明日咲く花

花より男子の2次小説になります。

君と再び出逢う前の僕  雪月堂編

僕の隣でスヤスヤと眠る君と幼子を見て、僕は君と出逢った日の事を思い出していた。

お婆様に頼まれて、毎年お婆様が買い求めている便箋と封筒のセットを買い求める為に、雪月堂を訪れた。

チリンッ チリン
清潔感のある香りを漂わせた少女とすれ違う。

「大変申し訳ございません。このお品物はいま出て行かれたお客様で最後でして‥」
店員が申し訳なさそうに謝る。

僕は、駆け出していた。

さっきすれ違った少女を見つける

「す、すみません。ご迷惑だと思うのですが、その桜色の便箋と封筒を1セットで良いので譲って貰えないでしょうか?」

吸い込まれそうな大きな瞳を僕に向け、驚く少女。

アメリカに住む祖母が、一年に一度この季節に発売される桜色の便箋と封筒を楽しみにしているのだが、それで最後だったので、出来れば1セットだけでもいいので譲って欲しいとお願いをする。

少女は、ニッコリと笑って快諾してくれる。
「宜しければ全部どうぞ。」

祖母が喜びますと答えながら、僕は少女に見惚れた。

「おばあさんの事が本当に好きなんですね」

愛らしく、少女が微笑んだ。
少女の微笑みに、僕の心は高鳴り、僕の頬は赤く染まっていただろう。
お金と引き換えに便箋のセットを譲り受ける。

君が去った後に、気が付いた‥‥
なぜ君の名を聞かなかったのだろうと。

僕は、この日恋をした。漆黒の瞳をもつ少女に恋をした。

寝ても覚めても、少女の顔がちらつく。
恋などしたことなかった僕は、初めての感情に戸惑った。
義務で生きて来た僕、このまま一生義務感の為に生きていくと決心していた。
少女と出逢い、モノクロの世界に色がついた。優しく光り溢れる色がついた。


寄ってくる女性は、掃いて捨てるほど居た。女性に対する教育も受けた。
” おんな ” なんて、こんなものだと思っていた。
何時の日にか、僕は僕の役目‥ 宝珠の筒井の血を絶やさないと言う、僕の役目を果たす為に、誰かの連れて来た女性と結婚するんだろう。そう思っていた。
誰と一緒になっても一緒。そう思っていた。

出来得れば、お婆様達と波風立てずに、仲良くしていける女性ならいう事はないだろう。そう思っていた。

だけど、僕は恋をした。漆黒の瞳をもつ少女に恋をした。
夢の中の彼女は、僕に優しく微笑む。あの日のように。
来る日も、来る日も悩ましく僕に微笑む。

幾人か、女を抱いた。抱いても抱いても満たされない思い。
女なんて、誰でも一緒だと思っていた。
それなのに、それなのに、事が終わる度に虚しさだけが募っていく。

虚しさと共に、少女への思いが募る。

イェールを卒業したら、宝珠の本拠地のフランスに行くつもりでいたが‥
筒井へ、日本へ、あの日出逢った少女を探しに行こうと決意した。

2月、日本に帰る。
不思議なものだ。イェールに通うようになってから、日本には来るに変わっていたのに‥彼女に出逢ってから、日本に帰るに変わっているのだから。

筒井の邸は、いや雪乃お婆様は、小さな時から少し苦手だった。お婆様の瞳には、僕を愛する気持ちとの中に、ほんの少しだけ僕を恨む気持ちが見え隠れしていたから。
お婆様は、僕の中に母を見つけ、愛する。
お婆様は、僕の中に母を見て僕を恨む。

雪乃お婆様にとって、僕は希望であり救いであると同時に、この子さえいなければ‥そんな感情が過(よぎ)るのだろう。

2月、筒井の邸を訪れ、驚いた。
邸の中に、温かな空気が流れているのだ。昔、母と過ごした時のようだと僕は思う。

「邸の中がなんとなく変わったように感じるのですが?」
お婆様に聞く
「あらそう?内装を少し変えたからかしら?」
「そうですかね。とても素敵な感じになりました。」

お婆様の瞳の中の憂いも消えている。
この邸に、お婆様にいったい何があったのだろうか?

