被虐の花 09 あきつく
内線が響き渡る。
つくしが俺の腕の中から、するりと抜けて受話器を取る。
「‥‥えぇ‥お通しして下さい」
アポイントの10分前‥もう、類が来たようだ。
1分1秒の中で生きている男が、つくしの為にはこぞって時間を作る。
つくしの何が、こんなにも俺達の心を魅了させるのだろう。
考えても考えても答えなど出はしない。
たった一つだけ、つくしが存在するから。それが答えなんだろう。
愛に自信が持てたなら、もっと穏やかに愛する事が出来るのだろうか?
あの日、あの時抱かなければ‥‥
否、全てが運命だ。
つくしが好もうと好まざると。
俺等は、あの暑い夏の日、出逢ってしまったのだ。
コンコンッ、ノックの音がして類が部屋に入ってくる。
「牧野、元気だった?」
第一声がそれかと、俺は苦笑する。
「あんまりの挨拶だな」
「あっ、あきら居たんだ」
くすりっ、とつくしが笑う。
つくしの笑顔から、翳りが消える。
屈託のない笑顔を見た瞬間‥‥心の中に青い炎が燃え上がる。
「お茶淹れてきてくれるかな」
「はい」
類が、ソファーに腰掛け、気怠げに足を投げ出して
「ねぇーあきら、そろそろ牧野を俺の秘書にくんない?」
コイツの口からは、苦笑する様な言葉しか出てこない。
「‥‥有能な秘書は渡せないよ‥」
「あぁーあ、あきらは、ケチだよね〜」
つくしが、お茶を差し出しながらニッコリと笑って
「花沢専務は、すぐに、ご冗談ばかりおっしゃいますね」
他の男と話すな。
微笑むな。
媚を売るな。
俺の中の黒い感情が蠢く。
「ねぇ牧野、今晩食事に行こう。いいよね?あきら」
いやと言えるわけもない。つくしを見れば‥
「ごめんなさい。今日は残業で‥」
「えーっ、この前もその前も先約がって言ってたよね?何、あきらが邪魔でもしてるの?」
フルフルと首を振る‥
「仕事がたまってて‥」
「あきら、仕事なんていいよね?たまには貸してよ」
「あぁ、牧野‥今日は早帰りしていいよ」
チラッと俺を見て
「ですが‥‥」
「明日やればいいよ。今日は花沢専務の接待で」
「‥‥はい‥」
コクンと頷いて、俺を見る。
「では、そうさせて頂きます」
その瞳が、切ない程に美しい‥‥
「あぁっ」
声が上ずっていないだろうか?
表情が可笑しくないだろうか?
そんなことばかりが気になって‥
たった、数時間それだけなのに‥
気が狂いそうな程に‥なる。
フッ‥いつか、この手から自由に羽ばたいて行ってしまうかもしれないのに‥
うーーーん
類が、背筋を伸ばして
「じゃぁ、7時にグランデで」
片手をひらひらさせながら戻って行く。
見送り終えたつくしが、俺に声をかけてくる
「あきらさん‥‥いいの?」
「だめ‥って、言ったらどうするの?」
つくしが俺を見つめる。
「‥嘘だよ。たまには羽根伸ばしてくればいいさ‥‥9時には迎えにいくから」
何かを言いたそにしながらも、つくしは下を向く。
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