ずっとずっと 99
雪乃さんと亜矢さんが、支度を整えてあたしが来るのを待っていて下さる。
「しぃちゃん、綺麗よ」
リボンタフタのシャンパンゴールド色のドレス。
首元には、イエローダイヤのネックレスとリング
今更ながらに気が付く、このダイヤのネックレスとリングで、どの位の価値があるのだろうと。
いやいや、このドレスだって、かなりの価値のドレスなのだろう。
それだけじゃない。あたしが普段着ている服だって、化粧品だって、全てが高価なものだ。下着一枚だけで、何万円もするようなものが用意されているのだ。
何故、この人達はあたしにこんなに良くしてくれるのだろう? 薫の選んだ相手だから? ううん、違う。薫と出逢う前から、雪乃さんも亜矢さんもあたしを大事にしてくれている。本当の孫のように、娘のように、あたしを可愛がってくれている。
薫と結婚を決めなくても、今と同じように大事にしてくれていたのだろうと、容易に想像が出来る。
この人達は、何故こんなにもあたしを愛してくれるのだろう? あたしは何故この人達に、こんなにも素直に甘える事が出来るのだろう。
ママやパパ達に甘えるように、いやそれ以上に、素直に甘えることが出来るのだ。
突然、黙り込んだあたしを2人が心配する。
「どうしたの?」
2人の優しさに、あたしは、泣き出してしまいそうになる。
「ごめんなさい。.」
「片倉の事かしら?」
「薫から聞いたのですか?」
雪乃さんは、首を振りながら、嵐山の別邸でグレンダが片倉さんに怒っているのを聞いた人が、雪乃さんに教えてくれたという。
「片倉は、薫の命令とあらば何をおいても守ろうとするから、嫌な思いをしたでしょう。ごめんなさいね」
そう言って、亜矢さんがあたしに謝って下さる。
「いえ、片倉さんが嫌なワケじゃなくて、女性ばかりの会でしたので、そこに男性が入るのは、どうかなと...」
「殿方には、どうしてもその辺が理解出来ないのよね。しぃちゃんが思い悩む事なんてないですからね。」
柔らかく微笑みながら、雪乃さんがそう言って下さった。
「それにしても、薫にしては、珍しく無粋な真似ね...」
「しぃちゃんをそれだけ大切に思ってるんだと、今回は、堪えてやってね」
いいえ、違うんです...
光の森の出来事以来、薫があたしに対して疑心暗鬼になっているからなんです。
言えるわけもなく、押し黙ったあたしに、雪乃さんが
「しぃちゃん、薫を捨てないでやってね」
唐突に、そう言いだした。
「あら、雪乃ちゃん。飛躍し過ぎよ。ねぇしぃちゃん」
亜矢さんがあたしに笑顔を向ける。
瞬時に答えられなかったあたしに、一瞬、雪乃さんの表情が曇った気がした。
次の瞬間
「そうね、そんなワケないわよね。」
そう言って微笑んだのを見て、あぁ良かった。と安堵した。
女中頭の遠野さんがやって来て、雪乃さんに何やら耳打ちしている。
雪乃さんがくるりと向きを変え
「しぃちゃんに、薫が謝りに来るみたいよ。」
そう言ってウィンクする。
薫が何故ここに? まさか一緒に行くなんて言い出さないよね?
戸惑うあたしに
「うふふっ、薫はしぃちゃんが好きで好きでたまらないのね」
嬉しそうに亜矢さんが笑う。
「あ、あたし、玄関まで薫を出迎えに行ってきます。」
この場に居たたまれなくなって。部屋を飛び出していた。
*
アレンの演奏会に招待されたと言って、しぃちゃんが筒井の邸にやって来る。
薫から送られてきた参加者に合わせての装いを用意した。
シャンパンゴールドのドレスに、イエローダイヤのネックレスと指輪。
ドレスを身に纏ったしぃちゃんは、とても愛らし綺麗で、こちらまで華やいだ気分になる。
由那と共に過ごした幸せな時間が帰って来た様で、涙ぐみそうになる、
しぃちゃんの元気が無いような気がして、片倉の事を聞いてみた。
案の定、その事で薫と喧嘩をしたようだ。
今日の参加者名簿が送られてきた時点で気になっていたのだけど、グレンダの主催だという事を除いては、参加者自体格段怪しい所は何もなかった筈。 そこに片倉を行かせたがるのは何故?薫は、何をそんなに気に病んでいるのかしら?
参加者の中には、幸い私の意のままに動く人間が何人かいたので、もう既に根回しはしてある。
胸が苦しくなる。しぃちゃんが居なくなったらどうしようと‥‥
もう一度、光を失うのは嫌。強くそう思う。この娘(こ)は、私にとっても一条の光。
由那を亡くしてから、暗闇の中を彷徨い続けてきた私の光。
この娘は、私達の光。決して失うワケにはいかない。
でも、しぃちゃんがそれを望んだら? 私は断る事が出来る?
嫌、嫌。誰にもこの娘は、渡しはしない。
薫を捨てないで と懇願する。
次の瞬間、笑い飛ばしてくれるかと期待していたのに、一瞬訪れた沈黙に、私は愕然とする。
亜矢ちゃんが、場を取り直してくれなかったら、私はしぃちゃんに対して詰問してしまったかもしれない。亜矢ちゃんの機転に感謝をする。
遠野がやって来て、薫がもうじきやって来ると告げる。
あの子も不安と戦っているのだろう。
しぃちゃんに薫がやってくる事を告げると、玄関ホールまで迎えに行くと言って、慌てて駆け出して行った。
後ろ姿を見送りながら、亜矢ちゃんと目が合う。
「雪乃ちゃん、今日の参加者名簿あとでもう一度見せて下さらない?」
氷のような表情で亜矢ちゃんがそう言う。
その表情を見て、もう大丈夫だと、私は安堵する。
しぃちゃんは、誰にも渡しはしない。
更新予定、拍手コメント返信は こちら♥をご覧下さい。
↓ランキングのご協力よろしくお願い致します♥

にほんブログ村
♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
- 関連記事
-
- ずっとずっと 102
- ずっとずっと 101
- ずっとずっと 100
- ずっとずっと 99
- ずっとずっと 98
- ずっとずっと 97
- ずっとずっと 96