刹那 16 総つく
溢れ出てしまわないように‥あたしは、立ち上がり、障子を開ける。
朝陽が木蓮の木を照らしている。
「木蓮‥?」
「あぁ、違う部屋からじゃ見えないもんな」
そう言いながら、窓を開ける。開け放した窓からは、朝の、ほんのり冷たい風が吹いてくる。
「木蓮の花が一斉に散るさまを見た事あるか?」
一斉に音を立て散る白木蓮‥
バラバラと大粒の雨が降るように、音を立てながら、潔い程に花を散らせる。
あたしは、コクンと小さく頷いてから
「総も見た事あるの?」
「あぁ、バラバラとでっけぇ音立てて、散るんだよなぁ」
何かを思い出しているのか?優しい笑顔を浮かべて話す。
総が、思い浮かべている何かにさえ、あたしは強く強く焼きもちを妬いている。
総の彼女でもなんでもないのに‥‥そんな資格なんて、ありもしないのに、総にこんな優しい顔をさせる人に、焼きもちを妬く。
泣きそうになるのを必死で押さえ
「うん。凄く大きな音でビックリしたよ」
傷つきやすい白木蓮は、風が吹く度に、花に傷をつけていく。茶色い筋が入ってしまう。
風よ吹くな、木蓮が誇らしげに咲く間は。
なのに、白木蓮のこの時期は、強い強い風が吹くのだ。
一陣の風が舞えば、一筋の傷を付ける。
風は、美しい空を連れてくる。
風は、新しい季節を連れてくる。
だけど‥風は、白木蓮を傷つける。
「だよな‥ビックリするよな」
総が呟いて、一人ほくそ笑む。
総の笑顔に、見惚れながら‥嫉妬する、自分の醜い感情が、嫌になる。
慌てて、首を振り、笑顔を作る。
「お腹空いちゃった‥」
戯けて、総に言う。
くしゃりと笑って
「ったく、色気もクソモねぇよな」
嬉しそうに笑いながら、あたしの髪の毛をくしゃりと撫でる。
昨日まで、文句言いながらも、総の一番近くに入れる、この位置が嬉しかった。なのに、近くに居る事が、こんなに辛いなんて苦しいなんて、思いもしなかった‥‥
調子に乗って、近づき過ぎてしまったのだろうか?
一緒に過ごさない時間も選べなくて‥あたしは、立ち止まる。
「なぁ、そう言えば‥なんで、お前‥お袋と知り合いなんだ?」
あれは、まだ道明寺と付き合ってた頃だから‥かれこれ3年前になるのかな?
道明寺に関する事を話すと、何故か不機嫌になるから、あんまり言いたくないんだよね。
そんな事を思いながら、あたしは話す。
「メープルでバイトしてた事あるでしょ?」
ピキリッ 総の眉が、片方上がる‥
道明寺と仲違いが続いてるのかな?聞きたいけど、聞いちゃいけないよね。
まぁ、取りあえず‥話を続ける。
「そこで、美智さんとは何度かお会いしててね、いつ見ても綺麗な人だなと思ってたの‥」
つくしが、お袋との出会いを話す。
メープルでバイトか‥‥
司とつくしは、付き合ってたんだから仕方ねぇ‥
そう思うけど、コイツの口からあいつに関連する事を聞くと、無性に心が騒ぎだす。
つまらねぇ、嫉妬だ。解ってても面白くない。
女に百戦錬磨?聞いてあきれる程に、つくしの前じゃ、ただの男に成り下がる。
付き合ってる訳でもねぇのに、俺の全てでコイツを埋めたくなる。
つくしの 現在(いま)も 未来も‥
あまつさえは、過去さえも、全てを俺で埋めたくなっちまう。
「‥でね‥」
俺の心を、知ってか知らずか、鈴の様な声音で話しだす。
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