刹那 20 総つく

総の手が伸びる‥美しい指先があたしの背にふれる。

心臓の音が、ドックンドックン音を立てる‥
ビクンッ
あまりにも驚いて、身体を離す。

「あっ、悪りぃ‥‥」

総の美しい指先が、空を舞う。
美しい美しい指先が、空を舞う。

この指先を掴みたい。あたしのものにしたい。
そう思う。

チリーン　鈴の音がどこかで鳴っている。


思わず触れたつくしの背中‥
抱きしめたい‥そう思った。

刹那‥
つくしの身体が俺の指先から逃げて行く。

この手で掴まえて、抱きしめたい。
指先を、つくしの身体に這わせたい‥
勇気が持てずに、指先が空を切る。


気まずくなった空気を入れ替えるために、窓を開け風を入れる。
草木の匂いが薫り立つ。
燃え立つように、薫り立つ。

未来を夢見る‥来年も再来年も、いいやずっと、つくしとこうして季節を感じたいと‥そう願う。

お前を手放したくない。いいや手放せない。


「ねぇ、総‥あとで本屋さんに行ってみない？」
ニッコリ笑って、つくしが言う。
「駅前のか？」
「うんっ」

駅まで、歩いていきたいと言うから、二人で歩く。
風を頬に感じながら‥ぶらりぶらぶら二人で歩く。

「あっ、見てみて」
小さな発見を色々しながら、歩く。
つくしと過ごす、こんな時間が愛おしい‥


なぁ、俺のもんになれ‥‥
俺に堕ちて来い‥　

俺は、願う‥‥

茶の事以外は、なにも欲しいと渇望した事など無い。
だけど‥お前だけは別だ。
俺は、お前が欲しい‥

狡い俺は、茶の道は捨てられねぇ、だから‥つくし‥お前を道連れにする。
俺がお前の全てを愛する。だから‥堕ちて来い。

「総、聞いてる？」
「あっ？　聞いてる」
「絶対、絶対、嘘だ」

ぷくっと、頬を膨らませている。

指先で、頬をつつく‥
“プシュウゥ〜”
戯けながら、クスリと笑う。


蓋が出来ずに、思いが溢れて行く‥

「つくし‥」
「っん？」
「好きだ‥」
全てを整えてなんて考え事は、どこかに消えてダイレクトに好きだと告げていた。

「あっ、なんだ〜ちゃんと聞いてたんだ」

へっ？

「うん。あたしも好きなんだよねー」

ほっ？

「やっぱり、蟹三昧ツアーがいいよねぇー」

はぁっ〜？

チリリーン
鈴の音が、愉快に響く‥


立ちくらみしそうになって‥頭を振る

「どうしたぁ？」
キョトンとした顔をして、俺の顔を覗き込む。

いやいや、どうしたじゃねぇよな‥

ハハッ　乾いた笑いが谺する。

「変な総‥ぷぷっ、変はいつもか」
いやいや、お前に言われたかねぇよな‥


チリチリチリーン　
もどかしいよと鈴が鳴る



「つくち、そう、はやくちてね」
そんな言の葉が、風に舞っている。


二人は、まだ気づかない‥‥


風が踊る。楽しげに‥





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