刹那 01 総つく
そんな馬鹿げた話、笑われてお終いだ。
だから、誰にも話した事は無かった‥
なのに‥なんでだろうか?
目の前のコイツに話しちまったのは‥なんの気の迷いだったんだろう。
笑いもせず、バカにもせず、うんうん聞いて、あまつさえも
「きっと今頃木蓮で遊んでるね」
そう言ったんだ。
刹那‥
俺は、目の前の女に恋をしちまったんだ。
妖精の話を笑わず聞いてくれたから、恋をした?
ったく、幼稚園生か?
だけど、恋しちまったもんは、仕方ねぇんだな。
それまで、色気もくそもねぇー、ただの勤労処女だと思ってたのによぉー、
恋っつぅーのは、すげぇモンだ‥‥牧野が、キラキラ輝いて見えやがるんだ。
っん?っん?
牧野の周りを、マジで金粉が舞っている。
何度も何度も、目をこすってみたが、やっぱりキラキラ金粉が舞い踊っている。
刹那‥
牧野の背中に小さな羽根が見えた
兄貴が西門を出てから、俺の人生は、否応無く決まちまったと思ったんだ。
敷かれたレールの上を走ってく。そんな人生だと思った。
だけど、金粉が舞い踊るのを、牧野の背に羽根を見た刹那‥
俺は、こいつを是が非でも、手に入れなきゃなんねぇって、思ったんだ。
金粉だぞ?金粉。
羽根だぞ?羽根。
この女は、絶対に俺に幸せを運んで来る。
いいや俺だけじゃねぇ西門全体に幸せを運んで来る女だって。
そんな女を逃がしちゃいけねぇって。
女に惚れた理由が、木蓮の妖精を信じたからで、
その女を人生の伴侶にしようと思った決め手が、
金粉が舞い踊り女の背に羽根が生えてるのを見たから。
フッ
頭がイカレテルと思われるのが、関の山だろう。
実際、俺自身だって、頭がイカレチマッタんじゃねぇかと心配した。
でも、好きになった。欲しいと思った。そんだけだ。
自分の人生にこれ以上の後悔はいらねぇ。そう思ったんだ。
俺は、牧野を手に入れるために策を講じる事にしたんだ。
俺の背に黒い羽根が生えた瞬間かもしんねぇな。
そんでもかまわねぇ、俺は牧野を手に入れる。そう決めたんだ。
* **
「もう〜ちょっといい加減にしてよね」
「あんっ?いいだろうよ」
「もう、食べ過ぎ。あたしの無くなっちゃうじゃん」
「じゃぁ、あとで飯奢ってやるから、それ寄越せ」
俺の隣で、牧野がグチグチと文句垂れてやがる。
濃厚なキスでも一つして、そのウルセェ口を黙らしたい所だが、
手一つ握れねぇ腑抜けの俺は、こうやって牧野のあとをついて回ってんだ。
司と別れちまって、本来なら何の接点もない牧野の尻を追い回してんだ。
男友達っていう名を借りて。
女の牧野になんか興味ねぇぞってふりしながら‥
ズリィよな。あぁズリィ‥
だけどいいんだ。アイツ等は、牧野と時間を共有するチャンスを掴まなかったんだ。
俺は、それを掴んだんだからな。
「あっ、お前、明日西門の手伝いな」
「えっ、聞いてないよ」
「和尚のとこだから仕方ねぇだろうよ、お前が居ねぇと、うるせぇんだからよ」
「もぉ、明日飲み会だったのにぃー」
バァカ、知ってから態々明日に予定を組み替えたんだよ。


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