曇天 11 あきつく
あきらは、底抜けに優しくて、そしてどこに居ても違和感がなくて‥
時折、あきらとあたしは、同じ世界に住む人間じゃないのかと、錯覚してしまいそうになる。
あきらが好き。大好き。でもあたしの恋は、この恋は、愛にはしない。愛してしまったら離れられなくなるから。愛してしまったら、未来を望んでしまうから。
沢山沢山、キスをして、沢山沢山、話しをして、どんどんどんどん好きになる。
だけど、あきらを決して愛しはしない。これは、ルール。あたしが決めた、あきらとの恋のルール。
本当は愛したい。未来を夢見てみたい。
だけど、あたしは知っている。身分違いの愛がどんなに辛いかってことを。
恋なら、まだ引き返せる。全てを委ねていないから‥…
あきらの腕が伸びて、あたしの身体を優しく抱きすくめる。
真っ青な真っ青な、雲一つ、陰り一つない空に、祝福されて俺等の恋は始まった。
俺は、つくしを愛してる。嘘偽りのない真実だ。
つくしは、俺を好きになってくれている。
だけど、彼女の何かが気持ちにブレーキーをかけている。
もう一歩踏み込もうとすると、スルリと逃げる。
掴まえた、そう思った瞬間に、またスルリと逃げる。
俺は、つくしを抱きすくめて、掴まえる。
君の心に曇天を作っているのは、なに?
ねぇつくし、俺らもう一歩だけ、前に踏み出してみないか?
***
RRR‥…
表示を見ると、見知らぬ‥ ううん。あたしはこのナンバーを知っている。
出ようか?出まいか迷う。一度会ったのだから、避けては通れないだろう。
あたしはタップを押した。
「はい。牧野です。」
スマホの向こうからは、かつて愛した男の声がする。
あたしが傷つけた男の声がする。
***
雨の日の光景を、何度も何度も夢に見た。
俺が人生で唯一、そう唯一‥切望した女。
あっさりと、そう‥あっさりと、俺を見限った女。
何故、俺を捨てた?
何故、俺を裏切った?
そんな思いを抱えたまま、俺は過ごしてきた。
気が付けば、一歩も前に進めないままの俺がいた。
ルノールで、再びあいつを見つけた。
あの日から、一ヶ月。俺はあいつの、牧野の全てを、調べあげた。
公立高校に転入して、国立大を卒業した事。五木にトップの成績で入社し、五木のやり手営業マンとして活躍している事。五木社長も専務もお気に入りで、五木の息子に、プロポーズされたってか。
あいつの男関係も、あらいざらい調べあげた。
付き合った男は3人。フッ,今現在を入れると4人ってか。
ククッ、皮肉なもんだよな。よりにもよって、あきらがお前の相手とはよぉ。
だがよ、俺はおめぇだけ幸せなんかにしねぇよ。
誰がなんと言おうと、おめぇは、俺のもんだ。なぁ、そうだよな?
ククッ、俺のもんになんねぇーなら、俺はお前の全てを奪ってやるまでだがな。
「久しぶりだな‥元気だったか?」
「‥うん。」
聞きたい事は沢山ある。
何故、このナンバーを知っているの?
何故、このタイミングで電話をかけてきたの?
あきらとの事は知っているの?
あんたは、あたしを怨んでないの?
全てが言葉にはならなくて‥ あたしは、押し黙る。
沈黙に耐えられなくなったのか、道明寺が
「明日、五木にアポを取ってある。牧野が担当だから宜しくな。」
それだけ言って、声がしなくなる‥
呆然としながら、スマホを眺める‥
あたしが担当? 何故いまさら?
やっぱりあんたは、まだあたしを許せないの?
**
スマホを抱えたまま、一体、何分経ったのだろう?
窓の外を見る。曇天の空‥
曇天の空は、実らなかった恋を思い出す。
RRR‥
あきらからの電話。見なくても解る
曇天の空だから、あの人は、あたしの元に来てくれる。
あきらの優しさを‥ 本当は、本当は、あたしは愛し始めている。ううん。とっくに愛してる。気が付けばあきらとの未来を紡ぐ夢を見ている。
だけど、だけど、あたしは認めない。
身分違いの恋だから。
ううん‥ 違う‥
あいつを傷つけてしまったから‥
あたし一人で、幸せになってはいけない気がして‥
前に進めない。
いっそ、激しく雨が降ればいいと曇天の空を見上げ思う。
激しい雨は全ての気持ちを隠してくれるから。
曇天は、不定期連載中
更新予定、拍手コメント返信は こちら♥をご覧下さい。
↓ランキングのご協力よろしくお願い致します♥

にほんブログ村
♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
- 関連記事
-
- 曇天 14 あきつく
- 曇天 13 あきつく
- 曇天 12 あきつく
- 曇天 11 あきつく
- 曇天 10 あきつく
- 曇天 9 あきつく
- 曇天 8 あきつく