お婆様の僕を見つめる眼差しが、柔らかい。ただただ僕を愛する目をなさる。
いつの日以来だろう? お婆様のこんなにも優しい眼差しを見るのは‥
何かが変わり始めている。そう感じた。

「卒業したら、こちらに戻ってこようと思っているのですが‥」
僕がお爺様に告げる。お爺様はにこやかに笑い
「そうか、そうか、なら、今年のTSUTSUIセミナーは、賑やかになるな」

大層喜びながら、お爺様が話しを続ける。

「今年のセミナーには女性2名参加じゃ」

珍しい事もあるもんだ。
女性が進出する世の中になったが、世襲制度も延っているし、TSUTSUIの基準も厳しい。
その中で女性2名の参加とは、母さん達以来の快挙だ。
もしかして、僕に宛てがうつもりなのだろうか? 

いやいや、TSUTSUIの参加者には私情は挟まないだろう。周りのものも許しはしない筈だ。

優秀な女性が2名‥ 楽しみだな。そんな事を感じていた。


少女に逢えるかも?と思い、滞在中に何度か訪れた ”雪月堂” 
何度目かに訪れた時、先代店主がたまたま居合わせた。

「大変失礼なのですが‥」
先代女将が僕に問う
「由那ちゃん、宝珠様の息子さんではありませんか?」
母の名を口にする‥
「あっ、はい。」

先代女将が涙ぐみながら
「やっぱり‥お二人に良く似ていらっしゃる。」
時間があるのなら、少しお付き合いして頂戴な。と僕を奥に促す。


桜ほうじを飲みながら、先代女将が話し始める‥
「このお茶、変わってはるでしょ?」
「えぇ」
「それね、由那ちゃんと、伊織君が大好きだったお茶なのよ‥」

僕の母と父が好きだったと言う桜ほうじ。



先代女将が話し始める。父と母の物語を


「いらっしゃいませ。」
にこやかに笑う女の子。

外の通りに打ち水をする彼女を、偶然見つけた。
たまたま?うん。たまたまだよたまたま。
このお店に用事があるのを思い出したんだ。

日本の和紙は、世界に誇れるものの一つだろ?
フランスに住む友人にお土産で渡したら喜ばれるだろ?
あははっ言い訳に聞こえるかな‥

「あ、あの‥」
「はいっ。」

大きな瞳で彼女が僕を見つめる。
なんて綺麗な瞳なんだろう。

「わ、わ、和紙を一緒に選んで貰えませんか?」
「女将さんをお呼びしましょうか?」
「いや‥あの、その、若い人に送りたいので‥」
「あぁ~。でしたら私でも大丈夫ですね。」

ニコリと笑って、和紙を一緒に選んでくれる。

彼女の髪が、僕の鼻をくすぐる。
優しい匂いがする。

「‥様、お客様、お客様‥どうされました?」
何度か呼ばれたのだろうか、彼女が不思議そうな顔で僕を見る。
まさか、あなたの匂いにクラクラしてました。なんて言えるワケもなく。
「あっ、すみません。」
慌てて謝ると
クスリッと可愛く、彼女が笑った。
一目惚れってこういう感じ‥かな。

それから、毎日のように僕は、雪月堂に通った。
彼女が居る日と、居ない日と‥

店に通い出して1週間目‥
「由那ちゃんは、今日は5時からですわよ。」
女将がこっそり教えてくれた。

あははっ、頭を掻き、頭をペコリと下げながら店を出た。
「はぁっ、バレてる‥」
でも、お陰で彼女の名前が判明した。 ゆなちゃん
どんな字を書くのかな? 名字はなんて言うのかな?
一つ知ったら、もう一つ知りたくなる。
腕時計を見ると‥まだ2時。あと3時間かぁー なにして時間を潰そう。


俺は、神様に感謝した。
信号の反対側に、ゆなちゃんを発見したから‥

ゆなちゃんも、僕を見つけ「あっ」という顔をして会釈をしてくれる。
信号が変わる‥
この時を逃したら、そう思って俺は、ゆなちゃんに声をかけた。
「こんにちは」
彼女は、可愛く小首をかしげ
「こんにちは」
返事を返す。

