いつかあなたと陽だまりで 6 司つく
後光がさした。神から祝福を受けたあたしの天使。
愛する男の血をひいた、あたしの天使。
この子の寝顔を見る度に、司を思い出す。
司と引き換えに手に入れたあたしの命。
あたしが産んだとは思えない程、美しい子。
一度なんて‥ あたし、ナニーに間違われたんだから。
隣で、タスクが大笑いしてったけ。
親バカ上等で言わせてもらうと、マリアは何でも良く出来る。
流石,司の血だ。生まれ持った気品なんてものまで身に付けてる。
まぁ、そのお陰で、静さんの子供で通るんだけどね。
マリアを我が子の様に可愛がってくれる静さんは、時折
「うふっ、ジョアンにはいい男になってもらわなきゃだわ」
そんな事を呟いて、マリアを愛おしそうに抱きしめる。
父親きどりのタスクに
「姉さん、マリアは、ジョアンにはあげないからね」
なんて、釘を刺され
「そ、そ、そんな事考えてないわよ」
静さんが言い返す。
様式美のような一連の流れに、クスリと笑う。
タスクと静さんにジロリと睨まれると、ボブが守ってくれる。とは言え‥静さんに弱いボブは、すぐに掌を返したように、静さん側の加勢につくのだけど‥…
そして、4人で顔を見合わせ笑い合う。
マリアとジョアンがキョトンとしてから、皆の笑顔に引き込まれて笑い出す。
マリアは、愛の中で育ってきた。美しい愛の中で。
あれは、マリアが5つの時だっただろうか?
「ママ~、パパのお写真見せて」
屈託のない笑顔で、マリアが言った。
黙り込むあたしに
「ねぇママ、パパのお写真」
マリアが追い打ちをかけて来る。
「うーーん。パパのお写真、どうしてみたいのかな?」
マリアに問うてみた。
「だってね、ルノアもボワンも、マリアはママに似ていないから、貰いっ子だって言うんだもん。だからね、あたしはパパ似だからって、言ってやったの。そうしたらお写真見せろって。」
「うーーん。じゃぁ、マリアが生まれてすぐにママが抱っこしてるお写真見せてあげれば?」
幼心に、何かを感じ取ったのか、マリアは産まれたての自分とあたしの2ショットの写真で我慢した。
その後も、何度か『パパはどんなお顔?パパのお写真がみてみたい』そう言われた。
曖昧に返事をした。いつの日からかマリアは、パパの写真が見たいとは口に出さなくなった。
その代わり、司の話しは沢山してあげた。
マリアのパパはとっても素敵で、優しい人だったんだよ。って。
マリアがある日ポツリと心配そうに
「パパは、生きていたらマリアを好きになった?」
そんな風に聞いてきた。
司が、マリアの事を好きにならないワケがない。
誰よりも、きっとあたしよりも、あなた愛する筈。
あたしはマリアを膝に乗せて
「マリアを好きになるに決まってるでしょ。もう好きで好きで、大変だよ。タスクとボブに静さんをたしても敵わないくらい、マリアを好きになるよ。」
「えぇー、そうしたら大変だよねぇ〜」
「そうよ。大変よ。ジョアンとはお口きいちゃいけませんって、言うかもよ。」
マリアが嬉しそうに クスクス笑う。
「ねぇ〜 パパは、ママの事大好きだった?ママはパパの事大好きだった?」
くるくるよく変わる表情で聞いてくる。
「勿論よ。パパはママを。ママはパパを誰よりも誰よりも大好きよ。今もママはパパが大好き。」
「そうか。うん。ならいい。」
自分の中で折り合いを付けたのか、大きな笑顔で頷いた。
あたしは、マリアをギュッと抱きしめた。
そうそう、そんな時だったよね。マリアが類と出会ったのは
***
「ジョアンのケチー」
「そんな事言っても、ダメだよ。お菓子はさっきのでお終い。」
威勢の良い子供の声がして、俺は振り返った。
あれ?なんだか見覚えのある顔だなぁーなんて思ったんだ。
後ろからやってきた顔を見て、驚きつつも納得した。
そうか、見覚えのある顔だと思ったのは、目の前の男の子が静に似ていたからだと。
俺を見て、驚き固まる静に声をかける。
「静、久しぶりだね。」
「えぇ、お久しぶり。」
子供達がやってきて、俺の事を興味深く見る。
へぇー 静の子か。マジマジと顔を見る。
美しい子供達が2人。
「可愛い子達だね。静に良く似てる」
「そ、そ、そうでしょ。ジョアンにマリアって言うの。」
2人が俺に向って、優雅にお辞儀をする。
2人のあまりの優雅さに、アレ?牧野に似てる? と一瞬思った事が、消え去る。
牧野に思いを馳せる。司が結婚をした後、しばらくして‥俺と一切連絡をとらなくなった牧野‥
風の噂に、司とまた付き合い出したと聞いた。
そうか、あの2人は、どうしても離れられない運命だったんだ。と納得した。
どんな形でも、牧野の力になってあげたかったのに、牧野は俺を必要とはしなかった。俺だけじゃない。牧野と司の仲を知る人間とは、一切連絡を断ったのだ。
牧野あんたの決断だったんだろうね。
そんな牧野が、司と別れ消息不明になったと聞いたのは、かれこれ何年前になるのだろう?
何があったんだろう、何度も考えた。どこを探しても掴めない消息。
ねぇ牧野、あんた今何してるの? 今どこにいるの?
俺、牧野に会いたいなぁー
会って、あんたの笑ってる顔が見たいよ。
子供等が、俺の顔を覗き込む。
俺が顔をあげると
「うわっ、お兄ちゃまって、王子様みたい」
マリアだっけ?女の子が、俺を見て笑った。
俺の愛し続ける、ただ一人の女に似た笑顔で‥
こんな小さな女の子に、牧野を重ねるなんて俺もやきが回ったもんだと、空を仰いだ。
「マリアー ジョアン」
後ろで、2人の名を呼ぶ声がする。 2人が駆け出して行く。
静が
「夫のボブよ。」
「そっか、幸せなんだね。」
「えぇ、とっても。類はどうしてるの?」
「うーーーーん。相変わらず仕事づけの日々を送ってるよ。」
「そう。類の嬉しい報告を聞けるの待ってるわ。」
そう言い残して、静が旦那さんと子供達の元に去って行った。
後ろ姿を見送りながら、牧野に会いたいなー そんな事をもう一度強く思った。
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