ずっとずっと 116

つくしの居なかった、10日間を一気に取り返すように、全てのものが一斉に動き出す。

最終の衣装合わせ。こっそり覗こうとして
「薫、当日のお楽しみですよ」　
お婆様達に叱られ、奥でつくしが笑っている。
邸の中に、笑いが戻る。

彼女と出会う前、僕等は、どうやって時を過ごしていたのだろう？
人は、幸せな時に貪欲となるのだろう。


ドレスから、部屋着に着替えたつくしが、お婆様達と共に、リビングに入って来る。

「綺麗だったわよ～」
「本当に。」
わざと2人で自慢して、僕を悔しがらせる。

「コホンッ、僕が来たのは、衣装を見にではありません。」
「あらあら。ねぇ～雪乃ちゃん」
「えぇ、しっかり覗こうとしてたわよね。」

「お二人にかかると、すぐにこれだ。僕はただつくしを迎えに来ただけですよ」
2人で、一足早く婚姻届を出すために迎えに来たのだ。

お婆様達に見送られ、僕等は市役所に婚姻届けを提出しに行く。

「薫、もう一つ一緒に来て欲しい所があるの」

保健所に向かい、書類を出している。「おめでとうございます」の言葉と共に、
何かを手渡されている。何だろうと思い見つめると

「じゃーーん」
つくしが照れながら、ピンクの表紙に赤ちゃんの書かれたものを僕に見せる。

「っん？　なに？」
「母子手帳。ここに色々な事を書いていくんだよ。あっ、薫のもあるかもね。雪乃さんに聞いてみよっと」

嬉しそうに中を捲り、眺めている。

その様があまりにも可愛くて、ねぇつくし、ギュッとしてもいい？　
くくっ、こんな所で、そんな事言ったら、耳まで真っ赤にして怒るんだろうなぁー
”変な事言わないの”なんて言いながらね。

でも、ギュッとしたくて‥　どうせ怒られるんなら‥しちゃえ
後ろから、つくしをギュッと抱きしめた。案の定、耳まで真っ赤になって怒られた。

少しだけ、京都の町を二人で歩いた。宝珠つくしになった君と。


僕等が再び巡り逢った、嵐山の別邸まで車を走らせる。
「別邸は、秋の紅葉も綺麗だね」
「つくしの方が綺麗だよ。」

耳まで真っ赤になりながら‥つくしが僕をギュッとしてくれた。

「薫、お腹の赤ちゃんと、末永く宜しくお願いします。」
「ねぇつくし、僕さぁ、今、幸せで泣きそうだよ‥」

母さん
僕は、つくしに、一つだけ願いを諦めてもらったよ。
僕も、一つだけ諦めたよ。

そしたらね、幸せが待っていたんだよ。
母さんが、知ったら悲しむかな？
でもね、僕は幸せだよ。
いいよね？　幸せになっても。


両祖父母と。悠斗夫妻と、僕等の８人で入籍祝いをする。
つくしが、母子手帳をお披露目すると、歓声があがる。

「嵐山の別邸は、いつ来ても落ち着くね」
「週末だけでも、こっちに住む？」
僕の提案に頷くつくし。

嵐山の別邸は、父と母も愛した場所だ。

秋の紅葉
冬の牡丹
春の桜
夏の芙蓉

君と2人で愛でていく。
君と2人で季節を繰り返し過ごしていく。

全てを持っていると人は言う。
だけど、渇望しても、渇望しても手に入れられないものを、僕は持っている。





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