被虐の花 08 あきつく
つくしを見初めた御曹司、迫田真人の執念は狂気だった。
財閥を追いつめ、迫田の動きを封じ込めた筈だった。
何もかもが、迂闊だった‥‥
つくしが手に入らないと解った迫田は、つくしを連れ去った。
迫田を追った。
追いつめられたあの男は、つくしを‥突き落としたのだ。
俺の目の前で、つくしの身体が落下した。
幸いな事に、高さがそれほどなかったのと、途中の枝木がクッションになってくれたのだ。
命に別状はないと言われても、意識が戻る迄は、生きた心地がしなかった。
この世から、つくしが居なくなる‥恐怖だった。
今、思い出しても身体が震え上がる。
事件を公にはせず、迫田の始末は、祖父様に頼んだ。
その後、奴の名前を聞く事はない。
つくしの傍にいたくて、一人で置いておけなくて
祖父様に頼んで、俺自身も関西支社に1年間出向という形を取ってもらった。
つくしの一件で、爺様の跡目を継ぐことになった。
いや、つくしの事がなくても、美作の人間として何れ、跡を継ぐのは決まっていたのだ。
どういう経緯だが、つくしはそれを知ってしまった。
借金と俺の将来‥自分の為に全てを狂わせてしまったと、つくしは考えてしまったのだろう。
借金返済を名目に、祖父様から俺の秘書になり、
身の回りの世話をしろとつくしに話があったのを、つくしは黙って受け入れた。
祖父様は、ただ単に、つくしの身を案じただけなのだろう。
美作に、俺の傍に居れば安全だから。
だけど‥‥
全てが、つくしを追いつめて‥
従順な、日陰のシャガの花を作り上げてしまった。
つくしは、つくしらしく生きて欲しいと願うのに‥
俺は、つくしに被虐の花を咲かせ続けている。
放したくないから。
否、放せないから。
ほんの少し脚を引き摺って、つくしが控えの部屋に入って行く。
ブラインドの隙間から、明るく輝く外を見る‥
燕がビルの谷間を飛んでいる。
燕は、何者にも囚われていないようにみえて、それが羨ましくて、燕を見つめていた。
類が来る日は、気持ちが落ち着かない。
もしもあの日、俺じゃなく、
類があの街に、あの場所に訪れていたらと思うと、身体が心が震える‥
間違いなく、俺は傍観者で、
つくしと類を見守る立場に甘んじていたのだろうと。
いや、いまだってそうだろう。
つくしが借金を苦にしているのが解れば、直ぐさま用意するだろう。
類だけじゃないだろう。司とて同様の事だろう‥‥
つくしさえ、助けを求めれば‥‥
「あきらさん、お茶淹れ直します?」
着替え終えたつくしが、俺に声をかけてくる。
「つくし」
愛しいモノの名を呼んで、胸に抱きしめる。
シャガの花が笑う。
儚く美しく笑う。
全て罪だと解っていても‥
俺は、つくしを手放せない。
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