刹那 24 総つく

「ねぇ、ねぇ、ここはどう？」

「っん？白い虎？いいんじゃねぇの」

「だよね、和尚とか喜びそうだよね〜」

すげぇ真剣に、旅行雑誌を見てる。
ククッ　お前が一番見たいんだろうよ‥

つくしが居る生活が、早いもんで１ヶ月過ぎた。
先週は、東雲夫人に頂いた、揃いの着物を着て茶事に出た。
つくしの着た着物の、東雲の家紋は、話題を誘い‥
真しやかに、俺とつくしの婚約の噂が流れている。

誰に何を聞かれても、親父もお袋も光でさえ、否定はせずに、曖昧に微笑む。
最後に
「朝茶事で半東さんをやって頂こうと思ってましてね」
だったり
「西門の事務局を手伝って貰っているんですよ」
だったり
「彼女のお陰で西門の屋敷の中も随分と明るくなりましてね」
だったり
「女の子は、華やかで宜しいですね」
だったりしている。

肯定はしないが（いや出来ないが）否定はしない。
そもそも、西門の重鎮に気に入られているもんだから‥
噂が、楽しげに意気揚々と一人歩きしていく。

つくし一人が知らない‥


狡いよな‥
だが一度手にした光は、手放せねぇ‥
俺だけじゃなく、西門の人間全員が思っている‥‥


否が応でも、俺に期待がかかる‥
無言の圧力‥今世紀最大のプレッシャーだ。


知ってか、知らずか‥

つくしは、あーだーこうだ言いながら、予定を立てている。


その顔が可愛くて、可愛くて、思わず手を伸ばして、頬を撫でていた。

「ヒャッ」
素っ頓狂な声を出して、耳まで赤くなって

「‥い、い、いきなり何‥」
なんて、言いながら慌ててる。

「モチモチして気持ち良さそうで、触りたくなった」

ほっとした様な、でもどこか寂し気に見えるのは俺の自惚れか？

「もう‥あたしは食べ物じゃないんだから‥」

いや、つくし‥違う意味で俺は、お前が食べてぇぞ‥心の中で呟く‥

「あははっ、総はあたしなんて食べなくても、沢山いるか‥あははっ」
なんて言葉を発したあとに‥、あたしは自分自身の言葉に傷ついていた。

ガタンッ　
テーブルの上に載せていた旅行雑誌が散らばる。

「お前、それ本気で言ってんのか？」

総の怒った顔が目の前にある。
「えっ“」

「だ、か、ら、今言った事‥つくしはマジメに言ってんのか。そう聞いてんだ」

あまりの剣幕に、答えられずに身を竦める。

総の目があたしを捉える。
美しく深い眼差しが‥

あたしは、両の手で総の顔を包み込んでいた。

刹那‥
総と目が合って、総の唇と、あたしの唇が触れ合った。


これ以上触れたら‥あたしはこの男を手放せなくなる‥

チリリーン
どこかで鈴の音が鳴る。




↓ランキングのご協力よろしくお願い致します♥


にほんブログ村





♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