しばし、沈黙が二人の間を流れる
「「あ、あの‥」」
二人の声が重なる。

「「あっ、どうぞ」」
もう一度、声が重なって二人で笑い合う。

「お茶でもしませんか?」
彼女を誘う。
「はい。」

花のような笑顔で答えるゆなちゃん。

ゆなちゃんのバイトの時間まで、他愛のない事を話す。
随分と幼く見えた彼女だけど、京大に通う大学4年生だった。

「幼く見えます?」
「いや‥」
「解ってるから良いんですよぉー」
プクゥッ~と、膨れる由那ちゃん。

いやいや、充分魅力的です。

あれっ?俺って女には不自由した事なかった‥よね?
なんだか、彼女の前だと色々な事が思うようにいかない。

それにしても可愛いいなぁ、と見惚れる。
そうだ、そうだ

「うんと、俺の名前は宝珠、宝珠伊織‥君の名前は?」
「筒井、筒井由那です。」
「由那ちゃん、由那ちゃんってどういう字を書くの?」


他愛もない会話をして時間が過ぎる。
彼女の連絡先を聞きたいのに、中々切り出せない。
また明日がある。明日頑張ろう。

時計が4時半を過ぎる。
「そろそろバイトなので‥また」

彼女が、またって言ってくれた事に、有頂天になった。
やったーって。

まさか、まさか‥このまんま逢えなくなるとは思わずに。

邸に戻った俺を待ち構えていたのは、今抱えてる案件の問題が出たとの連絡。
俺は慌てて、フランスに戻る準備をした。

全てが落ち着いた時には、半年が過ぎていた。
次に日本に行けるのはいつだろう?
このまま日本支社に行ってしまおうかと、真剣に考えた。
そんな時だった。父から

「伊織、お前、日本で開催されるTSUTSUIのセミナーに参加してみないか?」
と誘いを受けた。
日本? 考える前に、首を縦に振っていた。

日本に着いて真っ先に向った先は、雪月堂
キョロキョロと彼女を捜す。

女将が、俺を憶えていて
「由那ちゃんなら、先週いっぱいで辞めちゃったのよ。」
そう教えてくれる。
一足遅かった‥ 絶望感に打ちひしがれる‥

何にもやる気が起きなくて‥2日もふて寝をしてしまった。
メイドに起こされ、渋々出掛けたTSUTSUIのセミナーで‥彼女に邂逅する。

時が止まる。彼女が驚いた顔をしている。

もう、決して離さないと誓った出会いだった。



先代女将が、桜ほうじを啜りながら
「由那ちゃんも、伊織君も、あなたみたいな素敵な息子さんが持てて幸せだったのね」
そう締めくくる。

「はい。僕もこの世に誕生出来て幸せです。」
少女と出逢った後だから、素直にそう思う。

あの日の少女にまた逢える。僕はそう確信して店を出た。


4月‥
花吹雪の中で、君と邂逅する。





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♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
*************
リクエスト頂いたのは、薫の昔。
だけど……薫の初恋は、つくし。

人当たりよくスマートな薫だけど……ちゃんと生きてなかったのでね。

なので、いつか書きたいと思っていた、雪月堂さんの話しを絡めてみました。


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6 Comments

asuhana  

Re: タイトルなし

yakkoさま

そうそう。つくし好きなのよぉーー
ねっ、ねっ(笑)

いやーーーん ダメダメ 教えなーい(笑)
って、流石です。とだけお伝えしときます。





2016/02/01 (Mon) 20:57 | EDIT | REPLY |   

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2016/02/01 (Mon) 20:38 | EDIT | REPLY |   

asuhana  

Re: こんにちはm(__)m

空色さま

思い出した時に、優しく笑える。いい言葉。

明日から、ちゃんと生きよう(って、明日からかい)

2016/02/01 (Mon) 15:21 | EDIT | REPLY |   

asuhana  

Re: (*´▽`)v☆*:;;;;;:*☆おはようございます☆*:;;;;;:*☆v(´▽`*)

yukikoさま

雪月堂良かった〜 そんな風に言ってもらえて♪
ありがとうございます。
嬉しい♪

2016/02/01 (Mon) 15:18 | EDIT | REPLY |   

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2016/02/01 (Mon) 10:29 | EDIT | REPLY |   

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2016/02/01 (Mon) 10:26 | EDIT | REPLY |   

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