その距離50センチ 7 あきつく
鼻歌を唄いながら、牧野が前を歩く。
その距離50センチ‥
手を伸ばせば、届く距離。
だけど‥
手を伸ばさなければ、届かない距離。
これが、牧野と俺の距離。
縮まりそうで、なかなか縮まらないそんな距離。
もどかしいけれど、そんな曖昧な距離に甘んじているそんな距離。
いや、違うな。もしも拒絶されたら?
そんな事を考えると埋められない距離なんだろうな。
「ご機嫌だな?」
「うふふっ、夜桜は綺麗だし、ご飯もお酒も美味しかったし、明日はお休みだし、これでご機嫌じゃなかったらバチがあたるよ〜」
バチがあたるか、俺はお前と一緒にいて知ったよ。
日常のあらゆる事が幸せに繋がっているって。
牧野は、何でも幸せにする魔法使いだよな。
って、俺‥‥何メルヘン入ってんだか‥
「ねぇ美作さん」くるりと後ろを振り向いて‥
「欲しいもの何にする?」そう聞いてくる。
欲しいもの‥牧野が欲しい。
そう言えたなら、そう一歩を踏み出せたなら、なにかがかわるんだろうな、あははっ‥だけど言えない。
それが‥俺なのかな。
後ろ手で頭を掻く。
ったくなぁー、お袋達に言われなくても、自分が一番知ってる‥ヘタレだって。
「っん?タレ?っん?タレって何?あっ!さっき話した明太子たれ付き?あははっいいよーご馳走するよ。って、今から来る?」
明太子たれ付き? 俺の頭の中はクエスチョンでいっぱいになる‥
って、今から来る?って、な、な、なんだ?もしや‥
「むふふっ、佐藤酒造の白秋も、あるよ」
「マジ?」
「うん♪」
酒に釣られ、牧野に釣られ‥‥
「適当に座ってて〜」なんて、言われて、牧野の部屋で、鎮座してる‥
白秋に、明太子、酢漬け野菜に‥モツの味噌煮込みが、テーブルの上に並ぶ。
女を口説くメニューじゃないけど、日本酒にもろ合うもんばかりだ。
切り子のグラスを傾けながら、酒を呑む。
「旨い」
「美味しいね〜朝子さんのお土産なんだよ〜美作さん好物なんでしょ?」
恐るべし‥婆ちゃん
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