ずっとずっと 108
ついこないだ迄,ジュエルだったんだよねぇー。すっかり一新されていてジュエルだったのが遠い過去に感じる。
受付には、片倉さんが既に出迎えに来ている。
飛び降りてしまってから初の対面に、ちょっとドキドキする。
うーん。女は愛嬌。いやいやココは度胸で‥覚悟を決める。
「つくし様お待ちしておりました。」
「お出迎えありがとうございます。それと‥電車から勝手に飛び降りてしまってごめんなさい。」
あたしが、大きく頭を下げると‥
片倉さんが、一瞬、そう一瞬、驚いた顔をする。
「いいえ、私の方こそ、出過ぎた真似をしてしまい大変申し訳ございませんでした。」
美しい所作で、深々と頭を下げてくる。
「あの、頭をあげて下さいませんか?」
なんとなく気まずくって、目をそらす。
役員室直通のエレベーターに乗り込んだのを機に、あたしは思い切って聞いてみる
「薫に叱られましたか?」
「はい。勝手に道明寺邸にお迎えに参りました件は、大層ご立腹されておりました。」
そうだったんだ‥ 道明寺邸に向かいにきたのは、片倉さんの独断だったんだ‥
薫の指示だったのかと、疑っていた自分を恥じた。
「そうですか‥」
沈黙が、あたりを包む。
「‥‥つくし様‥‥こんな事をお願いするのは、それこそ、出過ぎた真似なのですが‥」
「はっ、はいっ、な、な、なんでしょうか?」
「薫様は大変寂しい思いをされて、お育ちになりました。薫様を、どうか、どうか、お幸せにしてあげて下さいませ。お願いでございます。」
真剣な眼差しで、あたしに伝えてくる。
あぁ、片倉さんは、仕事としてだけでは無く、薫の事を本当に大切に思っているのだと感じて、嬉しくなる。
「片倉さん、ありがとうございます。」
片倉さんが、にっこりと微笑む。
チーン
エレベーターが最上階に着く、薫があたしを出迎えてくれる。
薫には珍しく、緊張しているのだろうか? 少しだけ表情が固い。
トントンッ
「薫です。」
「入りなさい。」
「お待たせしました。」
つぅ爺、棗さんが手招きをしながら
「待っとった。待っとった。」
「2人にとっては、記念すべき初仕事になるのかな?」
棗さんが、嬉しそうに笑う。
「さて、では行くとしますか。」
そう言って、会議室に向う。
柏木さんが、ドアを開ける。皆の後ろから、隙間越しに見えるのは、スーツの軍団?
っん? つぅ爺ず? それにしては、溌溂としているなぁーなんて、暢気に思いながら薫の後ろを付いていく。
悠斗、かおるちゃん、ノア、ジョアン、類、美作さん、そして‥ 司が居た。
部屋に入ると同時に、皆が立ち上がる。
つぅ爺が、
「まぁまぁ、椅子にかけなさい。」
あたしは、薫の隣の席に腰をかける。司を気持ちがざわつく‥…
「突然、呼び立ててしまって申し訳ない。顔合わせというのも変じゃがな、この子達の結婚式の前に一度きちんと顔合わせと思ってな。」
つぅ爺が、あたしと薫を見て、嬉しそうに笑う。
セミナーの終わりを待ち構えていたように、11月後半には、合併事業のプロジェクトが本格的に動き出していくのだ。
棗さんが話し出す
「あきら君、類君、司君のお三方は、TSUTSUIセミナーの事は噂では知っているかね?」
3人が、コクンと頷く
かおるちゃんを手招きをして、横に立たせる。
「彼女は、TSUTSUIの卒業生の一人だ。神楽の伴侶としてではなく、神楽かおるとして、これから君等と関わっていく事になる。」
かおるちゃんが、優雅にお辞儀をする。
次に、あたしを立たせ、
「ここにいる全員が、彼女の事は良く知っていると思う。彼女もまたTSUTSUIの卒業生の一人だ。 もうじき宝珠つくしとして、LucyJewell で働く事になっている、星野つくし」
あたしも、お辞儀をする。
「この子ら2人にとって、大きな初仕事になる。なるべく迷惑はかけんよう、KGURAも、ジュエルも仕込んで来たので大丈夫じゃと思うが、宜しゅう頼む」
つぅ爺と棗さんが、皆に頭を下げている。
慌てて、あたしとかおるちゃんも頭をもう一度下げる。
同席していた、宝珠、筒井の秘書の面々がまるで珍しいものでもみたような顔をしている。
悠斗と、薫も驚いた顔をしている。
なんだか、あたしとかおるちゃん、凄い人物2人に頭下げさせてる?なんて思って、かおるちゃんをチラッと見ると‥目が合う。ははっ、そうだよね。ここはスマイルしとくしかないよね‥
改めて、皆の自己紹介なるものが行われている。今まで取り組んで来た代表する仕事内容の資料を渡される。
そこで、あたしが目にしたのは‥ つぅ爺から宿題として出された事のある、仕事の数々。名称は違えど、一度は目を通し、考察した事のあるものばかりだ。
特に、道明寺HDで手がけて来た案件に関しては‥ ここに書かれている全てを知っている。
そうか‥ つぅ爺は、あたしと司の事を知っていたのだ。
知っていて、将来あたしが司の隣に立つ時の為に学ばせていてくれていたのだ。
確かめる事は出来ないけれど‥ 司の隣に居て、嫌な思いをしなくても済むように、自分自身の力で隣に立てる権利を掴めるように教育して下さっていたのだろう。
多神楽で、初めて出会った時のつぅ爺を思い出していた。
つぅ爺は、毎日毎日、多神楽に遊びにきてくれたっけ。KAGURAで働いてる間に出された、沢山の課題。ジュエルで働きだしてからは、もっと多くの事を教わって来た。色々な人にも会わせてくれた。
あたしと司は、どこかでボタンを掛け間違えてしまったんだろう。
一つずれたボタンは、永遠にずれたまんまなんだろうか。
司と、もっと色々な事を話していれば良かったんだ。
そうしたら、今見る風景は、少し違っていたのかもしれない。
もう戻れやしないと知っているのに、もう思いは捨てたのに、隣にあたしの夫になる人が座っているのに‥
あたしの心を、司が占める。
「つくし、つくし」
薫が、心配そうにあたしの名前を小さく呼んでいた。
「あっ、ゴメン。ぼっとしてた。」
司君達の資料を見ながら、何か考え込んでいたつくし‥
君が消えていなくなりそうで、僕は、君の名前を呼ぶ。
君は何かを考え込んだまま、上の空で返事する。
君は、もう引き返せないんだよ
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