刹那 25 総つく

「‥ゴメン」

口づけを、謝られて‥　
あたしの思いは、宙に舞う。

悲しい‥哀しい‥愛（かな）しい　　
と宙に舞う。


謝らないで‥そう言いたいのに‥

「えへへっ、流石の西門総二郎も足痛めてから夜遊びしてないから、女日照り？」
カナシイのに、あたしは笑顔を作る。

気がついて‥そう思いながら笑顔を作る。

総が、あたしの目も見ずに部屋を出て行く‥

あたしは、項垂れる。
悲しくて、哀しくて、愛しくて‥項垂れる。
「うぅうぅ‥う‥っ　ひっく　ひっく」
知らない内に、嗚咽をあげていた‥

チリチリチリーン　
あたしの嗚咽と共に、鈴の音が響いている‥


つくしの手が、俺の頬に触れた時‥
堪えきれずにキスをした。

次の瞬間、我に返り。
「ゴメン」
と謝っていた。
これ以上一緒の空間に居たら、つくしを押し倒してしまいそうだと思った。
刹那
つくしが、笑って今のキスを茶化してくる。

俺に、心などないと言われたようで‥哀しくて哀しくて部屋を出る。

我ながら情けない‥
そう思いながらも、これ以上一緒の部屋に居たら‥
つくしを傷つけてしまいそうで、部屋を出る。

情けない‥
本気の恋は、俺を情けない男にさせる。

もどかしい‥
不器用にしか、愛せない自分が‥

庭に出て、木蓮の木を見上げる‥

チリーンチリーンチリチリチリーン
　鈴の音が響き渡る

「そう」
俺を呼ぶ声がして振り向けば‥ルタが立っていた

「‥ルタ？」

「つくち‥かわいそうだよ」

一陣の風が吹く。
もう一度、辺りを見回した時には、誰もいなくなっていた。

俺は、慌てて、つくしを置いて来てしまった部屋に戻る‥


嗚咽が聞こえる。慌てて、襖を開けると
つくしが、むせびり泣いていた。

慌てて駆け寄り、力一杯抱きしめる。
つくしが、俺の腕の中でしゃくりをあげて泣いている。
細い肩が揺れている。

顎を持ち上げ、口づけを落とす。
唇をこじ開け、つくしの舌を絡めとる。甘い唾液が口の中に広がっていく。

何百、何千回とキスなどしてきた。
何十、何百と女を抱いた‥
なのに‥つくしとのキスは、全てのものを凌駕する。

天性の妖婦が俺の胸に抱かれている。
「つくし‥俺はお前が好きだ」

そんなに驚かなくてもいいだろうよ？と言う程に‥驚いた顔をしたつくしが、俺を見る。

「総が、あたしを？」

熱い口づけを落とした目の前の女以外‥
一体全体、誰が居るというのだ？
相変わらずの鈍感ぶりに笑いそうになるのを、一生懸命我慢して
「あぁ、お前をだ‥」
そう言って、強く強く抱きしめる。

「‥あたしも‥総が好き‥です」


もう一度見つめ合って、口づけをする。



チリーンチリーン　鈴の音が聞こえる。
チリチリチリーン　嬉しそうに響き渡る。







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