Tea for Two1 司つく
あたしの前にあるのは、堆(うずたか)く堆く積み上げられた書類の山。
現実逃避とばかりに、人気のない屋上に上がって、ベンチに腰掛ける。
空には、真っ赤な夕暮れが広がっている。
終わんないよね?うん。絶対に今日も、午前様決定だよね?
「はぁっーー」
溜め息つくあたしのおでこに何かがあたる。
「よっ」そう言って、缶ジュースを手渡してくれる。
屋上でたまに会うようになって、最初は会釈だけだったんだけど‥
この頃は、お互いにぽつりぽつり話すようになった。
最初の印象は、怖そうな人‥ だった。
少しずつ話すようになって、たまに見せてくれる笑顔は人なつこくて‥
段々に惹かれはじめている。
話しているって言っても
空の事とか、明日の空のこととか‥一巡して空の事とか‥ って、そんなんばっかりだけど‥…
名前も、どこの部署の人かも、何も知らないのに。
ここに来るのだって、約束を交わしたわけじゃないのに‥‥
この頃は、彼がくるかなって、期待しながら屋上に来てる。
「綺麗‥だな」
夕陽に照らされてる、彼の方が綺麗だなぁっなんて思ったことはおくびにも出さないで
「綺麗だね」
そう言って、二人で空を眺める。
「「あ‥」」
声が被る。
お互いに、目でどうぞどうぞと言い合って、
「あのね」
「あのよぉ」
また声が被さって、笑い合う。一頻り笑ったあとに
「お前の名前教えてくんない?」
同じ事を考えていたんだと思ったら、嬉しくなった。
「ま、牧野 です。あっ、海外事業の法務担当です。」
「へぇー、優秀じゃん。」
「あっ、全然。今も机の上に、こーんな高く書類が積んである状態です。はい。」
嬉しくなったら、殊の外に大きな声で答えてた。
目の前の彼は、ククッククッと、笑ってる。
「あ、あの‥」
「あっ、俺、司。えっと‥ど‥」
「司さんっておっしゃるんですね~ カッコいい名字ですね。」
目の前の女が,殺人的な可愛さで、にっこりと微笑んだ。
まぁ、しばらく司さんでもいいかな?
牧野‥…この女に会ったのは、何回目だろうか?
もうかれこれ20回くらいは会ってるよな?
ってか、俺がこいつを盗み見てるのはもっとだよな?
はじめて見かけたのは、やっぱり屋上だった。
誰も行ねぇと思ったんだろうな、すげぇでけぇ声で唄ってやんの。
この屋上、昼間はちこっとは人もいるんだけどな。屋内庭園と、天空庭園作ったら、
大概の野郎共がほぼほぼそっち行くようになって夕方に人がいるのは皆無だ。
まぁ、それが狙いであとの2つを作ったんだけどよ。
偶然見つけた俺のオアシス。夕陽を見て心を癒して、仕事に戻る。
それが日課だった。
誰もこない俺のオアシス。
そのオアシスに変化を感じたのが、まだ残暑が残る季節だった。
なんとなく、人の気配を感じた。爽やかな残り香を感じたんだっけ。
ゲッ、折角の俺の癒しの場所に‥そう思った。
なのによ、いつの間にか、この爽やかな香りを探してた。
どんな女が、この香りを身に纏ってんだろうって考えた。
いつもと時間をずらしてみたら‥ ククッ デッケェ声で歌唄ってやがった。
しかも‥振りまでつけて
ワリィかと思って、その日は声をかけなかった。
その後も3ヶ月、黙ってみてた。
ようやっと、あいつと会釈できたのが、先月。
二回目の時、俺の腹がグゥーーッとなったらあいつが、綺麗にラッピングされたクッキーをくれた。甘いもんは苦手だと断ろうと思ったけどよー、折角のチャンスだと思って,食った。
あんま甘くなくて美味かった。
「うめっ」って言ったら
ニッコリ笑って
「それ、あたしの手作りなんです。」そう言った。
「司さん、司さん どうしたんですか?」
小首をかしげて、牧野が聞いてくる。
まさか、牧野お前の振り付けついてた唄う姿を思い出してたとか、可愛い笑顔を思い浮かべてたとも言えず
「空、綺麗っすね」もう一度、そう呟いた。
「もう、真っ暗ですけどね。あっ、でも星が綺麗ですね」
会う度に好きになるって顔っつーのは、こういう顔か?って、ぐれぇ可愛い顔して笑っていいやがる。
あまりの可愛さにクラクラしながら、意を決して
「飯でもどうっすか?」そう聞いた。
残念そうな表情で、って、残念そうって、思っていいんだよな?
「仕事がまだこーんなに残ってるんで、今日は残業なんです。というよりも‥午前様決定なんです。」
身振り手振りをつけながら、教えてくれる。
じゃぁ、と連絡先を聞こうと思った瞬間、スマホが音を立てる、
気を利かせてなのか、小さく手を振り口パクで ” また ” と言い、チョコの包みを一つ俺のポッケにいれながら牧野が去っていく。
チッ 舌打ちし一つして電話に出る。
「あぁ‥…すぐに戻る。」 ったく、少しは気を使えよな。チェッ、折角いいチャンスだったのによぉー そう思いながらベンチを立ち上がり、眼鏡を外す。
それにしても、海外事業部ってそんなに忙しいのかよ。
ってか、あんな小っこい女が、午前様って、変な男に襲われでもしたらどうすんだよ?
はぁっーー
**
「専務休憩中すみません‥」
「あぁ、そこにおいとけ‥」
仕事が、一段落した頃、あいつに貰った小っちゃなチョコを頬張る。
「甘っ」やっぱりあめぇーな。
なんて事を思いながらも、さっき会った牧野を思い出して思わず笑みが零れちまう。
「そういやぁ、吉野お前この前、俺付きの秘書がどうのこうの言ってたよな?」
「あっ、はい。」
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