あなたが蝶なら‥‥

ラジオから曲が流れている。

あたしは、微睡みの中で曲を聴く。
類が、あたしを強く抱きしめる。
「どうしたの？」
そう問えば‥

ビー玉色の瞳であたしを見つめながら、わざと戯けて。
「っん？どうもしないよ。俺の小鳥ちゃんが可愛いなぁと思ってね」
類の瞳に見つめられ、あたしの顔は赤くなる。
「嫌い？」
「‥‥嫌い‥じゃないよ‥」
「じゃ‥」

次の台詞を聞くのが怖くて、バスルームに逃げ込んだ。

本当はね、
優しく笑うあなたが好き。
「つくし」
そう言って、抱きしめてくれるあなたが好き。
ついばむ様なキスをしてくれるあなたが好き。

あんたのいる場所は、此処だよ。
そう言って、あたしの心を救ってくれた、あなたを愛してる。

でも‥‥
同時に、あたしの心は、あなたを裏切り、強く強く昔と変わらずあいつを思っている。

突然終わった恋への執着‥‥
　あたしの未練‥‥　
それだけじゃない心で、あいつを思っている。

それがどれだけ、あなたを苦しめ、あなたの心を翳らせるか解っているのに‥

シャワーを浴びながら、あたしは呟く
「ごめんね」そして「ありがとう」

つくしの「ごめんね」と「ありがとう」は、聞き飽きた
きっと‥そう言うよね。

それでも‥
「ごめんね」　「ありがとう」
何度でも言うよ。

あたしの心を救ってくれたのは、あなただから。
人を愛する事は、怖くないと再び教えてくれたのはあなただから。

類のシャツを羽織り、部屋に戻る。
寝ぼけ眼のあなたが、あたしを迎える。

いつものように、髪を乾かしてもらう。
類の手が指が、あたしの髪を梳く度に、優しさに包まれる。

一緒に暮らし出して、幾つの夜を重ねたのだろう？
凍える心を、いったいどれだけ抱きしめてもらったのだろう。
震える心に、いったいどれだけ寄り添ってもらったのだろう。

この家を出て行く。何度もそう言った。
その度に
「だったら、俺が出て行く。つくしが出て行ったら、親父とお袋に殺される」

挙げ句の果てには、
「つくしが、この家を出るのはお嫁に行く時だけだよ」
そう言って優しく笑う。

愛をくれた見返りに、愛をくれとは言わないあなた。
いつでも、そっと寄り添ってくれる‥

いっそ、奪ってくれたなら‥‥
　あなただけを愛せるのに‥‥
そうじゃないから、あたしはあなたの傍にいられるのに‥
　狡いあたしは、考える

もっと、強引に、
　もっと、強くあたしを求めてと

「モトメテ？」
そう、求めて欲しいんだ。

道明寺を忘れられないのに、類に求めて欲しいんだ。
あたしの心は、類に対して‥一体どれほど迄に傲慢なのだろう。

類ならば、一生あたしを好いてくれる。
類ならば、一生あたしを裏切らない。
どこまでも、傲慢にあたしは思っているのだから。

「それも、一つの愛ですわ」
そう言ったのは、桜子だった。
激しくなくても、寄り添う愛があると‥‥

無邪気な振りをして、あたしは類を弄んでいるのかもしれない。
傷ついた振りをして、類を縛り続けているのかもしれない。

あたしは、あたしの心を持て余しているのかもしれない。



酷い女だ‥そう罵って嫌いになって欲しい。

違う‥だって、あたしは知っているのだもの。
何があろうと、類があたしを嫌いになどならないって。


あたしの心が、道明寺を求めてしまうように‥
　類の心が、あたしを求めてしまうって‥



あたしは、知っているのだから。




ズルい女が、花咲く笑顔で微笑んでいる。







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邂逅〜巡り逢い〜　まだ始まっても、いないのに（笑）
番外編になります。