ずっとずっと 124
桜子が、扉を開ける。
派手に割れた茶器と、青葉のモンブランが散乱した光景と。薫の後ろ姿が見えた
メイドの結城さんが
「大変申し訳ございません。お怪我はございませんでしたでしょうか」
すごい勢いで謝っている。
薫の声はしない。こちらをふりむきもせず、去って行く。
聞かれてしまった‥
桜子の美しい顔が固まっている。
「先輩‥‥ごめんなさい」
小さな声で呟いた。
**
何も言えないまま、ペントハウスを飛び出してしまった。
情けない顔など見られたくなかった。
あても無く彷徨って、アイクリニックを尋ねていた‥
「あらあら、色男が形無しの顔しとるねぇ、どげんしたと?」
珈琲を片手に、聞いてくる。
「まぁ、どないしたも何もなかとね‥あんたが、そげん顔しとるのは、つくしの事しかなかとよね」
「‥…どうしたら、つくしの事が嫌いになれるかな?」
「よぉわからんけど、そげんこと言っとるうちは、間違いなく嫌いにはなれへんね。」
「そっか‥嫌いになれないか‥」
「嫌いになりたいと?それとも嫌われたいと?」
「嫌われたくない‥ これ以上好きになりたくない。」
「何、言うとね。あんた達この3年、お互いを大事にやってきたとよ。好きに決まっとるねぇ。」
「決まってない‥」
しばらく沈黙した後に‥
「‥普段の冷静沈着の薫はどこいったと?」
「無理。」
「あのさぁ、意味解らんから、単語で喋らんといて。」
インディゴちゃんが、珈琲をすする音がする。
「つくしが、司君を忘れられないって‥ 好きだって‥ ねぇ、僕はどうしたらいい?」
「うーん。そげんこつ、ここで呟いとったって、つくしの心には届かんとよ?」
「嫌われる‥」
「薫のこと、嫌いなんかになりゃせんと。」
「逃げる‥」
「あんな身重でどこに逃げると?」
「ずっとずっと一緒にいて欲しい」
「ずっとずっと一緒にいればよかとよ。」
「つくしの心は、どうやったら手に入るの?」
「そげんことはわからん。なんなら白魔術でもするたい?」
「白魔術したら、手に入る?」
「うーん。あのこにはきかんと。」
「だよね」
インディゴちゃんと顔を見合わせ、笑う。
まだ大丈夫。僕は笑える。そう思う。
インディゴちゃんが
「零れる思いは零させて。溢れる思いは溢れさせとうな。」
そう言って、笑う。
「つくしが僕の事嫌いにならないかな?」
「嫌いなられたら、そん時考えたらいいんとよ。薫なら他にいくらでもいるとよ。」
「無理」
「あははっ、知っとうよ。マニアだけんね~」
「だったら、尚更。つくしが薫を好きでも嫌いでも、あんたはつくしを放せない。だったら好きだって言い続けるとよ。愛して愛して愛し抜くとよ。」
「辛い」
「じゃぁ辞める?」
「出来ない」
「だったら、辛かろうと何だろうと、仕方ないとよ。ってか、薫あんた、いい大人なんだから、単語で喋らんといてなぁ」
僕は、心にしまい込んでいた事を初めて吐露する。
「つくしと司君の事を知っていたのに、僕はつくしを手に入れたんだ。」
「そう。」
「僕さえいなければ、あの2人は‥」
「薫、人生にもしもは、なかとよ」
「でも‥」
「司君が選んだ結果。つくしが選んだ結果。薫が選んだ結果。全てが集約されて今があるとよ。だから自分一人を責めんとよ。」
「それより、あんた護衛も秘書もつけんと、勝手に出て来て良かったと? みんな心配しとるんやなかと?」
僕は慌てて、スマホの電源を入れ、片倉に連絡をとる‥
「薫様‥」
片倉の安堵した声が聞こえてくる。
「大変恐れ入りますが、つくし様も心配なさっております。どうぞご連絡を入れて差し上げて下さませ。つくし様は今身重な身でございます。何があったか存じ上げませんが、お一人で不安にされておりましので、差し出がましいですが、お願い申し上げます。」
急いで電話を切り、僕はつくしの場所に戻ろうそう決めて、後ろを振り向くと‥‥つくしが立っていた。
「迎えに来た。一緒に帰ってくれる?」
今にも泣き出しそうな君。愛おしい愛おしい僕のつくし。
「うん。」
インディゴちゃんがウィンクしてる。
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