ずっとずっと 112

「‥‥そんな事は、どうでもいいのです。」
「ですが‥少しはお身体もお休めにならないと‥」
「だったら、しぃちゃんを連れて帰ってきて頂戴」
「雪乃様」

雪乃お婆様が今にも倒れてしまいそな程、顔色が悪い。
時折、僕を見る目に憎悪を感じるのは、気のせいではないだろう。


筒井の邸も、宝珠の邸も光が消え、笑いが消え、死人の館のようだ。


つくしが消えて2日目

解ったのは、つくしを乗せた電車は、特急　はしだて　だったという事。
宮津の駅で下車して、その後の消息は、解らない。
タクシー類の乗り物を使ってないのだ‥　誰かと一緒？　一体誰と？
駅構内の監視カメラに映ったのは、宮津で降りるつくし。
カメラの存在を避けたのか？たまたま偶然なのか、この後の映像がない。

つくしのここ1年の交友関係は、それこそ虱潰しに調べた。
僕が把握している以外の付き合いはない。

彼女の消息が解らない。
近隣の宿泊施設
現金だって、さしてもっているワケではないのに、
キャッシュカードもクレジットカードも使われていない。


全て僕のせいだ。僕のつまらない嫉妬が原因で、彼女を追いつめてしまったから。
司君が好きなら、それでいい。
司君と会いたいのなら幾らでも会わせてあげる。

だから、だから　帰っておいで。
君の進むべき道は、ここにしかないのだから。
一日も早く帰っておいで。


３日目の朝、つくしが見つかった。と連絡が入る。
天橋立のマリントピアに、つくしが居たのだ。僕は、僕等は安堵する。

「すぐに迎えに行きなさい。」
筒井のお爺様が僕に言う。


彼女の行動は把握出来ている。
ならば‥
「お爺様、もう少しだけ待ちませんか？」
僕は、微笑む。


無理矢理に連れ帰ったら、彼女は、また出て行ってしまうから。
出て行かないように、するのは簡単かもしれない。
だけど、自分で決めて此処に帰って来なければ、彼女の心は一生、出て行ったきりになる。


きっと彼女は帰ってくる。
僕の予感が正しければ、きっと彼女は帰って来る。


僕は、僕の予感を信じる。
君は、ここに帰ってくる。ここにしか帰れない。
そうだよね？
４日目
５日目
６日目
７日目
８日目
つくしからの連絡は、入らない。
僕は焦れる。

最後の、最後の、賭けに出る。
僕の予感が、正しい事を祈って。
最後の賭けに出る。


もう少し、もう少しで、君は落ちて来る。
僕の腕の中に、再び落ちて来る。


だから、僕は、僕に言い聞かせる。
つしくを好きなら，急くな‥

９日目
焦れた、筒井のお爺様から
「薫が迎えに行かんのなら、儂が行く」
そう怒鳴られた。　人生で初めて怒鳴られた。
「あと1日だけ待って下さい。」
僕は、そう返事する。



１０日目、見知らぬ番号から電話が入る。
つくしからの電話、彼女が僕の元に戻って来る。

多分、僕は、賭けに勝ったのだろう。
僕は、神様に感謝の言葉を捧げる。

”　ありがとうございます　”

彼女は、つくしは、もう2度と僕の前から消えはしない。
自分のお腹の中の命に気付いた筈だから。

僕は、ジョーカーを手に入れたから。
僕のジョーカーは、君のお腹の子。





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