刹那 11 総つく
つくしの口から、ルタの名前が聞こえた気がした。
な、わけねぇか‥‥
つくしの身体の温もりを感じながら、俺も目を瞑る。
人肌の温もりに身を任せ、眠る。
チリーン
夢のなかで鈴の音がする。ルタが笑っている。
いつの間に、熟睡していたのだろう
「総、総、着いたよ起きて」
つくしに揺さぶられ、目が覚める。
夢現の状態で、つくしの声を聞く‥
あまりにも気持ちがよくて、思わず寝惚けたふりをして抱き締めていた
「ちょっ、ちょっ、そ‥総‥ 違う、違うって」
ジタバタ身体を動かしながら、盛んに叫んでる。
耳まで赤くして、慌てているのだろう。
「総、総、もう エロ門———」
おっ、ヤベぇ調子に乗り過ぎた。
慌てて目を開けて
「おっ、おはよう」
「おはようじゃないでしょ。お屋敷にもう着くよ」
「っん?って、お前なんで先に降りねぇんだよ」
「えっ、だって総は、若宗匠」
「関係ないだろうよ‥‥黒田申し訳ない。つくしの家に向って」
黒田が、そうですよね。とばかりに、頷いて、車がUターンする。
「総‥ねぇねぇ 苦しい‥」
「あっ、悪りぃ」
つくしを抱き締めていた手を緩める。
俺の腕の中から、出て行くな。
そう思いながら腕の力を、緩める。
品行正しきお前は、腕の力を緩めた瞬間‥
腕の中から飛び立つ。
つくしの身に付けた鈴の音が小さく小さく鳴っている。
もう少し、つくしを感じていたかった‥
その瞬間に、東雲夫人の言葉を思い出し、行き先を変更する。
「あっ、つくし‥やっぱり屋敷が先だわ」
「あっ、うん‥」
黒田にもう一度、Uターンをしてもらい、屋敷に戻る。
つくしの手を取り、車を降りる。
「えっ、ちょっ、ちょっと‥な、な、なんで‥あたしも?」
使用人が迎える中、つくしの手を握り、広間に向う。
「そ‥、若宗匠‥一人で歩けますから、手、手、手を離して下さい」
握った手を、振りほどこうと躍起になっている。
「四の五の五月蝿ぇ‥」
「五月蝿いって‥もう」
頬を膨らませて怒ってやがる。あんま、揶揄うと後が大変だ。
握った手を離し、広間に促す。
襖を開けると、色とりどりの美しい着物が、衣桁にかかっている。
一番前に鎮座しているのが、今度の茶会で着る紗の袷が掛けられている。
帯その他まで全て用意されている。
ご丁寧に、つくしの着物は、東雲の紋が入っている。
それにしても、まぁ随分と贅沢な設えだ。
一体いつから、用意を初めて来たんだろうか?
つくしの目が真ん丸に見開き‥
「総、コレって‥」
「くくっ、すげぇ数だよな」
「う、う、うん‥こ、こ、こんなに?」
「あぁ、お前んち置けねぇよな」
「うん。どうしよう」
「事務局にも、流石に置けねぇよな」
「う、う、うん‥置ける分だけにしてお返ししていいかな?」
西門に置けばいい‥そう返事をしようとした
刹那
開け放した襖から、家元夫人が顔をだし‥凛とした声で
「お疲れ様でございます」
そう声をかけてきた後に
「牧野さん、お返しなんて出来るわけなくてよ。母屋の方の衣装部屋が開いてますから、あちらに置けば良くてよ」
そう言葉を残して、部屋を出て行った‥
チリーン
鈴の音が鳴る。
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