ずっとずっと 109
つぅ爺と棗さんが退席した後に、薫が皆を誘う。
悠斗が
「おっ、そりゃいいな」
かおるちゃんが、チラッとあたしを見て
「しぃちゃんも大変だし‥なんなら多神楽が良いのじゃなくて?ねぇっ」
「片倉に伝えて、使用人に全て用意させてあるから大丈夫だよ。逆に皆さんが来てくれないと、つくしと2人じゃ食べきれないから大変になっちゃうかな?」
薫が笑って、そう告げる。
迎えの車に乗り込む。薫があたしの指に指を絡ませる。
「つくし、さっきからどうしたの?具合悪かった?」
あたしは、慌てて首をふる。
「だったら、笑って。君はLucy Jewellの顔でもあるんだよ。」
薫が微笑んで、そう言う。
「‥はい‥」
返事をして、車の窓から外を見る。夕焼け空が広がっている。
綺麗な綺麗な赤い空。いつか見たような、赤い空。だけど、違う赤い空。
似ている様で、違う。違うのに似てる。赤い空。
このまま、どこかに消えてしまいたい。 ふと、そんな事が頭を過る。
帰る場所など、消える場所などないのに。消えてしまいたいと、頭を過る。
あたし達のペントハウスに着く。
此処に、司を迎え入れる事になるなんて思いも寄らなかった。
あたしに、こんな部屋似合わねぇーとか思ってる?
うふふっ ねっ。 あたしもそう思うよ。
それなのに、いつの間にか、此処はあたしにとっての憩いの場所なんだよ。
あたしの ”いま” は、全てそう全て宝珠の管理のもとに、あるんだよ。
違うね、現在だけじゃない。未来だって、全てが宝珠の、ううん‥薫の管理のもとにある。
咲き乱れる花園を抜け、部屋に入る。
ゲスト用のリビングの扉に向おうとする、あたしの腕をとり
「今日は、プライベート用のリビングに用意させたから。」
有無を言わせない、薫の言葉‥
プライベートルームの扉が、左右に開けられる‥
**
筒井の爺さんから、合併事業の顔合わせだと連絡が入る。
「行きたくねぇなぁー」
「行かなきゃだめでしょ」
グレンダが、腹をさすりながら幸せそうな顔して、俺を嗜める。
「司は、道明寺の代表なんだからしっかりしてよ。お腹の子のパパなんだしね」
「まぁなぁ。」
ここだけの会話を切り取りゃ、幸せな若夫婦って奴だな。
そういやぁー先月、つくしに会ってから、グレンダはやけに ” つくし贔屓 ” だ。
それにしても、変な女だ。
友好的とは言えなかった、タマとも、姉ちゃんとも、いつの間にか仲良くなって、” つくし談義 ” に、花を咲かせてやがる。
変っていやぁ、つくしも変な女だよな。 いや、不思議な魅力のある女って、奴だな。
くくっ、そういやぁー
「司、司、ねぇね」
「あっ?」
「つくしの事考えてたでしょぅ〜 優しい表情になってるよ。」
あぁ、当りだ。
俺にとっちゃ、全てのものがつくしに結びついていく。
あいつの事を思うと、ツレェ、死んじまいたくなるほどにツレェ。
それと同時に、あいつの事を思うと、幸せで幸せでたまんねぇ気持ちになる。
あいつが誰を愛してようと、あいつが誰と一緒になろうと、そんな事は,俺には、ちっとも関係ねぇんだ。
ただただ、俺はあいつを愛してる。
あいつが幸せなら、それだけでいいと思えるほどに、あいつを愛してる。
いや、違う。本当は手に入れてぇ、俺のもんにしてぇ
朝から晩まであいつを狂うくれぇ、抱きてぇ
欲しいもんは、欲しいと言って来た。欲しいもんは、全て手に入れて来た。
初めて心から欲しいと思ったもんは、つくしだった。
手に入れたと思ったのに、俺はあいつを手放しちまった。
あいつ以外、俺にとっちゃ、欲しいもんなんて、何もねぇのにな。
おい、つくし、
うめぇもんいっぱい食って、いっぱい寝てんか?
でもって、いっぺぇ笑ってっか?
「京都まで一緒に付いていこうか?」
忍び笑いしながらグレンダが聞く。
「子供じゃねぇよ。じゃぁ 行ってくっから」
俺もグレンダも、つくづく難儀な恋ってやつに落ちまったんだな。
お互いに愛せれば、楽なんだろうにな。
上手くいかねぇのが、世の中の常ってやつか。
Lucy Jewell に着く。
笑っちまうくれぇに、明るい社屋。あの船の森のイメージそのものも、社屋。
聞けば、社が統合され、全社屋が、ここと同じようなイメージで統一されてるらしい。
有り体に言えば、新社長は婚約者様にべた惚れで、婚約者のイメージらしい。
「天晴れだな」
思わず、一人呟いて、笑ちまった。
あまりにも、つくしのイメージそのもので。
光が燦々と降り注ぎ、温かい空気に包まれた社屋。
役員会議室に通され、筒井の爺様ご一行様とやらを待つ。
ほどなくして、奴らがやってきたのか、扉の外が騒がしくなる。
会議室の扉が開く。
ジジィら2人に続いて、宝珠とつくしが入ってくる。
TSUTSUIセミナーの卒業生だと、つくしと神楽の女房の紹介がされる。
筒井でのつくしの立場に、俺は、愕然となる。
あいつは、あの爺さんに心底大事にされてんだなと。
なんの後ろ盾もない女。
なのに‥あいつの周りには、あいつを、必要とする奴ら、あいつを欲する奴が沢山集まってくんだからな。
お袋に泣きつかれようと、俺が俺の正義を通していれば、俺等のいまは変わってたのかも知んねぇな。
いや、違うか。俺はやっぱり、あの瞬間、お前よりも道明寺を選んじまったんだ。だから ”もしも” は、ねぇ
顔合わせ終了後、宝珠が俺等をあいつらの住むペントハウスに誘ってきやがる。
行きたくねぇなぁ。だけど、つくしをこの目でもう少し見ていてぇ。
俺は、どんだけバカなんだろうな。
あいつらの住むペントハウスに着く。
エレベーターを降りた瞬間に、樹木が生い茂り、花々が咲き乱れる空間に案内される。
まるで、つくしのために用意されたようなペントハウス‥
扉が開く‥
居間には、ファミリー写真が飾ってある。
つくしの家族と、宝珠の家族に囲まれた写真。
あいつと宝珠の2人の写真。
友達に囲まれたあいつ等。
あいつを慈しむ宝珠の眼差し。
俺が欲しかった暮らしが此処にある。
つくしの横に居るのは、何故俺じゃない?
平静を装い、酒を飲む。
あいつの思いと共に、酒を呑む。
つくしと目が合う。時が止まり喧騒が止む。
あいつの瞳に、切な気な色が浮かんでいる。
瞬きもせずに、つくしだけを見つめる。
つくしが、目を逸らす。
腕を掴んで、あいつを連れ去りたい。
夜の帳(とばり)が降りている。
此処はこんなにも明るいのに、外は暗い‥
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