀬が薫に連絡をとる‥
アレンが小さな小さな声で囁く
「つくし、司の香りがする‥私を部屋まで送ると言って。」
「あっ」
そうか、だからアレンはあたしに抱きついたのか‥
だけど、司って? アレンは司を知っているの?
薫に連絡を終えた片倉がつくしを振り返り
「早くお戻りになる様にと、薫様がおしゃっておりますが‥」
「市ノ瀬さん、あたし、アレンをお部屋まで送って行きます。」
「ですが、つくし様‥」
「5分もかからない事です。薫には、後できちんとあたしが謝りますから。」
有無を言わせぬつくしに、ここで押し問答をしていても仕方のない事だと悟ったのか、市ノ瀬からOKの返事が出る。
アレンを抱きかかえ、つくしは歩く。
市ノ瀬と、SPがつくしを見張るように後ろを歩く。
アレンの部屋に着いたつくしは、後ろを振り返り
「あなた達は、ここで待っていて下さい。」
凛とした風情で言い切る。
「つくし様」
「ここは、船の上ですよ。どこに行くと言うのですか?それに、すぐに出て参ります。」
つくしとアレンが部屋の中に消えて行く。
「アレン‥」
「聞きたい事は色々あると思う‥でも、今度、今度ね。」
そう言いながら、アレンが素早くアレンの付けているパフュームをつくしにつける。
「アレン、ありがとう‥」
「つくし、また連絡をするわ」
「ええ。」
つくしは、部屋を出て、会場に薫の元に向う。
***
つくしが見つかったと、市ノ瀬から連絡が入る。すぐに戻るように伝えた。
直後にもう一度、連絡が入り、代わりのものが来るまで、つくしがアレンに付き添いたいと言っていると連絡が入る。こんな時、片倉なら有無を言わせず連れ帰ってくる筈だと、いや、その前に片倉がこの場にいたら、目を光らせ、会場内からつくしが消えるなんて事はない筈だと、思わず舌打ちが出てしまう。
「なるべく、早く会場に来る様に伝えて。」
「は、はい。申し訳ございません。」
つくしを待つ間も、引っ切りなしに僕の元に人が来る。
司君とグレンダもやって来て、挨拶をしていく。
つくしとは、一緒に居たわけじゃないと分かり安堵する。
なのに僕は、苛つきながらつくしを待っている。
ただ少しだけ、僕の側から姿を消しただけなのに‥何故こんなにも心がざわつくのだろう。
市ノ瀬と共に、つくしが戻ってきて僕に謝る。
「薫、心配させてごめんなさい。」
「‥」
つくしが小さな声で呟く
「怒ってる?」
「うん。君はホストだよ?立場を理解して……」
「ごめんなさい。」
「もう、いい。だけどもうこんな事は無しにしてね。」
「はい。」
僕と揃いの香りが以外の香りが、つくしの胸元から匂い立つ。
誰の香り?
アレンの香りなのだろうか?
女物の香りだ。
つくしを見て
「香水‥」
「っん?」
「つくしのじゃない香りがする。」
「あぁ。アレンが倒れそうになった時に,抱きかかえたから。」
「そう‥」
薫の横顔を盗み見ながら、あたしは、アレンの機転に感謝をする。
次々と、あたし達の前に祝辞を述べに人が集まって来る。
薫があたしの腰を抱く。優雅に‥だけど力を込めてあたしの腰を抱いている。
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