その距離50センチ 4 あきつく
ブルーローズを眺める牧野を見て、そう思う。
ヘタレ,ヘタレ五月蝿いけれど、家族のお陰だと感謝している。
五月蝿いけれど、煩わしくはない。
時折、それはなくねぇか?の勢いだけどな。
***
司と覚悟の別れをした時、牧野がいなくなってしまいそうで、すぅっーーと消えてしまいそうで怖かった。
総二郎は、寺に修行に、類も海外で忙しくしていた時期だった。
大雨のあの日、雨に打たれている牧野を見た。
綺麗だ‥ そう思った。
手を差し伸べることも、雨の中から連れ戻す事もしなかった。
ただただ見つめてた。
誰かの手で癒すんじゃない、自分で這い上がってくるしかないから。
だけど、強く強く雨が降り、雨を身体いっぱい受け止める牧野が、消えてしまわないように、俺は見守った。
1時間くらい雨に打たれたんだろうか?
雨足が弱まった頃、牧野は、いったん目を瞑り、駅への道を歩き出した。
真っ直ぐに真っ直ぐに前を向いて歩き出す。
傘もささずに、全身びしょ濡れの牧野を、奇異に思うのか?幾人かがギョッとした顔をして見ていた。
次の日、牧野を見かけなかった。
「あきら君、これつくしちゃんに持っていってくれる?」
お袋からそう頼まれたのは、2日目の朝。
LINEを入れる。
3時間ほどしても既読マークが付かない。
電話を入れ、10回程ベルを鳴らして切ろうと思った瞬間に
「はぁ“ぃ‥」ゴホゴホしながら、電話にでた牧野。
「どうした?風邪‥か?」
「うん。寝込んでたよ。美作さんこそ電話なんて珍しいね。どうしたの何かあった?大丈夫?」
自分のが精一杯なのに、先ずは人の心配かよ。
「お袋に、牧野に渡して欲しいって頼まれごとしたものがあってさ」
「あぁ、そうなんだ」
「生ものだから、お前ん家に届けに行くよ」
「ありがとう」
薬やら、果物、おかゆやらを買い込んで、牧野の家を訪れた。
何度か呼び鈴を鳴らす。応答が無い。
寝てるのかな?
玄関に荷物をかけて去ろうとドアノブに手をかけた瞬間、ドアが開いた。
「牧野、鍵かけないと不用心」
そう声をかけても、返事がない。
何だか嫌な予感がして、部屋の中に、足を一歩踏み入れた。
真っ赤な顔をして、倒れている牧野を見つけた。
額に手をあてたら,驚く程の高熱で‥自分の着ていたコートを羽織らせ、牧野を抱き上げ、屋敷に連れ帰った。
その日から、体調が戻るまで、半月ほど我が家に滞在したんだっけかな。
「すっかりお世話になってしまって‥本当にありがとうございます」
牧野がいる事にすっかり慣れ親しんだ、我が家の姫様達3人は
「もう1日お泊まりになればいいのに」
「ずっと、このままここに住んでしまえばいいのに」
なんていいながら、引き止める。引き止める。
ブンブン首を振りながら
「いやいや、これ以上ご迷惑かけれません。今度はあたしがお礼をする番ですし」
恐縮してそう告げる牧野。
その瞬間、3人の、いや正確に言うと後ろで黙って聞いていた親父の目も光った。
断らないだろうと踏んで、牧野にバイトを持ちかけた。
「牧野さん、だったら双子達の家庭教師を頼まれてくれないかな?」
親父が、そう言った瞬間の3人の顔。尊敬と親愛の目で親父を見つめていた。
親父の株が、急上昇した瞬間。
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