刹那 33 総つく 完
和尚が、つくしを優しく見つめる。
霞んだ俺の目に映ったのは、つくしがコクリと頷く姿だった。
いつの間に、用意されたのか ルイ•ロデレールクリスタルが用意されている。
祝いの席に、ルイか? 笑いがこみ上げてくる。
刹那‥
「花沢さんから、つくしちゃんと総二郎さんへのプレゼントですって」
お袋が、そっと耳打ちをする。
小さなカードが添えられている。
おめでとう牧野。幸せになるんだよ
総二郎、牧野を泣かしたら承知しないからね。
つくしが、類からのカードを読んで、また涙ぐんでいる。
シャンパンが抜かれ、グラスに注がれる。
和尚が
「つくしちゃんと若宗匠の、新しい門出を祝して乾杯」
「「「「「 乾杯 」」」」」
皆のグラスが、掲げられて一口口をつけたあと、皆の口から、おめでとうの言葉を浴びさせられる。
その後は、蟹三昧のどんちゃん騒ぎ。‥つくしは始終泣き笑いで‥幸せな時が過ぎていった。
チリーン
あたしの役目は終わったよ。そう言うかのように
あの日から、どこからとも鳴る鈴の音はしなくなった。
* **
「つくしちゃーん」
「つくしさん」
「牧野さん」
呼び方は違うにせよ、どこに言っても〝つくし、つくし〟
のオンパレードだ。
可愛がってもらってなんぼの世界だ。有り難い話だ‥‥
だがしかし‥家元も家本夫人も、やれ茶会の打ち合わせだ、やれ会食だ。やれ何だで、つくしを外に連れ回す。
連れ回し過ぎだろうよ?
「つくし、嫌だったら断れよ」
「嫌じゃないよ。皆さんとっても良くして下さるもの」
幾度となく交わされる会話。
ったくなぁー、俺一人がヤキモキしてる状態だ。
当初の予定より婚儀が早まった。
木蓮が一斉に花開く時期に、つくしが西門に嫁いだ。
白木蓮に見守られて、俺らは祝儀をあげた。
白い綿帽子のつくしは、美しくて美して、皆から感嘆があがった。
つくしが西門に嫁いで3度目の春。今年も白木蓮が咲き誇っている。
オギャー オギャー 元気よく 蓮が泣いている。
白木蓮の “ルタ” 腹の中の子が男だと解った時、ルタに会える。一瞬そう思った。
だけど、コイツじゃない‥ 生まれたての蓮を見た時に解った。
翌々年の春に、生まれた美桜も“ルタ”じゃなかった。
西門の家はつくしで保っている。
いまじゃすっかり家元夫人だ。
だけど‥いつでも可愛い恋女房だ。
幾年の季節が過ぎ去ったのだろう。
蓮に、嫁が来て、白木蓮の咲いた今日‥孫が生まれた。
久方ぶりに鈴の音を聴く。
そう、つくち あいにきたよ と鈴の音が鳴る。
つくしに、俺に良く似た “龍汰”は、自分の事を
“ルタ”と呼ぶ。
白木蓮の木の下で、お昼寝するのが大好きだ。
龍汰につくしと二人で鈴を手渡した。
チリーンチリーン 鈴が鳴る。
完
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こんにちはasuです。 刹那 に お付き合い頂き大変有り難うございました。
大好きな白木蓮が、一斉に音を立て花を落とすと聞いた時、
木蓮のお話を書きたいと思って生まれたのが、“刹那”になります。
刹那‥梵語で、極々短い時間をさします。一瞬そう一瞬。
時間の最小単位を表すとも言われる言葉になります
梵語の起源は、サンスクリット語になるそうです。
ここで、でてきた “ルタ” は、
サンスクリット語で 真実 を意味します。
少し、不思議なお話に仕上げてしまったので、解りにくいところが多々あった事と思いますが、
書くのがとっても楽しいお話だったので、楽しんで頂けていたら嬉しいなぁーと思っております。
asuhana