Tea for Two 19 司つく

小っけぇ女が、笑いながら手を振っている。
道明寺の前じゃ見せねぇ、甘い甘い恋する笑顔だ。

この笑顔を見る度に、俺様の心は、パラドックスに陥りやがる。
ドックって言ったって、犬じゃねぇぞ。ジレンマ、矛盾、逆説って奴だ。

ハァッー、これぞ正しくパラドックス‥
こいつは、間違いなく“司さん”に、恋してる。
だってよぉ、すげぇ可愛いんだぞ。全身で、好きっていってやがる。
唇だって、ピンクで艶々してやがるんだ。
だけど‥
司さんに、恋してるこいつ。道明寺には、恋していない。
司さんは、俺で。俺は、司さんで。
だけど、俺＝司さんじゃなくて‥

ハァッー、なんでこんなに、なっちまいやがったんだ。
コイツに、今更俺が、司さんが俺だ。なんて言ったら、コイツは怒り狂うだろうよ。
人の心を弄んだとか、なんとか言い出すだろうよ。

そうだ、そうなんだ。この女、道明寺専務、あっ俺な、俺。
俺には、ここの所すげぇ強く出て来るようになったんだ。勿論、専務と秘書って奴の時には、そんなこと‥おくびにも出さねぇ。だけどだ、だけど‥仕事途中の無駄話ししてる時とか、仕事が終わったと同時に、すげぇ尊大なんだよ。酒が入った時なんぞ、「道明寺」呼ばわりだ。　

俺、Mか？　コイツに「道明寺」って呼ばれる度に、なんかこそばゆくなって、同時にすげぇ愛おしくなるんだな。ハァッー

「‥さん、司さん‥どうしましたか？」
俺を見上げる。くぅっーこの角度、この艶々唇。お前、なに他の男の前で見せてやがる。
いやいや、俺だ。俺。うーん。
「具合でも悪いですか？」
俺は、慌てて首をふる。
「あっ、ワリィ。この後の仕事の事考えてた。」
本当は、お前の事考えてたなんて、言えるわけもなく‥


♪♬♪♬♬♬♪♪

こいつの牧野の、スマホのアラームが鳴る。司さんタイム終了の時間だ。
「じゃぁ、また。」ちょっぴりハニカんだ笑顔で、牧野が去って行く。
後ろ姿を見送って、俺は一目散に、階段を駆け下りる。眼鏡をとって、手櫛で髪を整える‥

恋する牧野に会えて嬉しい俺がいる。反面、牧野の恋する相手は、俺じゃねぇ、司さんなんだって思うと、やりきれねぇ俺がいる。
もう、司さんになんの辞めっか？　
いいや辞めれねぇよな。コイツ悲しがるもんな。

「専務、専務、道明寺専務、珈琲入りましたよ。」
恋の余韻で、えらく愛想の良い牧野が笑う。可愛いよな。

「牧野、なんかいいことあったか？」俺が聞くと、ポッと顔を赤らめやがる。
ハァッー、この女、マジ可愛いわ。頭をふって、切り替える
「色惚けしてんなよ。」自戒の意味を含めて言い放つ。
「してませんよーだ。」
「いいや、してるだろうよ。また司さんかよ？」
からかう俺に、
「こ、こ、声が大きいですってば、吉野さんに聞こえちゃいます。専務、内緒って言ったじゃないですか。もお」そんな風に言いながら唇を尖らせる。

俺も、ここでからかうから‥話しがややこしくなんだよな。
アハハッのトホホっだな。

しゃあねぇよな。惚れた弱味って奴だもんな。

ハァッー　草津の湯にでも入りに行くか。　



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