被虐の花 04 あきつく

閉じられた空間で、つくしに許された衣服は、薄衣だけ。

「なぁ、俺が居ない時も、その格好してるの？」
コクンっと頷く。愛おしい愛おしい女。

「いい子だ」
口づけを落としながら、囁いて、耳朶を齧る。

「明日、会社に来る時は、あの袋に入ってるのを着けて」

「えっ‥アレってなに？」
怯えるような表情で、つくしが俺に聞く。

「下着とスーツ。明日は、会社に類がくるからね。悪い事しないように」

「そんな‥こと‥しないよ‥」

「つくしは、男を誘うのが上手いから信用出来ない。まぁ明日はアレを着けて、ちゃんとチェックするから」

「あきらさん‥」

疑えば、キリがないと解っているのに、つくしの全てを疑ってかかってしまう。
仕事も、生活も管理しているのにも‥関わらずだ。
誰の目にも触れさせないように、閉じ込めてしまいたい。

それが叶わないから、俺は嫉妬の鬼になる。狂っているそう思いながらも、止めれない。

いつもと変わらぬ優しげな表情を浮かべながら、嫉妬の鬼になる。

「じゃぁ、今日はそろそろ帰るよ。あっ、渡して」
つくしが、普段使いのスマホと財布を俺に差し出してくる。

この部屋から、俺以外の外部に連絡出来る術はない。

「じゃぁ、明日は８時半に塚本を迎えにこさせるから」

「はい‥‥」


外から、施錠する。
つくしが、この部屋を出て行かないように、誰かに攫われてしまわないように。


つくしに必要なものは、一緒に買い物に行くか、用意をさせている。
日々の生活には、俺のカードを渡してある。贅沢はしてくれと頼んである。
だけど、財布の中の現金は、レシートと照らし合わせて、チェックを入れさせている。
我ながら、呆れ果てる事ばかりだ。

だけど‥‥つくしは、失えない。
誰にも、渡せない。


＊＊＊

迎えの車に揺られて、目を瞑る。

あの夏の日を思い出す。

つくしは「ありがとう」と囁いたあとに、震えていた。
ホテルの一室につくしを通した。下心があったわけでは決してない。

ポツリポツリとつくしが話してくれた。
俺たちの前から消えたのは、つくしの両親が、道明寺財閥が用意した手切れ金を受け取ったから。

「最初に、司のお袋さんが、用意した時は跳ね返しただろう？」
「あの後、色々あったから‥うちの両親も疲れちゃったみたいなの‥」
儚げに薄らと笑った。
けな


「不意に沸いたお金は人を狂わすの‥‥」

道明寺財閥が用意した手切れ金は１億あった。
大金を手にした、つくしの両親は徐々に壊れていったのだと言う。

「パパもママも一攫千金を夢見たの‥１億を元にしてお金を増やそうって‥」

素人が株に手を出した。100万単位で株を動かしている内に痛い目にあえば良かったのに‥運が悪い事に、一儲けしてしまったのだと言う。

「そこで止めとけば良かったのに、人間って貪欲に出来てるのよね‥」

つくしが、実家を離れ、大学生活を謳歌している頃、徐々に徐々に両親が壊れだしたのだと言う。
金の亡者‥まさしくそう変貌を遂げて行ったのだと。

「あたしが、大学で実家を離れている間に、すっかり両親は別人になっていたの」
遠い目をしながら、つくしが話す。

「先物取り引きまで手を出したの。それも‥ちょっと調べれば大暴落するって解るのにね」

手の甲を噛みながら、流れ出そうになる涙を我慢する。

ナンテキレイナンダ‥　
不謹慎にも、涙を我慢する女に‥劣情していた。



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