ずっとずっと 114
この10日間の事はおろか、なんで出て行ったのかも聞いてはこない。
ただ、ただ、お腹の赤ちゃんを喜んで、あたしを抱きしめてくれる。
「明日の朝一で、病院に行かなくちゃね。具合は大丈夫?何か食べたいものは?酸っぱいもの?さっぱりしたもの?それともお風呂に入る?あっ、もう眠った方がいいかな?」
薫が饒舌に話す。
「薫‥あのね」
「男の子かなぁ、女の子かな? 僕は女の子がいいな。つくしにそっくりな女の子。あっ、でも、つくしに似ているならどっちでもいいかな。いつが予定日かな?明日病院で見て」
「‥薫」
あたしは、薫の話しを遮る。
長い長い沈黙の後に‥
「‥‥いいんだ、もう。何にも話さなくて‥。僕にとって君が今いるだけでいいんだ。」
「薫、ゴメンね。ゴメンね。」
薫がゆっくりと首をふり
「つくしは、なんにも悪くないんだよ。さっきも言ったよね?悪いのは僕だって。」
「でも‥」
「ねぇ、つくし‥僕は、君を騙して君を手に入れたんだよ?」
「そんな事ない‥」
「じゃぁ、言葉を変えるね、僕は君の弱味につけ込んで、君を手に入れたんだ‥」
「‥」
あたしは、何も言えなくなってしまった。
「ねっ。だから、僕に謝らないで‥」
「薫‥」
「僕は、つくしが好きだ。大好きだ。愛してる。ううん。僕の全てだ。」
薫が真っ直ぐにあたしを見つめる。あたしだけを見つめる。
「つくしにとっての一番は、僕じゃないのは知ってるよ。」
「‥そんな‥」
「ううん。もう、隠さなくていいんだ。」
柔らかい口調で薫が話す。
「全部、ぜーんぶ 僕のエゴ‥‥ 君を好きになったのも、君を手に入れたいと思ったのも、全部、ぜーんぶ、僕のエゴ‥ だけどね、だけどね、僕は、僕は、君を失いたくないんだ。」
「あたしも‥薫の事、好きだよ。」
「うん。つくしも僕を好きでいてくれるって言うのは知ってるよ。でもそれは‥司君への愛とは違うよね?」
「‥」
「大丈夫、大丈夫。最初から解ってたから。たださぁ〜認めたくなかっただけ。」
「‥ごめ」
「謝らないで みじめになるから。」
声を被せて、薫が叫ぶ。
「でも、いいんだ。君のお腹には、僕の子供が居る。もう、それだけでいいんだ。」
あたしの大好きな、柔らかな笑顔で微笑む。
全てを包んでくれる優しい微笑み。
「そうだ! お腹の赤ちゃんが無事に生まれたら、君にご褒美をあげる。君が一番欲しいもの。」
見惚れてしまう程、美しく微笑みながら薫が話す。
「一年に一度、司君に会わせてあげる。」
あたしは、首をふる
「いい、いい、そんなのいい‥」
「僕の君への言い付けだよ。断らないで。」
薫が、あたしを抱きしめて
「だから、つくし‥もう二度と居なくならないで‥ ずっとずっと僕の側にいて。」
返事の代わりに、薫の顔を、指でなぞる。
綺麗、何度見ても綺麗。天使みたいに美しい。
何度も何度も裏切ったあたしを責めずに、自分が悪いと彼は言う。
あまつさえも、司を愛し続けても構わないと言う。
あたしは、薫に口づけをする。
抱きしめられてあたしは眠る。
夢も見ないで、深く深く眠る。
つくしが寝たのを確かめて、お爺様に連絡を入れる。
「薫です‥」
つくしのお腹に赤ん坊が出来た事を告げる。
「そうか‥そうじゃったんだな」
万感の思いがこもった声で、お爺様がつぶやく。
外には、強い風が吹き、雨が降る。暖気は寒気に変わる。
冷たい雨が闇夜に降り続ける。
降り続けた雨は上がり、雲一つ無い空を連れて来る。
寒い空気は、空の青さを澄み渡らせる。
ぼくにとって、幸せな朝が訪れる。
つくしが、僕の隣にいる。
それだけで、僕はこんなにも幸せを感じるんだ。
君は逃げれないし、僕は君を逃がしはしない。
だから、僕は大きな大きな、君が息苦しく感じないくらい大きな鳥籠を用意するよ。
鳥籠だと気が付かないようなね。
それが、唯一君にあげられる心と身体の自由。
この中でなら、君は何を思っても、どんな行動をしても僕は許してあげる。
許してあげるなんて、尊大な態度だと思うかもしれないよね。
だけどね、これが僕の精一杯。
朝、目覚めると‥ この10日間は夢だったのじゃないかと思う程に、穏やかな朝が待っていた。
薫が笑いながら
「おはよう、つくし。あの後ね、連絡入れたらお爺様もお婆様も大変だったんだよ。」
邸の中が慌ただしくなる。
「我慢出来なくて、やって来たかな?」
ノックの音がした後に、扉が開き
「しぃちゃん」
雪乃さんが、あたしに走りより、抱きしめる。
「ありがとう。ありがとう。しぃちゃんありがとう。」
亜矢さんが、雪乃さんとあたしの2人を抱きしめる。
つぅ爺と、棗さんが、その様を微笑んで見ている。
誰一人、あたしを責めないのが、心苦しい。
叱ってくれたら、いいえ、いっそ罵ってくれたら楽になれるのかもしれない。
そんな我が儘な考えが、心に浮かぶ。
京都に着くや否や、病院に連れて行かれる。
アイレディースクリニック
予約が入れられているのだろう、待つ事なく、診察室に案内される。
俯きながら診察室に入ったあたしに
医師が、明るい声で挨拶をしてくる。
「お待ちしてました。」
お待ちしてました? あたしは顔を上げる。
目の前の医師が微笑む。
「うふっ、つくし、待っとったわぁー」
後ろを振り向くと、薫が優しく笑っていた。
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